著者
椎貝 達夫 前田 益孝 小林 隆彦 棚瀬 健仁 小林 君枝
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.928-932, 2003-03-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

慢性腎疾患 (CKD) の進行抑制に低たんぱく食 (LPD) は不要という説がある。しかしCKDのうちの非糖尿病性腎症 (NDN) を対象としたLPDのランダム化比較試, 験 (RCT) についてのメタアナリシス (MA) 3篇では, いずれのMAでもLPDは「進行抑制に有用」と結論されている。他領域でも行われているような, RCT一つ一つの質を評価し, 質の高いものだけのMAを行えば, LPDの有用性はさらに高まると思われる。一歩退いて進行抑制にLPDが無効の場合を考えてみよう。WHO/FAOが疾病予防の観点から30年前に発表した一般人の食事についての勧告では, 推奨される1日たんぱく摂取量 (DPI) はたんぱく0.8g/kg/dayであった。しかし先進国では国民のDPIはどの国でも1.1~1.3g/kg/dayである。CKDに対し食生活に何の規制も加えなければ, この一般人のたんぱく摂取量になってしまうだろう。一般人より心血管系リスクがはるかに高いNDN・CKD例がたんぱく制限なしで良いとは到底考えられない。つまりどのような立場であってもDPIのモニタリングをキチンと行い, DPIO.89/kg/day, あるいはDPI0.6g/kg/dayになるような指導を行い, その条件下に降圧療法, レニン・アンジオテンシン系抑制, アシドーシス補正, 腎性貧血の治療などの総合的な進行抑制療法を行うべきだろう。
著者
小林 正伸 小林 隆彦 進藤 正信
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

膵癌細胞株を用いて,DNA microarray法にて多くの遺伝子産物の発現が亢進することを見出した.その中で,アドレノメジュリンという血管拡張因子とされていた遺伝子に着目してアドレノメジュリンアンタゴニストペプチドを腫瘍内に注入する実験を行ったところ,完全に腫瘍が退縮した病理標本上は,太い血管の新生が抑制されており,血流不足となって退縮した可能性が考えられた.今後はNaked DNAにてアドレノメジュリンアンタゴニスト発現ベクターを用いた遺伝子治療の検討が必要になる.さらに,従来の我々の研究成果で膵癌細胞にHIF-1αが恒常的に発現していたという結果を考えると,HIF-1の機能阻害が膵癌の増殖を抑制する可能性が考えられた.そこでHIF-1の機能を阻害することによって膵癌の治療が可能か検討した.その結果,dominant negative HIF-1αの導入によって生体内腫瘍増殖が抑制され,その機序として嫌気性代謝機構の阻害が主な機構であることを見出した.血管新生にはそれほどの差を認めなかった.試験管内での検討でも,アポトーシスに対する感受性が増加していることを明らかにできた.以上の結果は,膵癌の生体内増殖にHIF-1の機能が重要であることを示唆しており,HIF-1を標的とする治療法の可能性を示唆している.今後もHIF-1の下流にて細胞を低酸素環境や低栄養環境から守ろうとする適応応答機構を明らかにし,それを標的とすることで,癌特異的な治療法の開発が可能と考えられた.