著者
後藤 優育 建内 宏重 福元 喜啓 高木 優衣 大塚 直輝 小林 政史 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0219, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 変形性膝関節症(以下、膝OA)は、高齢者において高い有病率を示し、膝OA患者において、疼痛、筋力低下およびROM制限をはじめとする機能低下がみられ、さまざまな日常生活動作が障害される。膝OAの発症・進行は、歩行などの動作時に膝関節内で圧縮ストレスが引き起こされることが原因と考えられている。この圧縮ストレスを反映する指標とされるものには、外的膝屈曲モーメント(以下:KFM)や外的膝内反モーメント(以下:KAM)があり、特に先行研究では、歩行時のKAMについて検討しているものが多い。しかし、実際には膝OA患者は立ち上がり動作や階段昇降で症状を訴えることが多いにも関わらず、これらの各種動作でどの程度のモーメントが膝関節に加わっているのかは不明である。そこで、本研究は膝OA患者の歩行、立ち上がり動作、階段昇降動作に着目し,KFMとKAMの動作による違いを検討することを目的とした。【方法】 対象は地域在住の女性膝OA患者6名(年齢:55.3±4.33歳)とした。対象者の包含基準として、膝OAと診断され、独歩可能な者とした。測定課題は、歩行、椅子からの立ち上がり動作、昇段動作および降段動作とし、全て自由な速度で行った。反射マーカーをPlug in gaitモデルに準じて全身に貼付し、三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製,サンプリング周波数200Hz)および床反力計(Kistler社製,サンプリング周波数1000Hz)を使用して解析した。測定下肢はOA側としたが、両側性の膝OAの場合には、より症状の強い方をOA側と定義し測定した。立ち上がり動作時の椅子の高さは下腿(外果~膝関節裂隙)の長さとし、上肢は胸の前で組んで行った。昇段動作および降段動作には17cmの台を1段用い、OA側下肢からの昇段および非OA側下肢からの降段を行った。上肢は胸の前で組み、目線は前方を見るように指示した。各動作は十分な練習を行った後、3回測定した。データの解析区間は、歩行ではOA側の立脚相、立ち上がり動作では殿部が座面から離れてから立位までの間、昇段動作ではOA側下肢が台上についてから非OA側が台上につくまでの間、降段動作では非OA側下肢が台上から離れ、OA側下肢が台上から離れるまでの間とした。各動作時のKFMとKAMのピーク値を体重と身長で除した値(Nm/kg・m)を求め,3回の平均値を解析に使用した。統計検定には一元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較を行い、KFMおよびKAMを動作間で比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学倫理委員会の承認を得て行われた。対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上、同意書に署名を得た。【結果】 各動作におけるKFM(Nm/kg・m)は、歩行では0.32±0.09、立ち上がり動作では0.35±0.16、昇段動作では0.43±0.14、降段動作では0.52±0.18であった。統計処理の結果、降段動作のKFMは歩行、立ち上がり動作より有意に大きかった(p<0.05,p<0.01)。KAM(Nm/kg・m)は、歩行では 0.43±0.10、立ち上がり動作では0.16±0.13、昇段動作では0.50±0.14、降段動作では0.47±0.13であった。統計処理の結果、立ち上がり動作のKAMは歩行、昇段動作、降段動作より有意に小さかった(p<0.05)。また、歩行、昇段動作、降段動作の間には有意差は認めなかった。【考察】 本研究の結果より、KFMは降段動作が歩行や立ち上がり動作よりも大きいということ、また、KAMは、立ち上がり動作では小さく、歩行と階段昇降動作とでは差がないことが明らかとなった。降段動作においてKFMが歩行や立ち上がり動作よりも有意に大きかったことより、歩行や立ち上がり動作よりも降段動作で症状を訴える膝OA患者は、KFMの増大が症状を誘発している可能性が高いと考えらえる。また、KAMについては、一般的に歩行時のKAMが膝OAの進行と関連があると報告されているが、昇段動作および降段動作においても歩行時と同等のKAMが生じており、歩行のみならず階段昇降動作においても着目することの重要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究で行ったこれらの動作は、膝OA患者のリハビリプログラムや日常生活指導で広く行われる動作である。本研究は、これらの動作間でのKFMおよびKAMを比較しており、患者の訴えに合わせた訓練動作の選択や、動作指導の際に必要な知見になると考えられる。