著者
小林 誠人 甲斐 達朗 中山 伸一 小澤 修一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.9, pp.652-658, 2007-09-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

JR福知山線列車脱線事故における初動期の現場医療活動について報告し, 災害医療の観点から検証する。事故概要 : 2005年4月25日9時18分JR福知山線で列車脱線事故が発生した。死者107名, 負傷者549名 (重症139名) の多数傷病者発生事案であった。現場活動 : 我々は事故発生から約40分後の10時01分に現場到着した。先着医療チームとして2次トリアージと応急救護所における緊急処置に従事した。また医療チームが順次現着した後は医療チームのcommanderを担当し, 現場医療活動の統括にあたった。検証 : ドクターカーシステムが整備, 認知されており発災早期に医療チームの現場派遣が可能であった。また医療チームは統制がとられ適切にトリアージ, 現場治療がなされたと評価される。その結果, 科学的に証明することは種々の理由により困難ではあるが, preventable deathが回避できたと推測している。しかし, 初動期において各機関は十分な情報収集と共有化が行えなかった。その結果, 詳細な事故状況, 通信手段, 患者搬出の動線, 搬送手段 (救急車, ヘリなど) の状況, 搬送医療機関の選定, 医療チームの要請状況などの把握, 整備, 確立に時間を要した。今後は現場指揮本部を通じて消防, 警察と早期から十分に情報共有を行い, トリアージ, 処置, 搬送の一連の連鎖が途切れることなく行われることが期待される。まとめ : 災害医療は日常業務の延長にあり, 本事案で明らかとなった課題を検証し, 本邦における災害医療システムの構築, 整備, 啓蒙が望まれる。
著者
赤松 繁 小澤 修
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-7, 2003-04-15 (Released:2010-06-08)
参考文献数
33

American Heart Association (AHA) は, 2000年に心肺蘇生法に関するガイドラインを改訂した。新しいガイドラインは, Evidence Based Medicineに基づき科学的根拠を明確にし, 標準的処置を単純化して心肺蘇生法が普及するように改訂された。そのガイドラインのAdvanced Cardiac Life Support (ACLS) では心肺蘇生に用いる薬としてバソプレシンが登場した。バソプレシンの受容体はV1受容体とV2受容体の2種類の存在が知られ, バソプレシンの作用もまたV1作用とV2作用に大別される。血管平滑筋に直接作用し収縮を促すV1受容体を介した作用はV1作用であり, 抗利尿作用はV2作用である。心肺蘇生時に, バソプレシンはβアドレナリン作用をもたないため心筋酸素消費量を増加させることなく冠血流量と脳血流量を増加させる。また心停止が遷延した場合, アシドーシスによってアドレナリン受容体を介した作用が減弱するのに対し, バソプレシンではその影響を受けないためエピネフリンより有効であると考えられる。心肺蘇生時に主として用いられる薬はエピネフリンであるが, バソプレシンも有用な薬であり, 今後の展開次第では繁用されるようになる可能性がある。本稿では, バソプレシンによる血管平滑筋細胞での作用およびその細胞内情報伝達機構に関する著者らの基礎的知見を含め紹介する。