著者
青山 茉利香 山下 有加 前田 雄岳 小松 玲奈 西 健 安藤 智 大槻 克文
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.463-467, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
17

【症例】35歳,1妊0産.タクロリムス投与下に凍結胚移植により妊娠成立.妊娠10週に当院紹介.妊娠中と分娩時に合併症なく,妊娠38週で2,564g,男児を経腟分娩した.産褥3日目,突然の血圧上昇を示した直後,眼球上転,嘔吐を契機に強直間代性痙攣を生じた.チアノーゼ,呼吸停止を認め,気道確保を行い人員を集めた.ジアゼパム投与後に子癇発作,痙攣再発予防の治療を開始し,他疾患の鑑別を行った.脳波検査より,てんかんの診断に至り,抗てんかん薬を導入の上分娩後13日目自宅退院となった.分娩後マタニティブルーや母乳育児支援でフォローをおこなった. 【結論】分娩産褥期に初発の痙攣発作をみた際には迅速な初期対応を可能とする体制整備と産科疾患のみにとらわれない鑑別をおこなうことが重要である.てんかんと診断した場合には治療コンプライアンスを維持する患者教育,母乳育児支援,メンタルヘルスへの配慮が重要なポイントとなる.
著者
山下 智幸 山下 有加
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.391-412, 2016-04-01

日本産婦人科医会妊産婦死亡症例検討評価委員会の調査1)では,国内の妊産婦死亡は2010〜2014年の5年間で237例発生しており,平均すると47.4例/年の頻度である。年間出生数が100万人強であることを考慮すると,おおよそ21000分娩に1例程度の妊産婦死亡と概算できる。 一方,米国では,妊婦の心停止は12000分娩に1例2)と考えられている。米国疾病対策センター(CDC*1)の調査3)では,はっきりとした原因はわかっていないものの,妊娠関連死亡数は増加傾向であることが指摘されており,2011年の妊娠関連死亡は17.8例/10万生存分娩である。ヨーロッパの妊産婦死亡は,国ごとに異なるものの16例/10万生存分娩と推定されている4)。カナダでは,2009年10月〜2010年11月において,6.1例/10万分娩で減少傾向である5)。日本では6例/10万生存分娩で,先進国全体の16例/10万生存分娩よりも下回っている4)。 妊産褥婦心停止の頻度は決して高くない。しかし,これらの調査は生命予後のみに焦点が当てられた調査であり,妊産褥婦の心停止ニアミス症例*2がどの程度なのか,あるいは機能予後がどうなっているかについては現時点ではわかっていない。オランダの調査6)ではニアミス症例が約141分娩に1例存在していることを指摘しており,妊産褥婦の心停止に対する備えの重要性を物語っている。 救急・集中治療に従事する医療スタッフは,緊急度・重症度の高い事象に十分備える必要があるが,妊産褥婦の蘇生に関する特別な知識や技術を身につけることに加え,診療体制を整備しておくことが欠かせない。「知ってはいるが,実際にできない」では元も子もないのである。本稿では,最新の蘇生ガイドラインの内容も含めながら,妊産褥婦の蘇生について解説する。Summary●妊婦の蘇生では,一般成人の蘇生と同様に質の高いCPRが重要である。●子宮左方圧排を用手的に行い,大動脈・下大静脈圧迫(ACC)を解除する。●妊婦心停止では,その場で帝王切開を行い,児を娩出させる必要がある。●施設内での備えが重要で,シミュレーションなどを行っておくことが望ましい。