著者
八木 優英 建内 宏重 栗生 瑞己 水上 優 本村 芳樹 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0278, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】トーマステスト変法(MTT)は片側股関節屈曲により対側股関節を伸展位にし,その際に生じる股関節内外転運動や可動域制限を捉えることで,筋張力が優位に高い股関節屈筋を推定する評価方法である。この推定は各股関節屈筋が有する,解剖学的肢位での股関節屈曲以外の運動作用を基に行われる。しかし股関節伸展位では股関節内外転運動などで,どの股関節屈筋の筋張力が優位に増加するかは明確でないため,MTTの評価結果に科学的な裏付けがあるとは言い難い。そこで股関節伸展位での股関節運動時に筋張力が増加する股関節屈筋を明示し,MTTの解釈についてのエビデンスを得ることを目的として本研究を行った。【方法】対象は健常成人男性12名(23.8±2.7歳)であった。測定肢位は膝関節より遠位をベッドから垂らした背臥位で,骨盤を非弾性ベルトでベッドに固定した。腰椎の前弯が消失するまで非利き足の股関節を屈曲させ,その位置で被験者に両手で大腿部を保持させた。利き足を股関節伸展10°,外転0°,外旋0°,膝屈曲90°の肢位(基準条件)で検者が保持した。利き足股関節角度を基準条件から他動的に動かした外転条件(外転20°),内転条件(内転15°),外旋条件(外旋15°),内旋条件(内旋15°),伸展条件(伸展25°)の5条件と基準条件の計6条件で筋張力を測定した。測定筋は腸骨筋(IL),大腿直筋(RF),縫工筋(SA),大腿筋膜張筋(TFL),長内転筋(AL),中殿筋前部線維(GM)とした。筋へのストレッチ効果を除外するために,条件間に1時間以上休憩し,筋の測定順と測定条件順は無作為に決定した。硬さの指標である筋弾性率により筋張力を推定可能なせん断波エラストグラフィー機能(Super Sonic Imagine社製)を用いて各筋の筋張力を評価した。本研究では伸張による筋張力増加を評価した。そのため各条件で筋張力の増加した筋はMTT時に,測定条件と逆の運動方向に影響することを示す。統計解析は反復測定分散分析後,計画的検定として基準条件と他条件間でWilcoxonの符号付順位検定を用いて筋弾性率を比較した。有意水準は5%とし,計画的検定では筋毎にHolm法で補正した有意水準を用いた。【結果】一元配置分散分析の結果,全筋で条件間に有意差を認めた。ILでは基準条件(23.9:kPa)に比べ外転条件(41.6),外旋条件(35.8),伸展条件(43.0)で,TFLでは基準条件(18.7)に比べ内転条件(43.2)で,RFでは基準条件(30.1)に比べ内転条件(36.7),伸展条件(37.3)で,ALでは基準条件(12.7)に比べ外転条件(20.2)で筋弾性率が有意に高かった。【結論】本研究結果から,MTTでの伸展制限はIL,RFの,外転運動・内転制限はRF,TFLの,内転運動・外転制限はIL,ALの,内旋運動・外旋制限はILの筋緊張亢進または短縮を示す所見であることが示された。本結果は健常成人を対象とした研究ではあるが,MTTの解釈に有用な知見である。
著者
清水 厳郎 長谷川 聡 本村 芳樹 梅原 潤 中村 雅俊 草野 拳 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0363, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】肩関節の運動において回旋筋腱板の担う役割は重要である。回旋筋腱板の中でも肩の拘縮や変形性肩関節症の症例においては,肩甲下筋の柔軟性が問題となると報告されている。肩甲下筋のストレッチ方法については下垂位での外旋や最大挙上位での外旋などが推奨されているが,これは運動学や解剖学的な知見を基にしたものである。Murakiらは唯一,肩甲下筋のストレッチについての定量的な検証を行い,肩甲下筋の下部線維は肩甲骨面挙上,屈曲,外転,水平外転位からの外旋によって有意に伸張されたと報告している。しかしこれは新鮮遺体を用いた研究であり,生体を用いて定量的に検証した報告はない。そこで本研究では,せん断波エラストグラフィー機能を用いて生体における効果的な肩甲下筋のストレッチ方法を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常成人男性20名(平均年齢25.2±4.3歳)とし,対象筋は非利き手側の肩甲下筋とした。肩甲下筋の伸張の程度を示す弾性率の計測は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,肩甲下筋の停止部に設定した関心領域にて求めた。測定誤差を最小化できるように,測定箇所を小結節部に統一し,3回の計測の平均値を算出した(ICC[1,3]:0.97~0.99)。弾性率は伸張の程度を示す指標で,弾性率の変化は高値を示すほど筋が伸張されていることを意味する測定肢位は下垂位(rest),下垂位外旋位(1st-ER),伸展位(Ext),水平外転位(Hab),90°外転位からの外旋位(2nd-ER)の5肢位における最終域とした。さらに,ExtとHabに対しては肩甲骨固定と外旋の有無の影響を調べるために肩甲骨固定(固定)・固定最終域での固定解除(解除)と外旋の条件を追加した。統計学的検定は,restに対する1st-ER,Ext,Hab,2nd-ERにBonferroni法で補正したt検定を行い,有意差が出た肢位に対してBonferroniの多重比較検定を行った。さらに伸展,水平外転に対して最終域,固定,解除の3条件にBonferroniの多重比較検定を,外旋の有無にt検定を行い,有意水準は5%とした。【結果】5肢位それぞれの弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はrestが64.7±9.1,1st-ERが84.9±21.4,Extが87.6±26.6,Habが95.0±35.6,2nd-ERが87.5±24.3であった。restに対し他の4肢位で弾性率が有意に高値を示し,多重比較の結果,それらの肢位間には有意な差は認めなかった。また,伸展,水平外転ともに固定は解除と比較して有意に高値を示したが,最終域と固定では有意な差を認めなかった。さらに,伸展・水平外転ともに外旋の有無で差を認めなかった。【結論】肩甲下筋のストレッチ方法としてこれまで報告されていた水平外転からの外旋や下垂位での外旋に加えて伸展や水平外転が効果的であり,さらに伸展と水平外転位においては肩甲骨を固定することでより小さい関節運動でストレッチ可能であることが示された。
著者
本村 芳樹 建内 宏重 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】筋活動バランスの観点から,股関節疾患患者などでは大殿筋に対するハムストリングスの優位な活動などの筋活動不均衡がみられることが多く,また,変形性股関節症患者では大殿筋下部線維の優位な筋萎縮などの不均一な筋萎縮も報告されている。したがって,それらを改善するためには筋の選択的トレーニングが重要であるが,ハムストリングスと大殿筋,さらに大殿筋の上部・下部線維について,種々の運動時の筋活動バランスを調査した報告は少ない。本研究の目的は,トレーニングとして多用される股伸展運動とブリッジ運動を対象として,ハムストリングスと大殿筋上部・下部線維の筋活動バランスを分析し,筋が選択的かつ効果的に活動する運動を明らかにすることである。【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常男性19名とした(年齢21.8±1.4歳)。課題は,腹臥位右股伸展(股伸展)と右片脚ブリッジ(ブリッジ)とした。股伸展では,ベッドの下半身部分を30°下方に傾斜させて骨盤をベルトで固定し,右股関節のみ伸展0°位(内外転,内外旋中間位),右膝屈曲90°位で保持させた。条件は,抵抗なし,外転抵抗(3 kg),内転抵抗(3 kg)の3種類とした。外転および内転抵抗は,伸張量を予め規定したセラバンドを用いて,両側の大腿遠位で外側および内側から抵抗を加えた。ブリッジでは,両上肢を胸の前で組み,両股伸展0°位(内外転,内外旋中間位)かつ右膝屈曲90°位,左膝伸展0°位で保持させた。条件は股伸展と同じく,抵抗なし,外転抵抗,内転抵抗の3種類とした。各課題について,測定前に十分に練習を行った。測定には,Noraxon社製表面筋電計を用いた。測定筋は,右側の大殿筋上部線維(UGM),大殿筋下部線維(LGM),大腿二頭筋長頭(BF),半腱様筋(ST)とした。各筋とも,各課題中の3秒間の平均筋活動量を求め,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量で正規化した。本研究では先行研究を参照し,二筋の筋活動量の比と分子となる筋の筋活動量との積を算出し,筋活動バランスと定義した。まず,正規化した筋活動量を用いて,UGMとLGMの筋活動量の和をGmax,BFとSTの筋活動量の和をHamとしてGmax/Ham(G/H)の比を,またUGM/LGM(U/L),LGM/UGM(L/U)の各比を算出し,それらと筋活動量との積として,Gmax×G/H(G<sup>*</sup>G/H),UGM×U/L(U<sup>*</sup>U/L),LGM×L/U(L<sup>*</sup>L/U)を算出した。股伸展とブリッジの計6課題(全て股伸展0°,膝屈曲90°)について,上記の各変数の課題間の差を対応のあるt検定およびShaffer法による修正を行った。【結果】筋活動量としては,UGMでは,股伸展・外転が他の課題より有意に大きく,股伸展・内転が最も筋活動量が小さい傾向にあった。LGMでは,股伸展・外転がブリッジ・内転より有意に大きかったが,その他の課題間では有意差は認めなかった。BF,STについては,どちらも股伸展の3課題に比べブリッジ3課題がいずれも有意に大きかった。筋活動バランスとしては,G<sup>*</sup>G/Hは,股伸展・外転のみがブリッジ3課題より有意に高かった。U<sup>*</sup>U/Lはブリッジ・抵抗なしよりも股伸展・外転およびブリッジ・外転が有意に高かった。また,L<sup>*</sup>L/Uは股伸展・内転とともに股伸展・抵抗なしも他の課題よりも有意に高値を示す傾向にあったが,この両者の間では有意差は認めなかった。【考察】本研究で用いた指標である筋活動バランスが高い課題は,比が高くかつ筋活動量も大きい運動を示している。6課題の中では,ハムストリングスに対する大殿筋の選択的トレーニングとしては,股伸展・外転が最も効果的と考えられる。大殿筋上部線維については,股伸展,片脚ブリッジともに外転抵抗での運動が効果的であると考えられる。一方,大殿筋下部線維は,筋活動量としては股伸展・外転が大きかったものの,筋活動バランスとしては,股伸展・内転や股伸展・抵抗なしが高値を示した。これらの運動では,大殿筋上部線維の筋活動が大きく減少したためと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,筋活動量の比と筋活動量の積から算出される筋活動バランスを分析することによって,ハムストリングスと大殿筋,そして大殿筋上部・下部線維を選択的にトレーニングするための重要な知見を提供するものである。
著者
本村 芳樹 建内 宏重 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1005, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】筋活動バランスの観点から,股関節疾患患者などでは大殿筋に対するハムストリングスの優位な活動などの筋活動不均衡がみられることが多く,また,変形性股関節症患者では大殿筋下部線維の優位な筋萎縮などの不均一な筋萎縮も報告されている。したがって,それらを改善するためには筋の選択的トレーニングが重要であるが,ハムストリングスと大殿筋,さらに大殿筋の上部・下部線維について,種々の運動時の筋活動バランスを調査した報告は少ない。本研究の目的は,トレーニングとして多用される股伸展運動とブリッジ運動を対象として,ハムストリングスと大殿筋上部・下部線維の筋活動バランスを分析し,筋が選択的かつ効果的に活動する運動を明らかにすることである。【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常男性19名とした(年齢21.8±1.4歳)。課題は,腹臥位右股伸展(股伸展)と右片脚ブリッジ(ブリッジ)とした。股伸展では,ベッドの下半身部分を30°下方に傾斜させて骨盤をベルトで固定し,右股関節のみ伸展0°位(内外転,内外旋中間位),右膝屈曲90°位で保持させた。条件は,抵抗なし,外転抵抗(3 kg),内転抵抗(3 kg)の3種類とした。外転および内転抵抗は,伸張量を予め規定したセラバンドを用いて,両側の大腿遠位で外側および内側から抵抗を加えた。ブリッジでは,両上肢を胸の前で組み,両股伸展0°位(内外転,内外旋中間位)かつ右膝屈曲90°位,左膝伸展0°位で保持させた。条件は股伸展と同じく,抵抗なし,外転抵抗,内転抵抗の3種類とした。各課題について,測定前に十分に練習を行った。測定には,Noraxon社製表面筋電計を用いた。測定筋は,右側の大殿筋上部線維(UGM),大殿筋下部線維(LGM),大腿二頭筋長頭(BF),半腱様筋(ST)とした。各筋とも,各課題中の3秒間の平均筋活動量を求め,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量で正規化した。本研究では先行研究を参照し,二筋の筋活動量の比と分子となる筋の筋活動量との積を算出し,筋活動バランスと定義した。まず,正規化した筋活動量を用いて,UGMとLGMの筋活動量の和をGmax,BFとSTの筋活動量の和をHamとしてGmax/Ham(G/H)の比を,またUGM/LGM(U/L),LGM/UGM(L/U)の各比を算出し,それらと筋活動量との積として,Gmax×G/H(G*G/H),UGM×U/L(U*U/L),LGM×L/U(L*L/U)を算出した。股伸展とブリッジの計6課題(全て股伸展0°,膝屈曲90°)について,上記の各変数の課題間の差を対応のあるt検定およびShaffer法による修正を行った。【結果】筋活動量としては,UGMでは,股伸展・外転が他の課題より有意に大きく,股伸展・内転が最も筋活動量が小さい傾向にあった。LGMでは,股伸展・外転がブリッジ・内転より有意に大きかったが,その他の課題間では有意差は認めなかった。BF,STについては,どちらも股伸展の3課題に比べブリッジ3課題がいずれも有意に大きかった。筋活動バランスとしては,G*G/Hは,股伸展・外転のみがブリッジ3課題より有意に高かった。U*U/Lはブリッジ・抵抗なしよりも股伸展・外転およびブリッジ・外転が有意に高かった。また,L*L/Uは股伸展・内転とともに股伸展・抵抗なしも他の課題よりも有意に高値を示す傾向にあったが,この両者の間では有意差は認めなかった。【考察】本研究で用いた指標である筋活動バランスが高い課題は,比が高くかつ筋活動量も大きい運動を示している。6課題の中では,ハムストリングスに対する大殿筋の選択的トレーニングとしては,股伸展・外転が最も効果的と考えられる。大殿筋上部線維については,股伸展,片脚ブリッジともに外転抵抗での運動が効果的であると考えられる。一方,大殿筋下部線維は,筋活動量としては股伸展・外転が大きかったものの,筋活動バランスとしては,股伸展・内転や股伸展・抵抗なしが高値を示した。これらの運動では,大殿筋上部線維の筋活動が大きく減少したためと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,筋活動量の比と筋活動量の積から算出される筋活動バランスを分析することによって,ハムストリングスと大殿筋,そして大殿筋上部・下部線維を選択的にトレーニングするための重要な知見を提供するものである。
著者
清水 厳郎 長谷川 聡 本村 芳樹 梅原 潤 中村 雅俊 草野 拳 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】肩関節の運動において回旋筋腱板の担う役割は重要である。回旋筋腱板の中でも肩の拘縮や変形性肩関節症の症例においては,肩甲下筋の柔軟性が問題となると報告されている。肩甲下筋のストレッチ方法については下垂位での外旋や最大挙上位での外旋などが推奨されているが,これは運動学や解剖学的な知見を基にしたものである。Murakiらは唯一,肩甲下筋のストレッチについての定量的な検証を行い,肩甲下筋の下部線維は肩甲骨面挙上,屈曲,外転,水平外転位からの外旋によって有意に伸張されたと報告している。しかしこれは新鮮遺体を用いた研究であり,生体を用いて定量的に検証した報告はない。そこで本研究では,せん断波エラストグラフィー機能を用いて生体における効果的な肩甲下筋のストレッチ方法を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常成人男性20名(平均年齢25.2±4.3歳)とし,対象筋は非利き手側の肩甲下筋とした。肩甲下筋の伸張の程度を示す弾性率の計測は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,肩甲下筋の停止部に設定した関心領域にて求めた。測定誤差を最小化できるように,測定箇所を小結節部に統一し,3回の計測の平均値を算出した(ICC[1,3]:0.97~0.99)。弾性率は伸張の程度を示す指標で,弾性率の変化は高値を示すほど筋が伸張されていることを意味する測定肢位は下垂位(rest),下垂位外旋位(1st-ER),伸展位(Ext),水平外転位(Hab),90°外転位からの外旋位(2nd-ER)の5肢位における最終域とした。さらに,ExtとHabに対しては肩甲骨固定と外旋の有無の影響を調べるために肩甲骨固定(固定)・固定最終域での固定解除(解除)と外旋の条件を追加した。統計学的検定は,restに対する1st-ER,Ext,Hab,2nd-ERにBonferroni法で補正したt検定を行い,有意差が出た肢位に対してBonferroniの多重比較検定を行った。さらに伸展,水平外転に対して最終域,固定,解除の3条件にBonferroniの多重比較検定を,外旋の有無にt検定を行い,有意水準は5%とした。【結果】5肢位それぞれの弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はrestが64.7±9.1,1st-ERが84.9±21.4,Extが87.6±26.6,Habが95.0±35.6,2nd-ERが87.5±24.3であった。restに対し他の4肢位で弾性率が有意に高値を示し,多重比較の結果,それらの肢位間には有意な差は認めなかった。また,伸展,水平外転ともに固定は解除と比較して有意に高値を示したが,最終域と固定では有意な差を認めなかった。さらに,伸展・水平外転ともに外旋の有無で差を認めなかった。【結論】肩甲下筋のストレッチ方法としてこれまで報告されていた水平外転からの外旋や下垂位での外旋に加えて伸展や水平外転が効果的であり,さらに伸展と水平外転位においては肩甲骨を固定することでより小さい関節運動でストレッチ可能であることが示された。
著者
簗瀬 康 中尾 彩佳 本村 芳樹 梅原 潤 駒村 智史 宮腰 晃輔 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-99_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】単一筋の伸縮によって周囲の筋膜が引き伸ばされ、隣接している筋が変形すること(筋膜張力伝達)が先行研究で報告されている。単に筋の走行を考慮すると、大腿四頭筋を構成する筋のうち、二関節筋である大腿直筋は股関節伸展かつ膝関節屈曲により伸張される。一方で、単関節筋である内側広筋や外側広筋は膝関節屈曲により伸張され、股関節肢位の影響は受けない。しかし、筋膜張力伝達の観点から考えると、大腿直筋が伸張される股関節肢位では内側広筋や外側広筋も同様に伸張される可能性がある。本研究の目的は、股関節肢位の違いが内側広筋と外側広筋の伸張の程度に与える影響を検証することとした。【方法】健常男性14名を対象とし、次の4種類の股関節肢位をランダムに行った:股関節90度屈曲位(屈曲条件)、股関節5度伸展位(伸展条件)、股関節5度伸展位かつ10度内転位(伸展内転条件)、股関節5度伸展位かつ40度外転位(伸展外転条件)。各肢位とも背臥位かつ膝関節90度屈曲位で実施した。これら4肢位および安静位で、超音波診断装置せん断波エラストグラフィ機能を用いて内側広筋と外側広筋、大腿直筋の弾性率を測定した。弾性率は高値であるほど筋が硬いことを示し、筋伸張位ほど高値となることが先行研究により示されている。各筋の弾性率について、肢位間の比較のために反復測定一元配置分散分析を行い、事後検定としてBonferroni法による多重比較を行った。有意水準は0.05とした。【結果】反復測定一元配置分散分析の結果、内側広筋と外側広筋、大腿直筋の全てにおいて主効果を認めた。各筋とも、伸展・伸展内転・伸展外転条件が安静・屈曲条件より有意に高値を示し、さらに伸展・伸展内転条件が伸展外転条件より有意に高値を示した。【考察】内側広筋と外側広筋は膝関節伸展の単関節筋であるが、股関節伸展位、あるいは股関節伸展内転位でより伸張された。これらの肢位で大腿直筋が伸張されたことにより、大腿直筋に付着する筋膜が移動し、大腿直筋に隣接している内側広筋と外側広筋も同様に伸張されたと考えられる。また、股関節伸展外転位では各筋とも、股関節伸展位や股関節伸展内転位に比べて伸張されなかった。大腿直筋は股関節外転モーメントアームを持つため、股関節外転位では短縮位になったと考えられる。さらに大腿直筋が短縮位となったことで大腿四頭筋間の筋膜による機械的相互作用が生じにくくなり、内側広筋と外側広筋は十分な伸張が得られなかったと考える。【結論】大腿直筋の伸張位である股関節伸展位、または股関節伸展かつ内転位において、膝関節伸展の単関節筋である内側広筋・外側広筋も同様に伸張されることが明らかになった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学における医の倫理委員会の承認を得た後に実施した。ヘルシンキ宣言に基づいて、被験者には実験の内容について十分に説明し、書面にて同意を得た上で研究を実施した。