著者
志村 智隆 小宅 功一郎 粟倉 秀幸 池谷 洋一 野垣 岳稔 小林 斉 小林 一女 大氣 采女 大谷 友里恵 工藤 健人 郡司 寛之 甘利 泰伸 泉本 彩 井上 由樹子 今泉 直美
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.77-81, 2021

<p>今回,溶連菌感染後反応性関節炎(post-streptococcal reactive arthritis:PSReA)の1症例を経験したのでここに報告する。症例は39歳女性。X月Y–17日,発熱・咽頭痛を主訴に当院救急外来を受診した。口蓋扁桃への膿栓付着を認め細菌性扁桃炎の診断でアモキシシリン内服処方にて帰宅指示となっていた。X月Y日,1週間前からの発熱・咽頭痛の持続と全身的な関節痛を主訴に当科を受診した。口蓋扁桃への膿栓付着は消退し,一般採血所見はWBCの軽度上昇のみでCRP値・ASO値の上昇は認めず溶連菌迅速検査も陰性であった。咽頭痛や関節痛の症状が強く,急性リウマチ熱(acute rheumatic fever:ARF)を視野に補体価を含めた採血を提出し鎮痛薬の処方としていたが,X月Y+5日,耐え難い咽頭痛・頸部痛の出現あり当科を再診した。採血ではWBCの軽度上昇のみで赤沈値は陰性であったがASO値の上昇を認め,溶連菌感染後約10日後の関節症状出現という経過からPSReAの診断となった。PSReAはARFに類似した検査所見や症状を示すとされるが,血液検査における炎症反応の上昇や赤沈値の亢進は目立たない場合が多いとされる。ARFとは異なった疾患として分類され心合併症は起こらないものとされるが,溶連菌性扁桃炎・咽頭炎を日常診療で頻回に扱う我々耳鼻咽喉科医としては留意しておくべき病態と考えられる。</p>
著者
野垣 岳稔 古田 厚子 小林 一女 門倉 義幸 洲崎 春海
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-6, 2015

【はじめに】感冒後嗅覚障害,特に重症例では改善率は悪いといわれている。中には治療により改善する例もあるが,詳しい検討は報告されていない。今回われわれは感冒後の嗅覚障害症例を対象とし,嗅覚脱失例を中心にその治療効果を検討したので報告する。【対象,方法】2002年1月から2009年12月までに昭和大学病院耳鼻咽喉科嗅覚外来を初診した患者を対象とした。感冒後の嗅覚脱失症例は171例であった。治療はステロイド薬の点鼻または漢方薬の内服を行い,ATP製剤,ビタミンB12製剤,亜鉛製剤の内服を併用した。【結果】改善率は治癒7例,軽快34例,不変130例であった。静脈性嗅覚検査の結果で分類すると,反応ありの場合のほうが改善率は高かったが,有意差はみられなかった。基準嗅力検査検知域値の結果でも有意差はみられなかった。ステロイド薬点鼻療法を170例に行い,5例治癒,22例軽快,143例不変であった。ステロイド薬点鼻療法が無効で漢方薬を内服した症例は68例あり,2例治癒,12例軽快,54例不変であった。【考察】今回の検討において,感冒後嗅覚障害で嗅覚脱失の場合でも治療により改善する症例があることが分かり,ステロイド薬点鼻が無効の場合でも漢方薬で改善する可能性があることが分かった。耳鼻咽喉科医は「嗅覚障害=ステロイド薬の点鼻」という固定観念をなくし,少しでも多くの患者により良い治療をできるよう努めなければならない。