著者
小松 謙介 飯島 慈裕 金子 有紀 Dambaravjaa OYUNBAATAR
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.1003-1022, 2021 (Released:2021-08-28)
参考文献数
44
被引用文献数
1

本稿では,複雑な地形の一方で気象観測網が疎であるモンゴルにおいて,Global Satellite Mapping of Precipitation (GSMaP) によって作成された夏季降水量の推定値の不確実性に注目した。まず、モンゴルの気候・水文気象評価に関連して、全球降水観測ミッション(GPM)の観測情報を含む様々な降水量モニタリングプロダクトの特性の違いを検討するため、複数の降水プロダクトで報告されているモンゴル領域内の夏季平均降水量を比較した。プロダクトの経年変動は同程度だったが、記録された降水量は各プロダクトで異なっていた。雨量計補正が施されたプロダクトでは降水量が最も少なく、衛星のみのGSMaP_MVKでは降水量が最も多くなった。続いて、2016年7月にGPM主衛星がとらえたウランバートル近郊での強雨イベント事例を用いて、降水プロダクトの詳細な比較を行った。この事例では、山間部での雨量計補正が施されたGSMaP_Gaugeと雨量計補正が施されていないGSMaP_MVK の推定値が、アルゴリズムのバージョン6と7で大きく異なった。領域気象モデル(WRF)による数値実験、GPM主衛星の観測、地上雨量計の観測との相互比較によって、GSMaP_Gaugeは、GSMaP_MVKの有する大きな誤差を効果的に緩和することが示された。GSMaP_MVK の大きな誤差の原因は、アルゴリズムのバージョン7の雨量推定にあると考えられた。しかし、GSMaP_Gauge による山岳上での降水量の推定値は、地上降水観測網が存在しない局所的な降水量データの欠落により、降水量補正が持つ潜在的な過小評価の影響を受けている可能性がある。これらの知見は,GSMaPアルゴリズムのさらなる改良に参考になるとことが期待される。