著者
田中 薫 王 冰 古橋 舞子 村上 正弘 尚 奕 藤田 和子 大山 ハルミ 早田 勇
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.243, 2007

mitigatorは、事故によって放射線にさらされた後、明らかな生物学的結果が出てしまう前に与えると有効であるものをいう。新たなmitigatorの研究は、より効果的で安全な臨床治療法を開発するためだけでなく、被爆者の予後の改善に有用である。一方、生まれる直前に子宮内高線量被ばく(6.5Gy)を受けたことによって引き起こされる新生仔死亡(骨髄死)には、cell killing effectが重要な役割を演じている。そこで、本研究では、照射後に複数のアポトーシス阻害剤を併用投与し、新生仔死亡が軽減されるかどうか検討を行った。<BR>妊娠18日目のICRマウスに、1.8Gy/minの線量率で、6.5GyのX線を全身照射した (これは、離乳前の新生児の約40パーセントが死亡する条件である)。照射5分後に妊娠マウスの腹腔内にオルトバナジン酸ナトリウム(Na<SUB>3</SUB>VO<SUB>4</SUB>, VD)15mg/kgを単独、あるいはカスペース阻害剤(Z-VAD) 1mg/マウス とともに投与した。妊娠マウスは自然出産させ、新生仔の生残と発育状況(体重)を調べ、さらに、子供の(7週齢)末梢血血液象と大腿骨の骨髄をそれぞれ、自動血球計数装置と小核試験法を使って調べた。<BR>VD単独投与により、新生仔の生残と発育状況への影響が有意に軽減され、さらにVDとZ-VADの併用によって、いくつかのendpointにおいてより大きな効果が認められた。これらのことは、アポトーシス阻害剤の併用投与が、高線量放射線被爆の治療法として将来に大きな可能性を持っていることを示している。
著者
柿沼 志津子 尚 奕 森岡 孝満 臺野 和広 島田 義也 西村 まゆみ 甘崎 佳子 今岡 達彦 ブライス ベンジャミン
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

福島原発事故以降、放射線への関心が高まり発がんが懸念されている。一方、小児がん患者のプロトンや重粒子線治療が始まり、中性子線や炭素線による2次発がんも心配される。こども被ばくのリスクとその低減化のため発がん機構の解明が急務である。本研究では、マウスやラットの発がん実験で得られたがんの病理解析やゲノム変異解析で、被ばく時年齢、線質、臓器依存性を示す発がんメカニズを調べた。その結果、血液がんでは子供期被ばく特異的な原因遺伝子と変異メカニズムが認められた。固形がんでは、高LET放射線で発がんの早期化や悪性化が示されたが、ゲノム変異に差はなかった。今後、エピジェネティック異常について検討が必要である。