著者
石橋 淳 木村 百合香 小林 一女
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.219-224, 2019-06-10 (Released:2019-06-25)
参考文献数
13

以前より喉頭の加齢による位置変化が嚥下に与える影響が指摘されている。今回,加齢による安静時の喉頭の位置変化を明らかにすることを目的とし頸部X線側面像を用いた検討を行った。【対象】男性258名,女性268名。【方法】第3頸椎前縁上端から第5頸椎前縁下縁を基準距離(a)として,第3頸椎前縁上端と同レベルの高さから,舌骨下縁までの距離(b),声門前連合までの距離(c),甲状軟骨下縁までの距離(d)を計測し各距離を基準距離で割り相対数値化し性別・年代別にグループ分けを行い各グループ間の数値をStudent-T検定を用いて検討した。【結果】男女間の検討では(c/a),(d/a)で男性が女性よりも有意に低位であった。男性・女性の年代間の比較では(b/a),(c/a),(d/a)のいずれも加齢により延長する傾向があった。男性の年代間の比較で40代と50代の間で,女性の年代間の比較では40代と60代の間で有意に喉頭が低位となった。【結語】喉頭低下は加齢とともに徐々に進行する。特に40代以降で急速に進行する。
著者
平野 康次郎 洲崎 勲夫 徳留 卓俊 新井 佐和 藤居 直和 嶋根 俊和 小林 一女
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.666-672, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
26

歯性副鼻腔炎は歯性感染が上顎洞および副鼻腔に波及した疾患である。不十分な根管治療後の根尖病巣や歯根嚢胞が原因となることが多い。歯根嚢胞による歯性副鼻腔炎では原因歯の治療が必要であり根管治療や歯根端切除術などが試みられるが,開口状態で行う根管治療の限界や,歯根形態や根管形態により完全な根管治療を行うことは困難であり抜歯となるケースが多い。今回我々は,歯根嚢胞による歯性副鼻腔炎の患者に対しEndoscopic Modified Medial Maxillectomy(EMMM)によって経上顎洞的に歯根嚢胞を切除し,歯根端切除術を行うことにより歯牙を温存し良好な経過を得た症例を経験したので報告する。EMMMで上顎洞にアプローチし,ナビゲーションで歯根嚢胞の位置を同定し歯根嚢胞を切除した。その後に経上顎洞的にダイヤモンドバーで歯根端切除術を行った。術後経過は良好であり術後1年6か月の時点で歯牙は温存され歯根嚢胞の再発は認めていない。EMMMは鼻腔形態を保ちつつ上顎洞への広い視野と操作性が確保できる手術方法であり,上顎洞底部の病変である歯根嚢胞に対して有用であった。また,経上顎洞的にアプローチすることにより歯根尖切除も可能であった。今後長期の経過観察とさらなる症例の蓄積が必要であるが,歯牙温存希望の歯性副鼻腔炎の患者において選択肢の一つとなり得る術式と考えられる。
著者
小松﨑 敏光 江川 峻哉 池田 賢一郎 櫛橋 幸民 池谷 洋一 浜崎 泰佑 古川 傑 水吉 朋美 浅野 雅世 小林 一女 嶋根 俊和
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.247-251, 2016-10-30 (Released:2016-11-17)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

今回われわれは,原発性肺癌疑いの精査でCT検査を行ったところ甲状腺に腫瘍を認め,穿刺吸引細胞診の結果悪性腫瘍と診断し,摘出術を行った。病理組織学的結果は,肺癌からの転移性甲状腺癌と診断した症例を経験した。転移性甲状腺癌は進行すると,呼吸や摂食に関係し,その後患者のQOLを著しく低下させるため,原発腫瘍の治療状況,全身状態,PS,腫瘍を摘出してその症例のQOLが向上するかどうかを総合的に判断して治療にあたるべきと考えられた。本症例のように急激な増大を認める症例もあり摘出時期を逸しないことも重要と考えられた。
著者
水吉 朋美 丸山 祐樹 矢野 真衣 木村 百合香 小林 一女
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.49-55, 2023-02-28 (Released:2023-03-29)
参考文献数
13

要旨: 突発性難聴治療において高気圧酸素療法 (HBOT) は全身ステロイドによる治療への反応性不良である時に二次治療として選択されることが多く, 一次治療としての HBOT に関する報告は少ない。当院で一次治療としてステロイド全身投与と HBOT を同時に施行した42症例の成績, 効果に影響を及ぼした要因について検討した。 対象の重症度は Grade1 が8例, Grade2 が11例, Grade3 が15例, Grade4 が8例であった。 治療成績は, 治癒6例, 著明回復5例, 軽度回復10例, 不変16例であった。 治療成績について治療有効群 (軽度回復以上) と不変群を比較した。高齢, めまいの有無, 高血圧, 糖尿病は治療成績に影響を与えていなかった。治療開始まで14日以上の治療遷延群では有意に成績が悪かった。 以上より, 高齢者, 高血圧, 糖尿病, めまい合併症例に対する一次治療としての HBOT の有効性が示唆された。治療遷延群は HBOT を併用しても予後不良であった。
著者
今泉 直美 小林 斉 井上 由樹子 中村 泰介 庄司 育央 小林 一女 磯山 恵一
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.32-36, 2017 (Released:2017-05-29)
参考文献数
9

Numb chin syndromeを初発症状として認めた急性リンパ性白血病の1例を報告する。症例は14歳男児。右口唇から下顎の痛みと痺れ,知覚麻痺を自覚し徐々に増悪した。近医小児科クリニック受診し精査加療が必要と考えられ当院耳鼻科受診した。初診時右口唇から下顎の三叉神経第3枝領域に疼痛と痺れ,知覚障害を認め,さらに右口蓋扁桃の腫大を認めた。血液検査では汎血球減少や芽球は認めず,LDH 700 U/l, sIL–2 2510 U/mlと高値を認め,造血器腫瘍が疑われた。頸部造影CT検査では右口蓋扁桃の腫大を認めた。右口蓋扁桃の生検を施行し,リンパ球様細胞のびまん性増殖を認め,免疫染色ではCD20(+), LCA(+), CD79a(+), CD10(+)でありBurkittリンパ腫が疑われた。その後骨髄検査にて成熟B細胞性白血病と診断した。化学療法開始後,右口唇から下顎の痛みと痺れ,知覚障害は徐々に改善を認め消失した。Numb chin syndromeとはオトガイ神経の単麻痺によって生じる下口唇からオトガイ部の痺れや感覚鈍麻・脱失をきたす症候群である。原因疾患は悪性腫瘍,全身性疾患,歯科疾患に大別されるが,悪性腫瘍による圧迫や浸潤が原因となることが多い。本症例のように貧血や出血傾向,易感染性,口腔内症状といった急性白血病の症状が認められなくても,口唇や下顎の痺れを初発症状として悪性腫瘍が存在することを注意し原因検索を行うべきである。
著者
志村 智隆 小宅 功一郎 粟倉 秀幸 池谷 洋一 野垣 岳稔 小林 斉 小林 一女 大氣 采女 大谷 友里恵 工藤 健人 郡司 寛之 甘利 泰伸 泉本 彩 井上 由樹子 今泉 直美
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.77-81, 2021

<p>今回,溶連菌感染後反応性関節炎(post-streptococcal reactive arthritis:PSReA)の1症例を経験したのでここに報告する。症例は39歳女性。X月Y–17日,発熱・咽頭痛を主訴に当院救急外来を受診した。口蓋扁桃への膿栓付着を認め細菌性扁桃炎の診断でアモキシシリン内服処方にて帰宅指示となっていた。X月Y日,1週間前からの発熱・咽頭痛の持続と全身的な関節痛を主訴に当科を受診した。口蓋扁桃への膿栓付着は消退し,一般採血所見はWBCの軽度上昇のみでCRP値・ASO値の上昇は認めず溶連菌迅速検査も陰性であった。咽頭痛や関節痛の症状が強く,急性リウマチ熱(acute rheumatic fever:ARF)を視野に補体価を含めた採血を提出し鎮痛薬の処方としていたが,X月Y+5日,耐え難い咽頭痛・頸部痛の出現あり当科を再診した。採血ではWBCの軽度上昇のみで赤沈値は陰性であったがASO値の上昇を認め,溶連菌感染後約10日後の関節症状出現という経過からPSReAの診断となった。PSReAはARFに類似した検査所見や症状を示すとされるが,血液検査における炎症反応の上昇や赤沈値の亢進は目立たない場合が多いとされる。ARFとは異なった疾患として分類され心合併症は起こらないものとされるが,溶連菌性扁桃炎・咽頭炎を日常診療で頻回に扱う我々耳鼻咽喉科医としては留意しておくべき病態と考えられる。</p>
著者
野垣 岳稔 古田 厚子 小林 一女 門倉 義幸 洲崎 春海
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-6, 2015

【はじめに】感冒後嗅覚障害,特に重症例では改善率は悪いといわれている。中には治療により改善する例もあるが,詳しい検討は報告されていない。今回われわれは感冒後の嗅覚障害症例を対象とし,嗅覚脱失例を中心にその治療効果を検討したので報告する。【対象,方法】2002年1月から2009年12月までに昭和大学病院耳鼻咽喉科嗅覚外来を初診した患者を対象とした。感冒後の嗅覚脱失症例は171例であった。治療はステロイド薬の点鼻または漢方薬の内服を行い,ATP製剤,ビタミンB12製剤,亜鉛製剤の内服を併用した。【結果】改善率は治癒7例,軽快34例,不変130例であった。静脈性嗅覚検査の結果で分類すると,反応ありの場合のほうが改善率は高かったが,有意差はみられなかった。基準嗅力検査検知域値の結果でも有意差はみられなかった。ステロイド薬点鼻療法を170例に行い,5例治癒,22例軽快,143例不変であった。ステロイド薬点鼻療法が無効で漢方薬を内服した症例は68例あり,2例治癒,12例軽快,54例不変であった。【考察】今回の検討において,感冒後嗅覚障害で嗅覚脱失の場合でも治療により改善する症例があることが分かり,ステロイド薬点鼻が無効の場合でも漢方薬で改善する可能性があることが分かった。耳鼻咽喉科医は「嗅覚障害=ステロイド薬の点鼻」という固定観念をなくし,少しでも多くの患者により良い治療をできるよう努めなければならない。