著者
野村 亮太 丸野 俊一
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.494-508, 2007 (Released:2009-04-24)
参考文献数
29
被引用文献数
1

Illustrative researches suggest that a coordinated relational system between a performer and audience affects on humor elicitation process in vaudeville settings. The present study investigated how the system was formed and developed along with a flow of a story. 7 participants including 4 targets sat down face to face with a performer and watched Rakugo (a Japanese traditional performing art) performance. With using coordination of motion as a quantitative indicator, not only duration of coordination between a performer and each target but also its phase difference were examined. The results demonstrated that the humor scores measured by facial expression were higher for audience who were more strongly coordinated with the performer, compared to audience weakly coordinated. For the highest humor scored audience, in contrast to the lowest scored audience, larger coordinated areas emerged and audience-preceding coordination were established at early stage of the story. Even the lowest humor scored audience, the humor score increased in latter part of the story, following the audience-preceding coordination rising. These results suggest that it is important for humor elicitation to occur audience-preceding coordination based on a performer-audience system, where audience actively anticipate next story line, while a performer acts reflecting audience′s response to construct vaudeville settings each other.
著者
野上 俊一 生田 淳一 丸野 俊一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.173-176, 2005
参考文献数
3
被引用文献数
1

学生が定期試験のためにどのような学習計画を立てるのか, その学習計画が失敗する要因をどのように認識しているのかを質問紙を用いて検討した(n=254).その結果, 学習計画の立案率は約70%であった.そして, 立案した被験者の約70%が実際のテスト勉強では計画通りに進まないと認識していた.計画通りに進まない原因として「無理な学習計画の立案」「誘惑や欲求に負ける」などが被験者によって挙げられた.また, 学習過程に対するメタ認知的制御で学習計画の内容を比較すると, メタ認知的制御の高い被験者は目標設定が具体的であるために無理のない学習計画を立てており, 計画通りにテスト勉強を行えることが示唆された.
著者
松尾 剛 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.93-105, 2007-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
6 3

本研究の目的は, 熟練教師による話し合いを支えるグラウンド・ルールの共有過程を明らかにすることであった。小学校6年生1学級 (女児21名, 男児18名) の国語単元における発話について, ルールの意味や働きかけの意図に関する教師へのインタビュー回答を踏まえながら, 3種類のコーディングによる定量的分析を行うことで, ルールの内容を整理し, ルールが示されていた談話過程を特定した。さらに, その談話過程の特徴を, 定性的分析によって明らかにした。分析の結果, 教師は即興的思考を絶えず働かせながら以下のように働きかけていたことが明らかになった。(1) 子どもが主体的に学び合うことの妨げになっている認識を, やりとりの文脈の中で感じ取っていた。そして, その認識を問い直し, 新たに構成するため, 独自のルールを生成していた。(2) ルールはやりとりの文脈に固有な内容を持つため, 教師からの一方的な提示では, 具体的な意味や重要性を子どもに気づかせることはできないと考えていた。その考えのもとに, 教師は話し合いの流れの中に現れたルールを取り上げ, 意味づけることで各ルールを子どもに示していた。
著者
丹羽 空 丸野 俊一
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.196-209, 2010-03-31 (Released:2010-04-28)
参考文献数
25
被引用文献数
8 11

日本人の若者が,他者との親密な関係を構築していくうえでどのくらい深い自己を開示しながら相互作用を行っているのかを検討できる自己開示尺度は,これまで作成されていない。本研究では,自己開示の深さを測定する自己開示尺度を作成し,尺度の精度を検討するために,299人の大学生を対象に質問紙調査を行った。分析の結果,本尺度は (1) 趣味(レベルI),困難な経験(レベルII),決定的ではない欠点や弱点(レベルIII),否定的性格や能力(レベルIV)などという,深さが異なる4つのレベルの自己開示を測定でき,(2) 開示する相手との関係性に応じて自己開示の深さが異なることを敏感に識別でき,(3) 親和動機および心理的適応度を測定する既存尺度から理論的に予想される結果においても高い相関が見出され,妥当性の高い尺度であることが確認された。
著者
野上 俊一 生田 淳一 丸野 俊一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.28, no.suppl, pp.173-176, 2005-03-20 (Released:2016-08-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

学生が定期試験のためにどのような学習計画を立てるのか, その学習計画が失敗する要因をどのように認識しているのかを質問紙を用いて検討した(n=254).その結果, 学習計画の立案率は約70%であった.そして, 立案した被験者の約70%が実際のテスト勉強では計画通りに進まないと認識していた.計画通りに進まない原因として「無理な学習計画の立案」「誘惑や欲求に負ける」などが被験者によって挙げられた.また, 学習過程に対するメタ認知的制御で学習計画の内容を比較すると, メタ認知的制御の高い被験者は目標設定が具体的であるために無理のない学習計画を立てており, 計画通りにテスト勉強を行えることが示唆された.
著者
尾之上 高哉 井口 豊 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.132-144, 2017 (Released:2017-04-21)
参考文献数
33
被引用文献数
5 5

本研究では, 計算スキルの流暢性を形成するための指導法として, タイムトライアルに目標設定と成績のグラフ化を組み合わせた指導(実験条件)に着目し, その効果を, タイムトライアルによる指導(統制条件)の効果と比較した。比較は, 2つの実験計画, (a)3年生の2学級を対象にした統制群法, (b)4年生の1学級を対象にした基準変更デザイン法, で行った。標的スキルは掛け算九九に設定し, 従属変数は2分間のタイムトライアルにおける正答数とした。各実験計画の分析結果は, 実験条件が, 統制条件よりも, 効果が高いことを示した。つまり, (a)では, 事前事後の得点を共分散分析で検定した結果, 実験条件の方が, 事後得点が有意に高かった。(b)では, 実験条件下の成績を, 統制条件下の最高値からの変化量として, 線形混合モデルで分析した結果, 実験条件下の成績は, 統制条件下の最高値よりも, 有意に高い状態で保たれていた。最後に, 各指導による流暢性の伸びと, 社会的妥当性の各得点との関連をSpearmanの順位相関を用いて検定した結果, どちらの実験計画でも, 実験条件においてのみ, 流暢性の伸びと, 成長実感得点の間に, 有意な正の相関が認められた。
著者
西村 薫 野村 亮太 丸野 俊一
出版者
九州大学大学院人間環境学研究院
雑誌
九州大学心理学研究 : 九州大学大学院人間環境学研究院紀要 (ISSN:13453904)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-9, 2012

Changing self-efficacy is important for clinical support. Nonetheless, the past studies on self-efficacy do not explain (1) taking actions with low self-efficacy, (2) process of self-efficacy promotion, or (3) process of self-efficacy declination. To solve these issues, we proposed "Perspective Self-efficacy", which includes ambiguous expectations that the future self can be positively changed. Perspective self-efficacy refers to ambiguous feelings that the self, as future prospects, can affect and control others and situations, detaching from the current self. By viewing the present self from future-perspective self, perspective self-efficacy makes it possible to take different actions from what is motivated only by the present situations. Also, being detached from the present self, can perspective self efficacy facilitate taking actions and positive operations of information resources, even when self-efficacy is currently low. Thus, perspective self-efficacy can explain the change of self-efficacy, and be useful for clinical support.
著者
野上 俊一 丸野 俊一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-11, 2008
参考文献数
14

本研究は大学生が自己の学習状態と達成すべき学習目標の達成困難度を考慮に入れて,限定された学習時間の範囲内で,学習活動をどのように調整するかを検討した.実験の結果,学習目標の違いに関わらず,学習状態の悪い項目群より良い項目群を多く学習することが明らかになった.この結果は階層的システムモデル(学習目標が難しい場合は学習状態の悪い項目群を,容易な場合は学習状態の良い項目群を多く学習する)からの予測とは一致しなかった.しかし,達成困難度の高い条件での学習行動は最近接学習領域モデル(学習目標の達成困難度に関係なく,学習状態が中程度の項目群を多く学習する)からの予測と一致した.また,時間経過に伴った学習活動の変化と被験者の内省報告の分析から,どの学習目標条件においても,学習の初期段階では学習状態の良い項目群の学習を優先し,その後,残りの学習状態の悪い項目群の学習に移行する2段階の学習調整が示された.
著者
奈田 哲也 堀 憲一郎 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.324-334, 2012 (Released:2013-02-08)
参考文献数
26
被引用文献数
3 3

本研究の目的は, 奈田・丸野(2007)を基に, 知識獲得過程の一端を知り得る指標としてエラーバイアスを用い, 他者とのコラボレーションによって生起する課題活動に対するポジティブ感情が個の知識獲得過程に与える影響を明らかにすることであった。そのため, 小学3年生に, プレテスト(単独活動), 協同活動セッション, ポストテスト(単独活動)という流れで, 指定された品物を回り道せずに買いながら元の場所に戻る課題を行わせた。その際, 協同活動セッション前半の実験参加者の言動に対する実験者の反応の違いによって, 課題活動に対するポジティブ感情を生起させる条件(協応的肯定条件)とそうでない条件(表面的肯定条件)を設けた。その結果, 協応的肯定条件では, エラーバイアスが多く生起し, より短い距離で地図を回れるようになるとともに, やりとりにおいて, 自分の考えを柔軟に捉え直していた。これらのことから, 課題活動に対するポジティブ感情は, その活動に没頭させ, さらに, 相手の考えに対する柔軟な姿勢を作ることで, 新たな視点から自己の考えを捉え直させるといった認知的営みを促進させる働きを持つことが明らかとなった。
著者
丸野 俊一 高木 和子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.18-26, 1979-03-30
被引用文献数
6

本研究は,基本的な物語のシェマがどの年齢段階でどの程度できあがっているのか,また認知的枠組形成のための先行オーガナイザー情報が後続する物語の理解・記憶にどのような効果をもたらすのかを検討するために企画された。被験者は平均年齢6才2か月の保育園児42名と9才2か月の小学3年生42名である。刺激材料としては,33文からなり,7つの事象を含んでいる「ぐるんぱのようちえん」という短い物語が用いられた(TABLE1)。被験者は各年齢とも無作為に,順序提示群,ランダム提示群,統制群の3条件にふりわけられた。順序提示群とは,7つの事象を絵にしたものを先行オーガナイザー情報として物語の展開通りに被験者に提示される群である。ランダム群とは7つの絵画情報がランダムに提示される群であり,統制群とは,絵画情報が与えられない群である。 実験は3つの部分から成っている: (a)絵画的先行オーガナイザーによる枠組形成と物語の提示のセッション,(b)理解テストおよび事象の自由再生テストを含む直後テスト,(c)事象の自由再生のみを3目後に行う遅延テスト。(a)においては枠組形成後,"これから象さんの話をします。後でどんな話であったか私に話せるようによくおぼえて下さい」という教示のもとで物語が話された。主な結果は次のとおりである。 (1) 展開部,終末部および因果関係の叙述での6才児の得点は9才児の得点とほぼ同じであったが,9才児は6才児よりも開始部の理解がすぐれていた(FIG. 1)。 (2) 事象の初頭と新近性部位での再生率は中間部位の再生率よりも高いという系列位置の主効果が有意であった。さらに直後再生における初頭と新近性部位における再生率(それぞれ.97と.95)は,遅延再生における再生率(それぞれ.95と.93)と非常に類似していた(FIG. 2)。 (3) 9才児は6才児よりも事象の継続的順序性をよりよく再生した(TABLE4)。 (4) 直後テストにおける順序提示群での順序性把握の得点は,ランダム提示群や統制群よりも優れていたが,遅延テストでの3群間の成績には差異はみられなかった(FIG. 4)。
著者
丸野 俊一 堀 憲一郎 生田 淳一
出版者
九州大学
雑誌
九州大学心理学研究 (ISSN:13453904)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-19, 2002-03-31
被引用文献数
5

The purpose of this study was twofold: (1) To investigate differences in strategies for scientific reasoning or verification between discussion groups where members share one naive theory (or explanation) for the differences of behaviors between two dogs and those where they do not, and (2) to identify and characterize the functions of metacognitive speeches (e.g., "Well...""Um...""Let see...""But...), which are covert or overt "uttcrance", observed under the reflective or critical thinking in action when subjects often try to clarify their own ideas and to examine evidence for or against their theory from a new perspective, and pose a question and try to give an alternative idea in evaluating other ideas or theories. To investigate college student's naive theories for the difference between the reactions of two dogs to a stranger, we asked them, in a preliminary study, to write down their possible explanation (s) for it. Based upon the explanations (or naive theories) which students gave in this preliminary study, the following 3 groups were formed: Condition A groups where group members commonly held one naivc theory to he true; Condition B groups where menbers commonly held one naive theory to be untrue, and finally, Condition C groups where all member held different theories from one another. One group consisted of 4-5 students, and they were asked to engage in discussion for 30 minutes, under the following instruction: "Please discuss your explanation (naive theory) by evaluating all possible proofs/evidence and decide whether or not it can be concluded to be a valid explanation."Main findings were as follows. (1) Condition A groups were more likely to use "proving" strategies by pointing out the evidence/proofs that demonstrate their theory's plausibility. (2) Condition B groups were more likely to use "disproving"strategies by pointing out the evidence/disproofs that undermine the theory, (3) metacognitive speeches occurred in the two situations: One situation where each member engaged in reflective thinking in action and here covert or overt "utterance"was directed toward oneself, and the other situation where one member posed a question or gave an alternative idea in evaluating other ideas or theories and here covert or overt "utterance"was directed toward other members instead, and (4) five functions of metacognitive speeches were identified and characterized: To show one's consent, to show disagreement, to indicate possible problems (by reviewing the line of discussions that have taken place), to organize one's own understanding, and to create a new idea/perspective or propose an alternative idea/perspective.
著者
橋本 公雄 丸野 俊一 徳永 幹雄 西村 秀樹 山本 教人 中島 俊介 杉山 佳生 藤永 博
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、運動・スポーツで経験されるドラマチックな体験が、青少年の生きる力にどのような影響を及ぼしているのかについて、質的および量的側面から検討することを目的とした。ここでは、ドラマチック体験を「練習や試合を通して体験した心に残るよい出来事や悪い出来事を含むエピソード」と定義し、試合場面における、たとえば逆転勝利などの劇的な瞬間だけでなく、普段の練習の過程でもみられる様々なエピソードも含めて捉えることとした。また、生きる力は、ライフスキルの概念と類似しているため、量的側面の分析では、スポーツドラマチック体験の学校生活におけるライフスキルに及ぼす影響を分析した。質的研究は、大学生(一般学生と体育部学生)を対象に、自由記述およびインタビューによって、どのような場面でドラマチックな体験が生じているのか、またその体験が心理、社会、身体、および生活上にどのような影響をもたらしたかを分析した。その結果、ドラマチック体験として、成功体験、失敗体験、試合体験、出会い体験、克服体験、課題遂行体験、役割遂行体験などが抽出され、心理的(自信や意欲)、身体的(技能向上)、社会的(協力や他者への思い)、人生・生活観(将来の見通しや人生観)にポジティブな影響を及ぼし、ドラマチック体験が生きる力に寄与していることが明らかにされた。また、ドラマチック体験尺度(Inventory of Dramatic Experience for Sport : IDES)の開発を試み、「努力の積み重ねへの気づき」「技術向上への気づき」「対人トラブルによる自己反省」の3因子、13項目からなる尺度を作成した。ドラマチック体験(独立変数)と学校生活スキル(従属変数)との関連では、時間的展望、QOL,自己効力感を媒介変数とする共分散構造分析を行い、モデルの検証をした。さらに、本研究では運動・スポーツ活動ばかりではなく、自然体験なども生きる力には関連するものと思われ、グリーンツーリズムや野外キャンプにおけるコミュニケーションに関しての考察を行った。
著者
向井 隆久 丸野 俊一
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.158-168, 2010-06-20
被引用文献数
1

本研究の目的は,心的特性の起源(氏か育てか)に関する概念の発達を説明する上で,「概念は,状況・文脈から独立にあらかじめ成立している(伝統的概念観)のではなく,概念と状況・文脈が互いに整合する形で構成されて初めて成立する」という概念観の妥当性・有効性を検討することであった。そのため,小学2〜6年生300名を対象に,特性の起源を問う課題構造は同一であるが,子どもに認知される課題状況・文脈に違いがあると想定される2つの課題(乳児取り替え課題,里子選択課題)を用意し,状況・文脈の違いによって,特性の起源に関する認識に違いが生じるのか否かを実験的に検証した。特に本研究は,あらかじめ場合分けされた知識・概念では対応できないような,場に特有の内容で子どもに認知される状況・文脈(目標解釈や思い入れ,意味づけ)に着目した。結果は,乳児取り替え課題では,特性の規定因を'生み育て両方'とはみなしにくい低学年児の多くが,里子選択の状況では高学年児と同等に'生み育て両方'を規定因とみなし,特性の起源に関する認識が状況・文脈に整合する形で即興的に構成されることを示した。こうした結果を受けて考察では,子どもの示す理解の仕方は状況・文脈と一体となって絶えず変動するとみなし,「状況・文脈と概念との相互依存的で整合的な構成のされ方の変化」として概念変化を捉えることが適切ではないかという新たな概念観の有効性を議論した。
著者
向井 隆久 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.158-168, 2010-06-20 (Released:2017-07-27)

本研究の目的は,心的特性の起源(氏か育てか)に関する概念の発達を説明する上で,「概念は,状況・文脈から独立にあらかじめ成立している(伝統的概念観)のではなく,概念と状況・文脈が互いに整合する形で構成されて初めて成立する」という概念観の妥当性・有効性を検討することであった。そのため,小学2〜6年生300名を対象に,特性の起源を問う課題構造は同一であるが,子どもに認知される課題状況・文脈に違いがあると想定される2つの課題(乳児取り替え課題,里子選択課題)を用意し,状況・文脈の違いによって,特性の起源に関する認識に違いが生じるのか否かを実験的に検証した。特に本研究は,あらかじめ場合分けされた知識・概念では対応できないような,場に特有の内容で子どもに認知される状況・文脈(目標解釈や思い入れ,意味づけ)に着目した。結果は,乳児取り替え課題では,特性の規定因を'生み育て両方'とはみなしにくい低学年児の多くが,里子選択の状況では高学年児と同等に'生み育て両方'を規定因とみなし,特性の起源に関する認識が状況・文脈に整合する形で即興的に構成されることを示した。こうした結果を受けて考察では,子どもの示す理解の仕方は状況・文脈と一体となって絶えず変動するとみなし,「状況・文脈と概念との相互依存的で整合的な構成のされ方の変化」として概念変化を捉えることが適切ではないかという新たな概念観の有効性を議論した。
著者
富田 英司 丸野 俊一
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.89-105, 2005 (Released:2009-10-16)
参考文献数
26
被引用文献数
7

The present study explored factors that promote change in discussants' explanations for a social phenomenon through a highly ill-defined problem solving discussion. Specifically, causal model 1 (engagement in conflicting and⁄or cooperative discourse promotes cognitive change) and causal model 2 (questioning by other triggers one's explanatory activity which results in his⁄her cognitive change) were mainly examined. Forty-three college students were divided into 10 groups, which consist of 4-5 members each. Each group was asked to construct a hypothetical causal explanation, which explains the causes of Japanese teenager's impulsive aggression. All discussions were videotaped and coded in terms of conversational function with a coding schema developed by Tomida & Maruno (2000). Frequencies of coded utterances that each discussant generated during discussion were utilized as main variables. As results, although the model 2 was supported, the model 1 was partially supported. That is, while cooperative utterances facilitated cognitive change, conflicting utterances had no such an effect. Additionally, examining relationships among frequencies of utterances, we found cooperative utterances elicit explanatory activity. Considering a fact that explanatory activity clearly led changes in explanations, we speculated that the two causal models can be integrated.
著者
野村 亮太 丸野 俊一
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.12-23, 2009-07-11 (Released:2017-07-21)

本研究の目的は、自然言語処理技術を援用して、熟達した噺家の語りに〈核〉として現れる中心的な概念を明らかにすることである。インタビューの逐語記録(芸談)をデータとし、複数の語が同一の文に同時に含まれるという共起情報を利用して、語によって表現される信念どうしの相互関係を推定し、信念地図を作成した。この手法は、先入観によるバイアスや見落としの危険性を低減させ、噺家の信念地図の時系列的な変化や師匠と弟子とのあいだの信念地図の類似性を客観的・定量的に検討することを可能にするものである。
著者
麻生 良太 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-11, 2010-03-20 (Released:2017-07-27)

本研究では,過去から現在への時間的広がりを持った感情理解の発達は,推論の仕方の発達的差異,すなわち現在の状況に依拠した推論から他者の思考に依拠した推論への発達的変化を反映していると想定した。(i)現在の状況に依拠した感情の推論とは,他者が過去に感情を帰属した手がかりが提示されることで,現在の他者の感情を,その手がかりから推論することであり,(ii)他者の思考に依拠した感情の推論とは,他者が過去で感情を帰属しなかった手がかりが提示されることで,現在の他者の感情を,「他者はその手がかりを見て過去を思い出している」という思考にもとづいて推論することである。この仮説を検証するために,3,4,5歳児を対象に,(i)と(ii)のどちらかの推論過程にもとづいて感情を理解する物語課題を提示し,現在の他者の感情を推論させると同時に,その理由を求めた。その結果,3歳児は(i)の推論過程でのみ,4,5歳児は(i)と(ii)両方の推論過程にもとづいた時間的広がりを持った感情理解ができることを示した。これらの結果は仮説を支持するものであり,時間的広がりを持った感情理解の発達変化は推論過程の変化に起因する,また,4歳頃を境として,状況に依拠した推論から他者の思考に依拠した推論へと変化することを示唆した。
著者
麻生 良太 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.163-173, 2007-12-20 (Released:2017-07-27)

本研究の目的は,現在の感情理解の発達を(i)感情を抱く主体の心の所在(自己か他者か)の広がり(参加者条件)の観点から,そして時間的広がりを持った感情理解の発達を(i)の観点と(ii)感情生起の原因となる対象(人か人以外か)の広がり(対象条件)の観点という2つから検討することであった。目的(i)(ii)を検討するために,実験1では3歳児15名,4歳児18名,5歳児24名を対象に,紙芝居を用いて感情の原因を推論させる課題を行った。その結果,各年齢での参加者条件,対象条件の課題通過率に差は見られなかったが,5歳児は3,4歳児よりも課題通過率が高いことが明らかになった。実験2では,実験1の問題点を改善し,目的(i)(ii)の再検討を行った。4歳児69名,5歳児64名を対象に,感情生起の原因となる対象を人と物とし,また,幼児自身が参加できるように,人形劇を用いて現在の感情の原因を推論させる課題を行った。その結果,各年齢での参加者条件の課題通過率に差は見られなかったが,時間的広がりを持った感情理解において,4歳児は,感情生起の原因となる対象が人の方が,物よりも先に理解することができ,5歳児では人と物では差がないことが明らかになった。実験1・2の結果から,感情理解には自他の関与に関係なく同時に発達することや,意図を持った対象(人や動物)との相互作用の中でのみ理解される発達段階があることが示唆された。
著者
加藤 和生 丸野 俊一 田嶌 誠一 笠原 正洋 後藤 晶子 田代 勝良 大隈 紘子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

3年間を通して,以下の一連の研究を行った.(1)一般サンプル(大学生)を対象に,潜在的児童虐待被害の実態およびその心に及ぼす影響を検討した.その結果,多くの潜在化した被害者が存在すること明かとなった.(2)これまでに開発してきた「多重性児童虐待目録」の併存的妥当性を検討した.その結果,理論的に予想される方向の結果が得られ,妥当性が確認された.また「多重型児童虐待目録」を養護施設に措置された被虐待児に面接形式で実施し,臨床的妥当性の探索的検討を行った.本目録が,これらの子どもの体験した虐待経験を概ね測定していることが確認された.(3)F県3市の保育園に在園する幼児について,親による虐待の実態の大規模調査を保育士に実施した.その結果,約1.5%の潜在的被虐待児が存在することが明らかなった.また同時に,1-3歳児用・4-5歳児用の「幼児用児童虐待症状尺度」を開発した.(4)保育士の被虐待児の早期発見と対応に伴う問題点に関する質問紙調査を行い,その結果を質的に分析した.この結果をとおして,潜在化する被虐待児の早期発見と対応のための対策を考案する上で,今後の研究の手がかりを得た.(5)保育士による園内での児童虐待の実態を,大学生の回想報告の調査を行うことで明らかにした.(6)大規模な精神科医療機関に通院する患者における潜在的児童虐待被害の実態を調査した.(7)虐待通報が十分に行われていない理由として考えられる「虐待・しつけの認知」に関するズレを,13の職種の人たち(児童相談所職員,医師,検察官,保育士,教師,その他の職種,主婦,大学生など)について調査し,比較検討した.その結果,児童相談所の児童虐待に専門性をもつ人たちは,一般人(主婦,他の職種,大学生)よりも,虐待的行為をより非虐待的に見なしていることが明らかとなった.また他の職種の人の評定値は,これら2群の間にくることがわかった.