著者
尾之上 高哉 井口 豊 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.132-144, 2017 (Released:2017-04-21)
参考文献数
33
被引用文献数
5 5

本研究では, 計算スキルの流暢性を形成するための指導法として, タイムトライアルに目標設定と成績のグラフ化を組み合わせた指導(実験条件)に着目し, その効果を, タイムトライアルによる指導(統制条件)の効果と比較した。比較は, 2つの実験計画, (a)3年生の2学級を対象にした統制群法, (b)4年生の1学級を対象にした基準変更デザイン法, で行った。標的スキルは掛け算九九に設定し, 従属変数は2分間のタイムトライアルにおける正答数とした。各実験計画の分析結果は, 実験条件が, 統制条件よりも, 効果が高いことを示した。つまり, (a)では, 事前事後の得点を共分散分析で検定した結果, 実験条件の方が, 事後得点が有意に高かった。(b)では, 実験条件下の成績を, 統制条件下の最高値からの変化量として, 線形混合モデルで分析した結果, 実験条件下の成績は, 統制条件下の最高値よりも, 有意に高い状態で保たれていた。最後に, 各指導による流暢性の伸びと, 社会的妥当性の各得点との関連をSpearmanの順位相関を用いて検定した結果, どちらの実験計画でも, 実験条件においてのみ, 流暢性の伸びと, 成長実感得点の間に, 有意な正の相関が認められた。
著者
尾之上 高哉 井口 豊
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.122-133, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
26
被引用文献数
2 3

本研究では,学習法としてのブロック練習と交互練習に注目し,それぞれの単独効果,及び,それらを組み合わせた時の複合効果を比較検討する実験を行った。大学生66名が,学習を1週間の間隔をあけて2回行い,2回目の学習の1週間後にテストを受けた。66名は,2回の学習の方法が異なる次の4つの条件,つまり,条件1(2回ともブロック練習で学習する),条件2(1回目をブロック練習で2回目は交互練習で学習する),条件3(1回目を交互練習で2回目はブロック練習で学習する),条件4(2回とも交互練習で学習する),のいずれかに割り当てられた。条件間でテストの正答率に差があるかを分析した結果,正答率は,条件4,条件2及び3,条件1,の順で高く(条件4>2=3>1),この3者の間には有意差が確認された。つまり,交互練習の機会が増えるに従って,学習内容の定着が進むことが示された。また,実験参加者には,テスト時に自身が想起した解答がどの程度正しいと思うかについての確信度判断を,多段階評定を用いて行ってもらった。その確信度判断と実際のテストの得点の関連を条件毎に分析した結果,学習者は,定着に効果を持つ学習法で学習した時の方が,確信度判断を正確に行える可能性があることが示唆された。
著者
尾之上 高哉 井口 豊
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.46, no.Suppl., pp.193-196, 2023-02-13 (Released:2023-03-28)
参考文献数
6

困難に直面している人に,「皆にその能力があるわけではない」「あなたには別の強みがある」といった言葉かけ(以後,comfort と表記する)を行うと,その領域での相手の動機づけを低下させてしまう可能性がある.先行研究では,「その領域で必要な能力を“固定的”に(つまり,変わりにくいものとして)捉えていると,comfort を行い易くなる」との知見が報告される.本研究の結果は,その知見が,相対的にみた時に,当該の能力が“固定的に捉えられ易い領域”と,“可変的に捉えられ易い領域”の両方で追認されることを示した.先行研究と本研究の結果は,能力の捉え方と言葉かけとの関連に注意を向ける必要性を示している.
著者
尾之上 高哉 丸野 俊一
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.26-41, 2012

本研究の目的は,学び合う授業の中で,教師がどのような働きかけを実践していくことが.「児童が積極的に発言できるようになる」という変化を引き起こすことに繋がっていくのか,を明らかにすることであった。学び合う授業に熟練した教師が担任となった学級の児童のうち,「1学期当初は,発言することに強く抵抗し,ほとんど発言できなかったが,2学期後半頃から自発的に発言できるようになった」T児に注目し,T児の変化を生み出した教師の働きかけを,教師・T児・観察者の3つの視点から総合的に分析した。その結果,児童の積極的な発言行動を促すためには,次のような教師の働きかけが重要であることが示唆された。それは,児童に可能な範囲で発言を試みさせる過程で,(1)クラスの児童達が,発言児に対して共感的に関われるようになるための働きかけを行うことにより,児童達が「自分の発言に対して,周囲のみんなは共感的に関わってくれる」と認識できるようにすること,(2)発言することの意味を明示的にも潜在的にも伝える働きかけを行うことにより,児童達が「自分が発言することは,ここでの学びを深めていくために役に立つ」と認識できるようにすること,である。
著者
尾之上 高哉 丸野 俊一
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.12-25, 2012

本研究の目的は,学び合う授業の中で「共感性の重要性や意味(=共感性の価値)」を学ぶ体験を通して,共感性得点に変化がみられるか否かを明らかにすることであった。1学期から2学期の授業の中で「学び合う授業」が展開されるようになったことが示された学級の児童を対象に分析を行った。まず,児童は,学び合う授業の中で「共感性の価値」を学び得るのかを検討した結果,(1)インタビューの中で,共感性の価値に言及する内容を自発的に語るようになっていること,(2)授業のやりとりの中で,自発的に共感的振る舞いに取り組むようになっていること,(3)「共感性の価値」の実感の程度を調べる質問紙得点が,1,2学期の間に有意に増加していること,の3点から,児童は学び合う授業の中で「共感性の価値」を学び得ることが示された。次に,授業の中で体験した「共感性の価値」の学びが,共感性の高まりに繋がっているかを検討した結果,1学期から2学期にかけて「共感性の価値」得点が増加した児童の多くは,「共感性」得点にも高まりが示されることが確認された。本研究の結果からは,学び合う授業が,児童の共感性育成の場として機能し得ることが示唆された。