著者
木戸 博
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.305-311, 2016 (Released:2017-03-23)
参考文献数
19

インフルエンザは感染力が強く最も頻度の高い感染症の一つで,乳幼児や高齢者では重症化して死に至ることがある。近年,パンデミックインフルエンザ(H1N1)2009や高病原性鳥インフルエンザの流行が報告され,重症化機序とその対策が注目されている。このような中で,インフルエンザ感染による多臓器不全の原因として,感染が引き起こす代謝破綻と代謝不全になり易い基礎疾患と体質に関する研究が進んでいる。我々は,感染重症化の原因として,「インフルエンザ–サイトカイン–プロテアーゼ」サイクルと「代謝破綻–サイトカイン」サイクルが,サイトカインを接点に共役することで重症化が進むことを明らかにした。さらに代謝破綻機序の解析から,治療標的と治療法の解明が進んだ。さらに坑ウイルス剤による治療は,獲得免疫能を低下させ,翌年の再感染率を増加させる副作用を伴うが,イムノモジュレータ作用を持つマクロライドは,局所と全身の免疫機能を増進して再感染率を低下させた。これらの最新知見の一端を紹介する。
著者
杉山 登志郎
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.179-184, 2014 (Released:2015-03-13)
参考文献数
11

近年の罹病率研究では,発達障害は子どもの 1 割を越えるという驚くべき頻度が示される。これだけ一般的な問題は,多因子モデルが適合することが知られている。多因子モデルによって示される,より広範な素因を有するグループを筆者は発達凸凹と呼んできた。2013年に発表された新しい診断基準 DSM–5 では,多元診断がうたわれており,これは多因子モデルを前提としており,発達凸凹というとらえ方にも合致する。  発達障害の広がりに,支援の側が追いつかない現状がある。特に自閉症スペクトラム障害は,その特異な認知特性を考慮しないと,教育そのものが成立しない。さらに最近,発達障害と心的トラウマとが掛け算になった症例に出会うことが多くなった。これらの難治性症例の臨床的な特徴を紹介し,その治療について述べた。
著者
小川 昌宣
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.177-182, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
9

無侵襲的胎児遺伝学的検査(NIPT)の登場により,出生前診断の件数が増加している。その背景には,女性の妊娠年齢の高年齢化という社会的要因があり,高年妊娠では染色体異常が生じやすいという生物学的事象があり,次世代シークエンサーの技術的進歩がある。胎児の染色体数的異常を母体の血液で行うNIPTが始まると,羊水検査の件数は減少したが,出生前診断を希望する妊婦の数は激増した。NIPT実施に関する施設認定の制度が作られたが,数少ない認定施設ではNIPT希望者の大波に対応しきれなかった。カップルの希望に応えるとして,産科医ですらないのにNIPTを手がける認可外施設も現れた。遺伝学的検査の進歩は生命の選択という意識を希薄にし,その誘惑をローリスクの妊婦へと広げつつある。現代社会における生きにくさ,育てにくさといった問題の解決策として出生前診断が用いられているとすれば,私達の社会の裏側には,新たな優生思想が横たわっているのではないだろうか。
著者
片岡 祐子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.55-60, 2021 (Released:2021-07-31)
参考文献数
14

小児難聴の中で身体障害者に該当しない軽度・中等度難聴児は約30%を占める。2010年から導入された軽度・中等度難聴児への補聴器購入助成制度は現在すべての都道府県で実施され,その恩恵により補聴器を購入する児は増加している。ただし補聴器を装用しても正常聴力児と同等の聴取が可能なわけではなく,インクルーシブ教育を受ける中で問題に直面する児は多い。その問題は言語発達遅滞や学力の低下,友人とのコミュニケーション,心理面など多岐にわたり,年齢が上がるにつれて顕著化,複雑化する。それらの課題に対して,聴取の環境調整や視覚情報の提示,教育面,心理・社会面も踏まえて個別に介入や支援を行うこと,教育者や周囲の理解を啓蒙することが必要である。難聴児が成長し社会参加をするに当たり必要なセルフアドボカシースキルを確立できるような指導や支援を行うべきある。
著者
川上 一恵
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.286-289, 2016 (Released:2017-03-23)
参考文献数
11

情報通信技術(ICT)の発達は,子供の世界にも浸透している。乳幼児期からのテレビ,ビデオ,ゲーム機器への接触により子供の心身の発達に及ぼす影響が危惧され,2004年に日本小児科医会では5つの提言を行った。以来10数年を経て,どのような影響があるかすこしずつ明らかにされてきた。本項は,長時間のメディア接触が子供の言葉の発達にどのような影響を与えるのかをまとめ,対応方法についても概説する。
著者
宮坂 実木子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.73-81, 2005 (Released:2012-09-24)
参考文献数
22

A child is not a small adult. The characteristic feature of pediatric diagnostic imaging has growth and development. And pediatric head and neck pathologies depend on the age. The pathologic processes of the pediatric head and neck can be classified as congenital, inflammatory, benign and malignant tumors, and traumatic lesions. Diagnostic imaging of head and neck lesions includes plain radiography, ultrasound, CT, MRI, and nuclear medicine. CT and MRI are useful in the evaluation of anatomies. Recently, CT and MRI is increased for pediatric patients. On the other hand, it is important to familiar with the radiographic change of normal growth and development, in order to diagnosis head and neck lesions. Diagnostic imaging is considered to be played efficiency and to be in offering the information which is useful to medical examination.In this presentation, we review the imaging of normal development and the imaging features of pediatric head and neck pathologies.
著者
小渕 千絵
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.225-230, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
23
被引用文献数
1

聴覚情報処理障害(Auditory processing disorder, APD)は,聴力の低下はみられないが,雑音下での聴取など聴取に負荷のかかる状況下で聴取の困難さを示す症状である。APD症状の要因として,聴覚野に限局した器質的障害のある方はほとんどみられず,発達障害の診断に該当する場合や,診断には該当しないが注意や記憶などの認知的な問題,心理的な問題が考えられている。最近では,背景の多様性を考え,聞き取り困難(listening difficulties)とするのが良いのではないかとの議論もみられる。評価においては,APD症状の聴覚特性を把握するための検査だけでなく,背景の要因を検討するための認知や心理的な検査も含めて行うことが必要である。また,支援においては,一般的な聴覚障害児者への手法を応用する。補聴機器の使用を含めた環境調整,認知的なトレーニング,心理的な支援という3つの視点で対処し,症状軽減に向けた個別的な対応が望まれる。
著者
水川 知子 水川 敦裕 松岡 るみ子 佐藤 宏昭 小林 有美子 村井 盛子 宍戸 潔 草野 英昭
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.364-371, 2011 (Released:2012-12-28)
参考文献数
27

過去29年間に当科を受診した小児のムンプス難聴49例中,厚生省特定疾患高度難聴調査研究班の作成した診断基準(1987)に基づいて診断した確実例37例を対象として,性差,両耳性,発症年齢,耳下腺腫脹から難聴発現までの日数,前庭症状,初診時聴力検査,治療,治療後聴力検査成績につき検討した。性差は男性20例,女性17例であり,一側性35例(95%),両側性 2 例(5%)であった。耳下腺腫脹から難聴発現までの日数は,耳下腺腫脹の 1 日前~16日後までで,平均6.6日であった。初診時聴力検査では,37例中32例が重度難聴あるいは聾であり,治療にもかかわらず 1 例を除く36例では聴力の改善がみられなかった。当科を受診したムンプス難聴患者数の経時的な増減は,全国のムンプスの流行の時機とよく一致していた。従来の報告と同様,今回の検討でもムンプス難聴の予後は不良であり,対策としては早期の予防接種の定期化が重要である。同時にムンプス難聴の啓蒙活動,小児科医との連携,ムンプスワクチンの質の向上が必要と考えられた。
著者
仲野 敦子 有本 友季子 星野 直 工藤 典代
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.40-44, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
12

2012年から2013年の風疹大流行により40例以上の先天性風疹症候群(CRS)の報告があった。我々は出生時には症状がなく先天性風疹感染症(CRI)の診断であったが,1 歳 6 カ月時に左右差のある難聴の診断となり CRS となった症例を経験した。母親は妊娠10週に風疹に罹患し,出生時には児の血清抗体価上昇もあり胎内風疹感染が確認されたが,合併症状はなく自動 ABR は両側パスであり CRI と診断された。風疹分離が陰性となった後の ABR 検査で右60 dBnHL,左無反応で難聴の診断となった。 2013–2014年の CRS 報告45例中 9 例はワクチン接種歴の母から出生しており,妊娠中の風疹罹患歴がなしあるいは不明であった症例は13例であった。このうち何症例で難聴を合併していたかは不明であるが,ワクチン接種歴があり不顕性感染であった母親からの CRS による難聴症例が発生した可能性もあると考えられた。
著者
細井 千晴 坂田 英明 安達 のどか
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.56-61, 2008 (Released:2012-09-24)
参考文献数
12

耳鼻咽喉科疾患は中耳炎や鼻出血など,小児に多い救急疾患の特徴があり,その対応には専門的な知識が必要である.今回我々は,専門的な知識を要する耳鼻咽喉科に関連した電話による問い合わせについて,その内容や対応などの現状を調査した.2006年1月から3月において,耳鼻咽喉科疾患に関連した診療時間外の電話による問い合わせは,81件で全体の8.5%であった.内容は,「異物」「外傷」「鼻出血」に関するものが上位を占めていた.救急外来看護師による院内電話対応マニュアルに沿った対応の結果,約67.1%が救急受診を回避することができた.症候や疾患の特徴をよく理解した上で,電話相談により緊急度を判断し,さらに適切な指導を行うことは,(1)保護者の不安の軽減・対処能力への支援,(2)夜間の時間外診療の負担軽減に効果が期待できる,など小児救急医療の抱える問題の解決の一部として,大変意義深いと考えられる.
著者
小西 行郎
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.231-235, 2016 (Released:2017-03-23)
参考文献数
16

ヒトは46時中リズムのなかで生きている。呼吸も心拍も運動も発声も睡眠もリズムを持っていて,そしてその始まりは胎児から。最近,こうしたリズムの発生と発達の異常に注目が集まっている。それは発達障害とりわけ自閉症スペクトラム障害(以下ASDと略す)といわれる疾患についてである。長い間社会性やコミュニケーションの障害と繰り返される行動の異常とが主体であるされ,行動観察などをもとに診断されてきたASDについて,最近では心拍数が多く,揺らぎが少ないこと,サーカディアンリズムの障害,コルチゾールの分泌など内分泌機能のリズムの障害,さらにはインスリンの分泌リズムの障害などがあることが報告されるようになってきた。つまり,個体内での細胞レベルでの同期現象の異常と個体間のリズム同期の異常などの生体機能リズムの障害がASDの本体ではないかと考えられるのである。こうした立場からASDの原因や症状の発生メカニズムをあきらかにすることは単にASDの診断や療育を変えるだけではなく,その疾患概念そのものを大きく変えることになるであろう。
著者
竹澤 公美子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.320-325, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
8

筆者は 2 歳時に原因不明の両側高度感音難聴になり,幼少期から補聴器と読唇,口話,筆談を主なコミュニケーション手段として活用してきた。それらの方法は遊びの中から習得し,また読書の習慣により語彙が増えた。幼稚園から高校まで普通校に通い,2001年に医学部に入学した。大学 2 年の後期から講義の内容を理解することが困難になったため,2003年に右人工内耳埋込術を受けた。まず音が入るようになり,次に言葉が,そして会話が理解できるようになった。それには長期間を要し,今でも十分な聞こえであるとは言えない。しかし,聞こえそのものの獲得はもちろん,コミュニケーションの方法が広がり,会話を楽しむことができるようになったこと,そして何よりも社会の中の自分という視点を得ることができるようになった。幼少期に失聴し,長い失聴期間を経て人工内耳を装用した耳鼻咽喉科医として,経験を報告する。
著者
内田 育恵 久野 佳也夫 中島 務 柳田 則之
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.43-46, 1997 (Released:2012-09-24)
参考文献数
8

A case of intractable juvenile laryngo-tracheal papillomatosis is reported. A 1-year-old girl with hoarseness was referred to our hospital in May,1995. After tracheostomy, she was treated by local injection of interferon (IFN) combined with laser surgery. Recurrent growth of tracheal papillomas was rapid and widespread, and surgical removal was needed to maintain an airway. Surgical treatment was repeated 45 times in 1 year and 7 months. Even with additional systemic administration of IFN therapy, it was hard to control the papilloma. Human papillomavirus (HPV) type 6 was detected in this case. We have presented this case to seek other opinions on more effective therapy.
著者
野田 哲平
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.51-54, 2021 (Released:2021-07-31)
参考文献数
6
被引用文献数
1

高度・重度難聴を早期に発見し適切な補聴を行うことの重要性が広く認識されるようになった一方で,健聴と難聴の境目にある軽・中等度難聴に対しては,種々の問題が残っているように感じている。聴覚障害自体が他者から分かりづらい障害であるが,程度が軽・中等度であると気付かれにくいために診断が遅れがちである。また多くの軽・中等度難聴児にとって補聴器が有用な選択肢であるが,難聴児自身や周囲の理解不足によって適切な補聴が受けられないこともある。難聴児はそれぞれの不便さを抱えており,聴覚そのものやコミュニケーション能力,それらをベースとして育まれる有形無形の素養の欠如によって学業や就業などの社会参加が困難になり得る。漏らさず早期発見する検査体制のより一層の充実と,社会全体で難聴児を支える仕組みの構築が望まれる。
著者
井埜 利博
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.258-263, 2011 (Released:2012-12-28)
参考文献数
14

筆者らは熊谷市の小学校 4 年生を対象に受動喫煙検診を行っている。この検診は児童における受動喫煙の生体内指標である尿中コチニン(UC)測定と両親へのアンケート調査からなる。児童に UC が検出され,両親が禁煙を希望する場合のプロトコール等も確立された。2007年以降は市の公費負担によって無料で行われた。毎年,小学校 4 年生1300~1400名がこの検診を受診,その中から2010年度の1425名について受動喫煙と中耳炎との関係を後方視的に検討した。UC は約半数に検出され,UC 濃度≧5.0 ng/mL が約30%であった。また,母親の喫煙は児の UC 濃度を上昇させる大きな因子であった。中耳炎の既往児は10.2%に認められ,両親の喫煙があると UC 濃度は平均3.6倍高かった。両親の喫煙がある方が児の中耳炎の既往がやや多い傾向があった。また,UC 濃度<1.4 ng/mL の児における中耳炎既往はアレルギー合併例が多かったためと思われた。母親の妊娠中喫煙も中耳炎発生に関与すると思われた。
著者
坂井田 麻祐子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.366-370, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
8
被引用文献数
5

ピーナッツなどの乾燥豆類による気道異物事故は,乳幼児に多く,毎年一定数起こっている。保護者への教育が肝要であるが,そもそも,保護者がどの程度気道異物の危険性を認識しているかを把握したいと考えた。2011年 6 月,ある幼稚園にて気道異物に関する講演会を行い,園児保護者46名に対し,気道異物に関する 7 項目のアンケートを実施し集計した。  保護者の65.9%が「気道異物」という言葉を知っており,65.2%が,乾燥豆類は気道異物の原因となり危険だと認識していた。しかし,危険性を認識していた保護者の50%,危険性を認識していなかった保護者の75%が,子供に乾燥豆類を与えていた。講演終了後は,ほとんどの保護者が,乾燥豆類を与えないようにすると回答した。  保護者への十分な教育によって気道異物事故が予防できる可能性がある。地域の耳鼻咽喉科医は,様々な形で乳幼児を持つ保護者に地道に啓発する責務があると考える。
著者
谷内 一彦
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.275-282, 2018 (Released:2019-04-05)
参考文献数
15

開発初期の第1世代抗ヒスタミン薬はアレルギー疾患に対する効果が認められる一方で,強い鎮静作用(眠気,疲労感,認知機能障害),口渇,頻脈といった抗コリン性作用,そして心毒性などの副作用が問題視されていた。現在,小児の花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患症状の緩和に非鎮静性抗ヒスタミン薬がFirst-line treatmentであり,非鎮静性抗ヒスタミン薬のアレルギー疾患への長期投与の治療効果は高いと考えられている。日本では過去に成人に比較して鎮静性抗ヒスタミン薬が格段に多く使用されていた。成長過程にある小児に対してはヒスタミン神経系の機能に配慮し,脳内移行の少ない第2世代抗ヒスタミン薬の選択が求められる。最近,生後6ヵ月以上の乳幼児にも使用できる非鎮静性抗ヒスタミン薬が販売されており,鎮静性抗ヒスタミン薬は制吐剤,抗動揺病,抗めまい薬などの使用に限定される。
著者
濵田 浩司 菅谷 明子 片岡 祐子 前田 幸英 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.23-28, 2012 (Released:2012-12-28)
参考文献数
10

生後11ヶ月で人工内耳埋込術を施行した髄膜炎後難聴の 1 例を経験したので報告する。症例は生後 8 ヶ月で,細菌性髄膜炎に罹患し,治癒後の聴性脳幹反応検査では両側 105 dBnHL で反応がみられなかった。内耳 MRI の 3D 再構築画像で右内耳は既に閉塞し,内耳内腔の骨化が急速に進行していると考えられた。左内耳は今後閉塞が高度となる可能性が考えられ,直ちに左人工内耳埋込術を施行した。髄膜炎後の難聴にはしばしば蝸牛内骨化を伴うが,中には髄膜炎罹患後約 2 週間から内耳骨化が進行するような,急速な骨化例もある。髄膜炎直後の乳児では難聴の早期発見のための ABR 検査や,難聴の存在を疑われた場合の迅速な MRI 検査は不可欠である。
著者
山本 潤 黒田 徹
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.393-400, 2011 (Released:2012-12-28)
参考文献数
24

口腔・咽頭外傷は 6 歳以下の小児に多く,歯ブラシは主な原因器物のひとつである。2010年に当科を受診した歯ブラシ外傷は 5 例であり,全例入院し抗生剤静注を施行したが,3例で膿瘍形成し,いずれも排膿処置を要した。症例 1 では咽頭収縮筋内と思われる部位に膿瘍形成し,口蓋扁桃を摘出した扁桃窩より排膿した。同症例を含めた全 5 例に関し,文献的考察を交え報告する。過去の報告を調査すると歯ブラシ外傷では高い膿瘍形成率を示した。その原因として,歯ブラシは口唇や歯牙で防御されることなく外力が直接伝わるので深く刺入しやすく,そのブラシ部分には S. milleri group 等の口腔内細菌が大量に付着していることが考えられる。以上より歯ブラシ外傷では,通常膿瘍形成する組織間隙以外にも,膿瘍形成し得ると考えられた。また,同様のエピソードで膿瘍形成しない症例では,ブラシ部分ではなく柄を刺入しているケースも想定された。
著者
島田 亜紀
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.61-65, 2021 (Released:2021-07-31)
参考文献数
4

一側性難聴児は対側が正常聴力であれば,乳幼児期の言語獲得や日常生活において支障はないと考えられてきた。しかし,両耳聴ができないために,騒音下での聞き取りが困難,難聴側からの聞き取りが困難,音源定位が困難である。特に学童期になると,集団学習の場である学校の教室は暗騒音や他の児の声などの騒音があることから,一側性難聴児にとって教室は教師の声が聞き取りにくい環境であると考えられる。これまで本邦では,一側性難聴児の座席配置を教室の前方で聞こえる方の耳を教師に向ける席が望ましいと指導する程度で,それで十分な聞き取りができるかの検討は行われてこなかった。我々は,一側性難聴児の騒音下での語音聴取能を評価し,学校での聴覚補償として,一側性難聴児の補聴援助システムの使用とその購入費助成制度について報告した。