著者
小谷 明 荒起 清 荒木 清
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

フィチン酸金属錯体の構造-特性の基本的性質を明らかにし,これまでに全く未解明なフィチン酸金属錯体の持つ特性が生体系でどのように利用されているかを解明した。1.フィチン酸と金属イオンとの相互作用これまでに得た金属錯体の存在種,その安定度定数,さらにその配位構造を説明できる統一的見解を得た。すなわち,生理的条件下では,リン酸間距離の大きなリン酸部位に金属が配位し,残る未配位のリン酸はプロトンがついてリン酸間水素結合により錯体全体が安定化する。2.フィチン酸加水分解酵素フィターゼ酵素活性の金属イオン依存性生理活性発現の源である受容体結合のモデルとして,近年解明されたフィチン酸加水分解酵素フィターゼを用い,各種金属イオン共存下でフィチン酸の加水分解反応速度を調べ,基質認識,反応活性について各種金属イオンの及ぼす役割について統一的見解を見出すことができた。結果的には金属錯体を基質とする酵素反応であることが明らかになり,金属酵素以外の金属基質という新しい世界を切り開くことができた。3.フィチン酸-金属錯体の生理活性フィチン酸ナトリウムを用いた研究から報告されている抗ガン活性について,各種金属錯体について抗ガン活性を調べ,生体内で金属錯体として生理活性が発現されていることを明らかにし,これまでに報告されているフィチン酸ナトリウムの抗ガン活性がカルシウム錯体の可能性が高いことを示した。安定度定数を用いたシミュレーションから生理活性種がCa2(フィチン酸)H3と示唆された。生理活性機構として,細胞内液の銅濃度ESR測定から,フィチン酸金属錯体の膜通過の容易性が示された。本研究で得られたフィチン酸金属錯体の知見は,フィチン酸の医薬品への応用のみならず,環境に無害な特性を有するフィターゼの農業,工業的応用など各種応用への基礎的知見を提供することがと期待される。
著者
小谷 明
出版者
日本微量元素学会
雑誌
Biomedical Research on Trace Elements (ISSN:0916717X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.22-26, 2011 (Released:2013-09-09)
参考文献数
13

Cisplatin, clinically used anticancer Pt(II) complex, has been believed to attack DNA to form Pt-N7(Guanine) coordination, and Pt-G bond is protected from DNA repair enzyme by the aromatic ring stacking between Pt-G and Phe side chain in Pt-DNA-HMG protein adduct. The adduct mimicked 4N coordinated Pt(II) complexes M(DA)(AtCn) involving with metal coordinated aromatic diamine (DA) and anthracene ring side chain in AtCn, which could not coordinate DNA, showed not only in vitro cytotoxicity for human cancer cell lines but also strong inhibition with protein interaction such as the proteasome. The bio-activity indicated the structural dependence of both DA and AtCn. This should relate with the intramolecular aromatic ring stacking interaction which was evidenced by the X-ray structure in crystal and the H-1 NMR in H2O solution. Importantly the Pt(II) complexes showed similar bioactivity in cisplatin resistance cancer cell. These experimental results showed that the Pt complexes involving stacking structure might be new type anticancer metal compounds.
著者
山内 脩 小谷 明
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.369-382, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
68
被引用文献数
11

生体系の金属イオンにはタンパグ質に組み込まれて存在するものや低分子錯体として存在するものなどがあり,それぞれなんらかの存在理由をもっている。モデル低分子錯体の挙動を明らかにすることは,生体系低分子錯体の挙動はもとより金属イオンと一般の生体物質との相互作用の様式と役割を理解する基本となるとともに,未知の錯体の存在やその機能を示唆することにもなるであろう。アミノ酸,ペプチドの錯形成反応より,低分子混合配位子錯体に鞍いて静電的相互作用,水素結合,あるいは芳香環スタッキングという弱い相互作用が配位子間に起こりうることが明らかとなった。また,DNAインターカレーターであるいくつかの芳香環含有白金(II)錯体とモノヌクレオチドとの間で希薄水溶液中安定な会合体が形成されることから,これをモデルとして核酸の関与する非共有結合性相互作用のエネルギーに関する知見を得た。