著者
小田 利勝
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、少子高齢・人口減少社会への対応策として学部教育の修業年限を1年短縮することによって期待される効果をシステムダイナミックスモデルで推計するとともに学部教育の修業年限短縮という着想に関わる諸側面に関する大学長への質問紙調査(医歯薬獣医系の単科大学、2年以内の新設大学、廃止予定の大学等を除く国立79,公立70、私立533の計682大学の学長/総長宛に調査票を郵送し、国立50(回収率63%)、公立37(同53%)、私立200(同38%)の計287大学(同42%)から回答があった)から得られたデータを分析した。18歳人口は減少し続けるが、進学率の上昇が見込まれるので、学部入学者数は2023年頃までは増加し続ける。修業年限を1年短縮することによって、2030年頃までは毎年40万~50万人の労働力人口が1年早く補充されることになる。その結果、所得税と年金保険料の増収が2025年には2,500億円から3,200億円になる。しかし、進学率が上昇しても2035年頃からは大学入学者数も卒業者数も確実に減少していき、補充労働力人口も減少し続けることになり、毎年の税収や年金保険料収入も減少していく。奨学金に関しては、修業年限を1年短縮することによって貸与学生を大幅に増やすことができると同時に奨学金貸与事業費をかなり軽減させることができる。学部の修業年限を1年短縮することによって1年前倒しして労働力人口の補充や税、年金保険料の増収を図ることができることは少子高齢・人口減少社会が抱える課題への確実な対応策になり得ると考えられる。大学長の多くは現行の4年制を支持しているが、工夫次第では教育の量と質を落とさずに3年制にすることも可能とする意見や3年制にすることに関して検討する余地があるとする回答も3割あった。そのほか多くの貴重な意見が寄せられ、本研究を進める上で、学部教育の目的や多様性をいかにして考察の枠組や分析モデルに組み入れていくかが課題であることが示唆された。
著者
城 仁士 岡田 由香 二宮 厚美 青木 務 杉万 俊夫 近藤 徳彦 小田 利勝
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は地域一体型の老人介護施設における利用者本位・住民主体の介護サービスがどのようなものであればいいのか提案し、さらにサービス機能の今後の方向性や評価方法を提言することを目的とした。平成13年度から15年度の3年間にわたって、次のような4つの研究アプローチを設定し、研究遂行した。1)社会システム論的アプローチ高齢者をとりまく社会システムを高齢者の発達及び自立支援という視点からアプローチした。特に介護保険によるサービスを個人の尊厳により選びとれる環境整備や制度的な問題点の洗い出しを行った。2)医療システム論的アプローチ高齢者を支援する環境づくりに向けて、地域医療の観点から実践研究を展開した。具体的には、高齢化率の高い過疎地域(京都市北区小野郷)における、住民が主体となって診療所を開設・運営するという新しい地域医療運動に、研究者も参加しながら、運動の経緯を検討した。3)生活環境論的アプローチ高齢者の衣食住環境を生活の主体者としての意識や生活意欲をひきだす環境づくりという視点からアプローチした。被介護者のみならず介護者、利用者の家族、スタッフのストレスを軽減するハード面とソフト面の機能を住環境学、食環境学、衣環境学から分析・評価した。4)心理行動論的アプローチ地域一体型施設における被介護者を中心としたスタッフ、介護者、地域住民の連携を促進する介護サービスの開発と評価を生活環境心理学、ストレス心理学、環境生理学の観点から行った。施設のサービス体系にもとづく調査結果を整理し、第8回ヨーロッパ心理学会や日本心理学会第67回大会に発表するとともに、今後の介護サービスの方向性やその評価方法について検討した。以上の結果に基づいて、今後は施設における集団ケアを少人数のユニットケアへ移行するとともに、個人の尊厳にもとづく新世紀型の施設介護のあり方を提言した。また、環境生理から研究からは、寒くなるとエアコンをつけるなどの行動性体温調節反応が高齢者ではどうなのかを検討した。この反応は自律性体温調節反応が衰えると大きくなり、また,高齢者では皮膚温度効果器の低下にも関係し、若年者より劣っている.このことから,高齢者の生活環境を支援するためにはこの反応も考慮する必要があることを明らかにした。最終年度には、本研究プロジェクトのこれまでの研究成果を実績報告書という形で公刊し、今後の施設ケアの方向性の参考として福祉施設関係者に配布した。