- 著者
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山上 浩志
- 出版者
- 物性研究刊行会
- 雑誌
- 物性研究 (ISSN:05252997)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.2, pp.328-353, 1999-11-20
相対論は高エネルギーの分野だけではなく、物質の世界でもさまざまな顕著な効果を与えている。原子核の近傍に束縛されたランタノイドやアクチノイド系化合物の4f及び5f軌道には、相対論的効果が強く働き、電子状態や電子分布に特徴的な変化を生み出す。さらに、その変化は外殻の広がった伝導電子にも影響を及ぼし、固体のエネルギーバンド構造に反映する。よく知られた相対論的効果のひとつにスピン・軌道相互作用がある。この効果は広がった電子分布をもつ半導体のpバンドにも重要な補正をもたらす。このように相対論的効果は局在的な電子分布をもつf軌道に特有なものではなく、固体電子論の一般的な効果としてみなすことができる。また、磁性体の磁気的性質に関してもスピン・軌道相互作用を媒介としたスピンの自由度による軌道の自由度の制御に対する処方箋を与える。このサブゼミでは、固体の電子構造の第一原理計算として相対論的スピン分極密度汎関数理論とディラックの相対論的1電子方程式を基礎においたバンド理論の定式化、及びそれにより解明される電子構造の特性を紹介する。ド・ハースーファン・アルフェン効果から得られたフェルミ面の形状や角度分解光電子分光によるバンド構造の分散が自己無撞着相対論的バンド計算によりはじめて説明できる場合が多い。いくつかの化合物に関する解析結果を紹介する。f電子系の磁性化合物は、多くの場合、軌道モーメントがスピンモーメントよりも大きいため、3d電子系とは対照的にf電子系の磁性は軌道モーメントが支配的である。相対論的アプローチによるスピン及び軌道モーノントの基本的な性質を説明するとともに、ノンコリニアーな磁気構造をもつ化合物に対する相対論的バンド理論の一般化にもふれる。