著者
今泉 直美 小林 斉 井上 由樹子 中村 泰介 庄司 育央 小林 一女 磯山 恵一
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.32-36, 2017 (Released:2017-05-29)
参考文献数
9

Numb chin syndromeを初発症状として認めた急性リンパ性白血病の1例を報告する。症例は14歳男児。右口唇から下顎の痛みと痺れ,知覚麻痺を自覚し徐々に増悪した。近医小児科クリニック受診し精査加療が必要と考えられ当院耳鼻科受診した。初診時右口唇から下顎の三叉神経第3枝領域に疼痛と痺れ,知覚障害を認め,さらに右口蓋扁桃の腫大を認めた。血液検査では汎血球減少や芽球は認めず,LDH 700 U/l, sIL–2 2510 U/mlと高値を認め,造血器腫瘍が疑われた。頸部造影CT検査では右口蓋扁桃の腫大を認めた。右口蓋扁桃の生検を施行し,リンパ球様細胞のびまん性増殖を認め,免疫染色ではCD20(+), LCA(+), CD79a(+), CD10(+)でありBurkittリンパ腫が疑われた。その後骨髄検査にて成熟B細胞性白血病と診断した。化学療法開始後,右口唇から下顎の痛みと痺れ,知覚障害は徐々に改善を認め消失した。Numb chin syndromeとはオトガイ神経の単麻痺によって生じる下口唇からオトガイ部の痺れや感覚鈍麻・脱失をきたす症候群である。原因疾患は悪性腫瘍,全身性疾患,歯科疾患に大別されるが,悪性腫瘍による圧迫や浸潤が原因となることが多い。本症例のように貧血や出血傾向,易感染性,口腔内症状といった急性白血病の症状が認められなくても,口唇や下顎の痺れを初発症状として悪性腫瘍が存在することを注意し原因検索を行うべきである。
著者
志村 智隆 小宅 功一郎 粟倉 秀幸 池谷 洋一 野垣 岳稔 小林 斉 小林 一女 大氣 采女 大谷 友里恵 工藤 健人 郡司 寛之 甘利 泰伸 泉本 彩 井上 由樹子 今泉 直美
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.77-81, 2021

<p>今回,溶連菌感染後反応性関節炎(post-streptococcal reactive arthritis:PSReA)の1症例を経験したのでここに報告する。症例は39歳女性。X月Y–17日,発熱・咽頭痛を主訴に当院救急外来を受診した。口蓋扁桃への膿栓付着を認め細菌性扁桃炎の診断でアモキシシリン内服処方にて帰宅指示となっていた。X月Y日,1週間前からの発熱・咽頭痛の持続と全身的な関節痛を主訴に当科を受診した。口蓋扁桃への膿栓付着は消退し,一般採血所見はWBCの軽度上昇のみでCRP値・ASO値の上昇は認めず溶連菌迅速検査も陰性であった。咽頭痛や関節痛の症状が強く,急性リウマチ熱(acute rheumatic fever:ARF)を視野に補体価を含めた採血を提出し鎮痛薬の処方としていたが,X月Y+5日,耐え難い咽頭痛・頸部痛の出現あり当科を再診した。採血ではWBCの軽度上昇のみで赤沈値は陰性であったがASO値の上昇を認め,溶連菌感染後約10日後の関節症状出現という経過からPSReAの診断となった。PSReAはARFに類似した検査所見や症状を示すとされるが,血液検査における炎症反応の上昇や赤沈値の亢進は目立たない場合が多いとされる。ARFとは異なった疾患として分類され心合併症は起こらないものとされるが,溶連菌性扁桃炎・咽頭炎を日常診療で頻回に扱う我々耳鼻咽喉科医としては留意しておくべき病態と考えられる。</p>