著者
中澤 毅 大畑 尚子 石塚 貴紀 高田 萌々 小松 泰生 直海 玲 石川 裕子 諸井 明仁 大橋 容子 高橋 慶行 橋口 幹夫 青柳 藍 源川 隆一
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.96-100, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
12

目的:2018年に沖縄県を訪れた外国人観光客は290万人と過去最高を更新している.これに伴い当院救急室を受診する外国人旅行者妊婦も増加している.今回当院を受診した外国人旅行者妊婦症例の実際に対応した際の特徴や問題点・今後の課題について検討した. 対象および方法:2014年1月1日から2018年12月31日の5年間に当院救急室を受診した外国人旅行者妊婦の診療録を後方視的に検討した. 結果:当該期間に受診した外国人旅行者妊婦は37例だった.多くは軽症だが,入院・分娩の症例も存在し入院費は母児を含めて300万円前後であった.また異なる言語・文化・保険システムが現場対応となる事も多く診療・治療に支障となる事例が確認された. 考察:外国人旅行者妊婦症例は増加しており緊急の対応が必要となる場合もある.限られた医療資源の中で対応の難しい症例もあり,今後の環境整備が重要だと考えられた.
著者
山下 優 奥村 能城 井村 友紀 奥田 知宏
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.309-314, 2020 (Released:2020-09-10)
参考文献数
11

災害発生時は衣食住資源と共に医療資源確保も困難となる.今回我々は集中豪雨による河川増水・土砂崩れの影響で孤立した療養型病院でテレビ通話を使用し正常分娩に至った症例を経験した.29歳女性,2妊1産,自然妊娠で当院通院中であった.妊娠40週に陣痛発来あるが豪雨による冠水・土砂崩れにより来院不可であり自宅近くの当院分院を受診.分院には内科医・看護師のみで,産科・小児科・助産師不在であった.陸空路移送は不可能であり,本院からテレビ電話を使用し分娩状況を確認.分娩指示を行い経腟分娩に至った.児は2,900gでApgar score 9/10点の男児であった.胎盤もテレビ電話でBrandt法を指示し剥離を施行した.産後1日目に道路開通し本院搬送となるが母児共に経過良好で,産後4日目に軽快退院となった.災害時の医療資源確保は困難だがデバイスを駆使することや周産期教育推進で医療連携が取れ資源確保ができる可能性が示唆された.
著者
大槻 克文
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-22, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
181

Preterm birth is a major cause of perinatal morbidity and mortality. A short cervical length on transvaginal ultrasound examination in the mid-trimester is one of the best predictors of preterm birth. Many methods are now being reported to predict preterm labor and preterm delivery, and many treatments to prevent preterm labor and preterm delivery. When cervical shortening is diagnosed, cervical cerclage has been proposed to prevent preterm birth, although several randomized trials have not supported this practice. As inflammation plays a central role in the pathology of preterm delivery, suppressing such inflammation as cervicitis and chorioamnionitis is crucial for treating preterm delivery. However, Mg sulfate and beta-2 agonists, which are currently used to treat threatened preterm delivery by inhibiting uterine contractions, do not reduce inflammatory response. As a result, Mg sulfate and beta-2 agonist therapy are considered to only treat the symptoms of cervicitis and chorioamnionitis. The use of antibiotic and anti-inflammatory therapies to treat cervicitis and chorioamnionitis has been recently reported. From these background and the various causes of premature birth, it is hard to make a uniform explanation of the mechanism. It is not uncommon for premature birth to occur due to medical reasons or diagnosis due to maternal complications, etc., due to an increase in maternal age. There is also an iatrogenic aspect due to an increase in multiple births and in utero fetal growth retardation due to an increase in assisted reproduction treatment. While focusing on these iatrogenic premature births, it remains important to understand the cascade of premature births based on traditional infections and inflammation. It is no doubt that reducing premature birth itself is important. However, there are a number of researches to prevent premature labor and to treat preterm birth.
著者
木野 民奈 丸山 康世 中川 沙綾子 山本 賢史 中島 文香 小河原 由貴 平吹 知雄 宮城 悦子
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.309-314, 2021 (Released:2021-09-06)
参考文献数
19

当院で分娩した妊産婦の風疹抗体保有率と産後の風疹ワクチン接種状況について,後方視的研究を行ったため報告する.2014年1月から2017年12月までに生産児を分娩した妊産婦3,322名を対象とした.妊娠初期の血液検査で風疹抗体価HI ≦ 16倍を低抗体価とし,経産回数や不妊治療の有無,年齢別に,低抗体価の割合と産褥入院中の風疹ワクチン接種の有無を検討した.低抗体価の妊産婦の割合は31.5%,その中で風疹ワクチン接種率は43.6%であった.35歳未満の妊産婦に比べ,35歳以上の妊産婦は抗体保有率が高く,年齢と共に上昇した.また,初産婦は経産婦に比べワクチン接種率が高かった.さらに,不妊治療後の妊産婦でも低抗体価の妊産婦が一定数存在した.風疹・先天性風疹症候群予防のための妊産婦における風疹ワクチン接種率は依然として低く,官民一体となった施策が必要である.
著者
濱野 聖菜 杉田 達哉 川戸 仁 戸石 悟司 清水 久美子 小幡 新太郎
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.64-70, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
14

目的:不妊症に悩む夫婦は増加し,本邦におけるAssisted Reproductive Technology(以下ART)後妊娠の割合は増加している.当院の分娩症例を通じて,高次施設における不妊治療後妊娠の周産期合併症を検討する. 方法:当院における2015〜18年の全分娩2, 242例を,自然妊娠群,一般治療後妊娠群,ART後妊娠群に3群化し,13項目の周産期合併症を検討した.χ2検定または一元配置分散分析を用いた二変量解析の後,調整因子を補正し多重ロジスティック回帰分析を行った. 結果:多変量解析では,胎盤位置異常が一般治療後妊娠群およびART後妊娠群で自然妊娠群より有意に高率であり,分娩時大量出血とApgarスコア1分値7点未満がART後妊娠群で自然妊娠群より有意に高率であった. 結論:今後は合併症を意識した周産期管理が重要であり,多施設で症例数を増やした検討も期待される.
著者
森 博士 荒牧 聡 柴田 英治 桑鶴 知一郎 内村 貴之 吉野 潔
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.512-516, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
15

梅毒の初回治療時にJarisch-Herxheimer反応(以下J-H反応)を呈する例があることが知られているがその機序は不明である.一般的には一過性であり24〜36時間以内に軽快する.妊娠中に発生した場合の確立した対応法はない.今回,妊娠37週に第1期または第2期の妊娠期梅毒と診断して初回治療開始から3.5時間後にJ-H反応を認めた症例を経験した.母体発熱と悪寒,全身発赤,子宮収縮の増加,CTGで胎児頻脈を認め,速やかに帝王切開で児を娩出し,母児ともに良好な経過であった.妊娠中の初回梅毒治療時の管理とJ-H反応を認めた場合の適切な対応について,今後も症例の蓄積と検討が必要である.
著者
徳田 温子 児玉 由紀 菅野 知佳 後藤 智子 山田 直史 山下 理絵 土井 宏太郎 金子 政時 鮫島 浩
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.538-543, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
9

梅毒は未だに最もよくみられる先天感染であり,未治療母体では胎児感染が懸念される.近年米国だけでなく,本邦でも梅毒患者数が増加し,先天梅毒の報告数が増えている.先天梅毒は適切な治療により予防可能であることから,妊娠中の梅毒の早期発見と早期治療が重要である.今回,先天梅毒を合併し異なる経過をとった極低出生体重児2症例を報告する.いずれも妊娠20週以降で判明した母体梅毒であったが,抗菌薬治療10日間後に出生した1例は軽快退院した.抗菌薬1回治療後に,胎児機能不全のため出生し,新生児死亡した症例の胎盤と全身臓器には多数のTreponema pallidumが認められ,抗菌薬治療の限界と考えられた.
著者
北村 亜也 田中 啓 松島 実穂 松澤 由記子 谷垣 伸治 小林 陽一
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.101-105, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
13

産科出血は妊産褥婦死亡の主要な原因を占め,速やかな対応を必要とする.近年,子宮動脈塞栓術(UAE)は産科出血に対する治療法として頻用されているが,生殖能への影響は十分に評価されていない.産科出血に対するUAEが月経再開,妊孕性,妊娠合併症に与える影響について後方視的に調査した.産科出血に対してUAEを行った78例のうち,追跡できた53例の月経再開率は98.1%(52/53例)であった.月経再開した52例中,挙児希望があった15例のうち,11例が妊娠成立し,8例が分娩に至った.そのうち3例が前置胎盤となり,その全例で癒着胎盤を認め帝王切開同時子宮全摘術を実施した.本検討により,UAEは月経再開や妊孕性には概ね影響を与えないが,妊娠例では癒着胎盤の発生率を高める可能性があることが明らかになった.UAE後の妊娠については,ハイリスク妊娠としての慎重な管理と十分な患者説明が必要である.
著者
河野 由美
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.203-212, 2020 (Released:2020-09-10)
参考文献数
45
被引用文献数
1

NRNJデータベースに登録された2003〜2015年出生の極低出生体重児55,444名の予後を総括した.3歳までの死亡は全体で8.1%(NICU死亡7.5%,退院後死亡0.6%),超低出生体重児は13.9%(13.2%,0.7%)であった.3歳時評価例中,脳性麻痺6.8%,両側/片側失明2.1%,補聴器使用1.0%,新版K式発達検査DQ < 70または主治医判定の発達遅滞を16.9%に認め,いずれかを合併する神経学的障害(NDI)を19.3%に認めた.超低出生体重児のみでは,脳性麻痺9.2%,失明3.6%,補聴器使用1.6%,発達遅滞24.4%,NDI 27.8%であった.全対象における死亡またはNDIの割合は16.1%,超低出生体重児では25.6%であった.在胎22〜24週の2008〜2012年出生児を2003〜2007年出生児と比較すると,死亡,死亡または脳性麻痺,死亡または視覚障害,死亡または聴覚障害はすべての週数で減少した.死亡または発達遅滞は23週では減少したが22,24週は有意な変化を認めなかった.児の長期予後の改善は周産期医療の指標となり,産科と新生児科・小児科が連携した調査研究の継続が重要である.
著者
水主川 純
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.607-609, 2021

<p> <b>はじめに</b></p><p> 特定妊婦は,児童福祉法において「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」と定義されている.厚生労働省による子ども虐待予防の手引き<sup>1)</sup>では,出産の準備をしていない妊婦,こころの問題がある妊婦,経済的に困窮している妊婦などが特定妊婦の指標として挙げられている.妊娠期から適切な養育環境を確保するために特定妊婦に対する支援が行われることは,子ども虐待の発生予防の観点から重要である.本稿では産科医の立場から特定妊婦への対応と課題について概説する.</p>

3 0 0 0 OA 新生児搬送

著者
島袋 林秀
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.668-671, 2021 (Released:2021-04-26)
参考文献数
9

総論 1.はじめに─新生児搬送の究極的な原則─ 新生児搬送の究極的な原則は,母体(胎)搬送によって新生児搬送を極力回避することである.限られた人材・資材・空間での新生児搬送は,搬送医学(transport medicine)の高度な技術と経験が求められ,はるかに母体搬送よりリスクが高いからである.一方で,新生児搬送は新生児科医師には直面することも多く,不可避の技術でもある.慢性期の転院だけでなく,早産児の予期せぬ出生,胎盤早期剥離により母体搬送の時間すらない状況,低体温療法実施施設への搬送,さらには外科手術による緊急搬送等も稀ではない.また,本邦では米国に比べ分娩施設が周産期センターに集約化が進んでいないために,周産期センター以外での分娩が約半数を占め,結果的に新生児搬送が必要となりやすい背景もある.本稿では,新生児科医の不可欠な技術である新生児搬送について解説する.誌面の都合上,やや総論的な概説になることをお許し願いたい.
著者
安福 千香 市村 信太郎 山本 ひかる
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.106-110, 2023 (Released:2023-05-10)
参考文献数
18

先天性両側性横隔膜弛緩症の治療経過中に悪性高熱症を発症し,悪性高熱症の原因遺伝子解析の結果から先天性ミオパチーを合併していると診断した症例を報告する. 症例は,出生直後から呼吸障害を呈し,両側性横隔膜弛緩症と診断して横隔膜縫縮術を施行した.麻酔薬による悪性高熱症を発症したために行った遺伝子解析の結果,1型リアノジン受容体(RYR1)遺伝子のバリアントが同定され,この結果から遺伝学的に先天性ミオパチーと診断した. 先天性横隔膜弛緩症は新生児期の呼吸障害の原因となりうる先天性疾患であり,両側例はまれであるとされる.横隔膜弛緩症と神経筋疾患の合併例は過去にも報告されており,既報からは神経筋疾患を合併する先天性横隔膜弛緩症は両側例が多い可能性が示唆され,両側性横隔膜弛緩症と診断した場合は神経筋疾患の合併を念頭に置いて診療を行うことが望ましいと考える.
著者
越智 良文 田嶋 敦 小池 由美 白勢 悠記 三谷 尚弘 森 向日留 末光 徳匡 松浦 拓人 鈴木 真
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.124-127, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
7

子宮破裂は子宮手術の既往のある妊婦に好発し,無痛分娩を併用した際には疼痛がマスクされ,その診断が遅延する可能性が指摘されている.今回子宮手術の既往のない経産婦が無痛分娩中に子宮破裂を起こしたが,速やかに診断し母児共に救命できた症例を経験した.34歳の1産婦に対し,妊娠39週6日に無痛計画分娩を行った.子宮口6cm開大から分娩遷延,頻収縮を認めたのちに左側腹部の突発痛と胎児心拍数モニタリングの異常を認め,子宮破裂と診断し帝王切開へ移行した.開腹時に児は腹腔内に脱出しておりそのまま娩出,母体の子宮体下部前壁左側に広範な裂傷を認めた.母児ともに術後経過は良好であった.子宮破裂は子宮手術歴のない妊婦にも起こり得る.特に良好な除痛が得られている無痛分娩中に発症した突発痛を伴う胎児心拍数モニタリングの異常は,子宮破裂を疑う契機になると考えられた.
著者
山口 美穂子 木下 大介 秋田 大輔 西村 陽
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.468-473, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
9

重篤な新生児の治療中止は重要な倫理的課題である.経口気管挿管下で退院し,自宅で看取りを行った症例を経験したので報告する.症例は正期産,出生体重約2,500g,Apgar score 0/0/0点.常位胎盤早期剥離のため緊急帝王切開で出生したが,重症低酸素性虚血性脳症に至った.両親は生後早期より人工呼吸器下での生命維持を望まず,自宅での看取りを希望した.両親・新生児科医師・看護師間及び院内臨床倫理委員会で協議し『自宅での看取り』は児の最善の利益となると考えた.生後1カ月半に経口気管挿管下で自宅へ退院し,永眠した.臨床倫理コンサルテーションや慎重な意思確認のプロセスを踏むことで看取りを支援できた.重篤な新生児を数多く経験するNICUにおいては,個々の症例における様々な可能性を両親・医療者を含めた多職種で慎重に検討し,児の最善の利益に繋げていく必要がある.
著者
田口 奈緒 荒木 智子 中島 文香 片岡 裕貴
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.282-287, 2021 (Released:2021-09-06)
参考文献数
16

妊娠期における親密なパートナーからの暴力(Intimate partner violence:以下IPVと略)と産科合併症との関連について検討を行った.2019年2月から7月までに受診した妊婦のうち切迫早産や前期破水,胎児発育不全といった産科合併症のために母体胎児集中治療室に入院した69名と外来健診者355名を比較した.スクリーニングには女性に対する暴力スクリーニング尺度(VAWS)を用い,被害の陽性率は入院群では36.4%,外来健診群では23.4%と有意差を認めた(p=0.027).多変量解析において出産回数,全般性不安障害,早産既往,喫煙の有無で調整した後の入院群と外来健診群ではIPVは有意な単独要因として残らなかった.産科合併症のために入院した妊婦の3分の1がIPVの可能性があったという今回の結果から,妊婦および胎児の心身の健康上,潜在的なIPVを発見するためにスクリーニングを行うことは重要であると考えられた.
著者
張本 姿 綱掛 恵 平井 雄一郎 小西 晴久 藤本 英夫
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.476-480, 2021 (Released:2021-12-10)
参考文献数
13

医療機関の集約化に伴い墜落分娩が生じる懸念がある.今回我々は2015年から2020年までに当院で経験した墜落分娩を,それぞれ後方視的に検討した.対象期間の総分娩数は3,678例,うち墜落分娩は16例(0.44%)であった.墜落分娩症例の自宅から当院までの距離は中央値28.5kmであった.初産婦1例,経産婦15例で,産科既往症では墜落分娩3例,切迫早産2例,早産1例の既往を認めた.児娩出から当院到着までの時間は中央値11.5分で,児は胎児異常による死産1例,低体温症5例,呼吸障害4例,多血症3例を入院時に認め,入院中4例が黄疸で光線療法を施行した.検討の結果,様々な状況で墜落分娩は生じていた.分娩前の墜落分娩リスクの把握や指導,墜落分娩が切迫している際の適切な指示や生じた際の対応について妊婦や救急隊へ指導を行うことで,墜落分娩を増加させない,あるいは墜落分娩での合併症を減らすことが大切である.
著者
塙 真輔 小幡 新太郎 真田 道夫 佐藤 史朗 西方 紀子
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.20-26, 2023 (Released:2023-05-10)
参考文献数
10

産婦人科志望の初期研修医が執刀した帝王切開の安全性と,その経験が初期研修医の心境に与える影響を検討した.2014-2019年に当院で産婦人科志望の初期研修医9名が執刀した帝王切開66例(初期研修医群)を対象とした.指導医8名が執刀した帝王切開147例(指導医群)を対照群とし臨床背景,手術情報,転帰を検討した.心的影響の評価に初期研修医へアンケート調査を行った.手術時間,執刀開始から児娩出までの所要時間の中央値は初期研修医群で83.5分と14分,指導医群は61分と7分で初期研修医群は有意に長かった.臍帯血動脈pHの中央値は初期研修医群で7.306,指導医群は7.33で初期研修医群は有意に低値であった.アンケートでは研修意欲向上や進路への影響など執刀経験による肯定的意見が多数みられた.初期研修医の帝王切開は指導医の管理下ならば安全性は許容範囲で研修意欲の向上やリクルートに寄与する可能性がある.
著者
久保 のぞみ 最上 晴太 万代 昌紀 近藤 英治
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.243-250, 2021 (Released:2021-09-06)
参考文献数
43

出生児の細菌叢形成は,母体細菌叢,胎生期の環境,分娩方法などに影響される.さらに抗生剤の使用,食事,母乳栄養,環境など出生後の因子が児の細菌叢をかたち作る.児の細菌叢は免疫系の形成に深くかかわり,正常な細菌叢が形成されない場合,喘息,炎症性腸疾患,自己免疫疾患などの発症リスクを増加させる.近年,新生児の正常な細菌叢の形成を目的とした,母体の腟分泌物の新生児への移植などが試みられ,アレルギー疾患などの新たな予防法として期待されている.
著者
水野 友香子 上林 翔大 安田 美樹 増田 望穂 安堂 有希子 佐藤 浩 田口 奈緒 廣瀬 雅哉
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.176-180, 2022 (Released:2022-05-10)
参考文献数
8

死戦期帝王切開術(PMCD)は心肺停止(CPA)妊婦の蘇生を助ける手段であり,CPA後速やかなPMCDの施行が母体予後を改善すると考えられている.計画的硬膜外麻酔下無痛分娩中にCPAとなり当院へ搬送されPMCDを施行し,母児とも救命し得たので報告する.症例は34歳の初産婦,妊娠経過は順調であった.既往歴,アレルギー歴に特記すべき事項はなかった.妊娠39週2日に計画無痛分娩のため硬膜外麻酔下で分娩中にCPAとなり,心拍再開と心停止を繰り返しながら当院へ搬送されPMCDを施行した.子宮筋層縫合後も創部からの出血が持続したためガーゼパッキングとVacuum packing closure法を行い集中治療室に入室したが出血が持続し子宮腟上部切断術を行った.母体は分娩後22カ月の時点で,高次脳機能障害として短期記憶障害を残すが,その他の知的運動機能は正常である.児は,重症新生児仮死で出生し低体温療法を施行されたが,重度低酸素性虚血性脳症による重症心身障害のため人工換気継続中である.今回の経験を今後に生かせるよう,診療チーム間で検討を繰り返し,プロトコールの作成を行ったので紹介する.
著者
三宅 麻由 衣笠 万里 西尾 美穂 松井 克憲
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.31-36, 2021 (Released:2021-05-10)
参考文献数
21

ケタミン塩酸塩は日本では麻薬に指定されているが,われわれは産科病棟に常備して緊急時に使用してきた.2007年1月から2018年12月までに同病棟でケタミンによる静脈麻酔を行った32症例について,その有効性と安全性を評価した.22例は胎盤用手剥離術施行例であり,出血量は平均1,096mLであったが,輸血例はなかった.それ以外は分娩後子宮出血止血処置が3例,腟裂傷・血腫の止血処置が4例,III度およびIV度会陰裂傷縫合が3例であった.計5例に輸血を要したが,その後の回復は良好であった.ケタミン使用量は30~80mg(平均43mg)であり,単独でも良好な鎮痛・鎮静効果が得られ,血圧低下・呼吸停止・誤嚥はみられなかった.またケタミン投与後の授乳による新生児への影響は認められなかった.ケタミンは有効かつ安全な麻酔薬であり,母体救命の視点から緊急時にはただちにアクセスできることが望ましい.