著者
内野 滋彦
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.280-281, 2011-04-01

まず,問題です。血圧(BP)に関するありがちな会話: 動脈圧ラインでBP 90/45(58)mmHgの患者を診て, 「あれ,血圧90しかないの? 低いね。ちょっと実測してみて」 自動血圧計で測定すると,102/50(59)mmHg。 「なんだ,100あるじゃん。じゃあ大丈夫だね」 さて,このなかに間違いはいくつあるでしょう? … この問題の答えの1つは,自動血圧計non-invasive blood pressure(NIBP)を“実測”と呼んでいる点である。この言葉,日本中で使われているかどうかは知らないが,少なくとも関東地方ではよく耳にする。“実際に測定”しているのは動脈圧ラインだと思うのだが,いったい誰が実測という言葉を使い始めたのだろうか? のっけから脱線してしまって申し訳ない。本コラムの主題はNIBPについてではなく,血圧の考え方についてである。ちなみに,この問題の答えは“実測”を含め4つある。まだわからない方は以下を読んでほしい。
著者
広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.259-269, 2018-04-01

酸素は生命に必須な分子である。それ故,基礎医学の範疇にとどまらず,基礎生物学の重要な研究課題であり,多くの論文が発表され続けている。臨床医学の分野でも「酸素」にまつわるさまざまな研究結果が存在し,読者諸氏もよくご存じのとおり,心肺蘇生時の酸素投与ではその有用性を超えて,有害性の有無を検討する臨床研究さえ存在する1)。集中治療を含むいわゆるクリティカルケア領域ではさらに複雑で,このような現状を背景に酸素にまつわる知見の整理をする必要がある。この観点から本特集「酸素療法」が企画されたのであろう。 本稿では,基礎生物学的な観点から低酸素応答・酸素代謝にかかわる研究の現状を解説し,臨床現場での判断に還元できる応用可能な生体と酸素についてのコンセプトを提示したい。Main points●生体内では酸素は欠乏しやすい。●生体の低酸素状態は,低酸素分圧性低酸素,貧血性低酸素,高酸素分圧性低酸素,組織低灌流・虚血,組織酸素代謝失調に分類できる。●貧血性低酸素は,低酸素分圧性低酸素に匹敵する強さの生体応答を惹起する。●転写因子である低酸素誘導性因子1(HIF-1)は,生体の低酸素応答で重要な役割を果たしている。●生体の低酸素による細胞毒性の発揮には,活性酸素種が重要な役割を果たす。●低酸素は炎症の進展とクロストークをする。●乳酸は生体の酸素失調の結果,産生される場合がある。
著者
田邊 翔太
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.202-210, 2020-01-01

William Oslerが語ったように,臨床家である我々は生理学・物理学に代表される科学を学び理解する必要がある。圧・張力・半径の関係を示したLaplaceの法則は管腔臓器に応用でき,流量・半径・粘度・長さ・圧の関係を示したHagen-Poiseuilleの法則は血流の理解や輸液療法に応用可能である。また流速・圧の関係を示したBernoulliの法則はCOPD患者に応用できる。偉大な先人たちにより発見された科学を理解することで,我々の臨床理解は深まるのである。
著者
坂田 大三 窪田 忠夫
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.579-586, 2016-07-01

癒着性腸閉塞adhesive small bowel obstruction(ASBO)に対する保存治療法として,米国では経鼻胃管〔short tube(ST)〕のみが減圧手段として使用されている一方,日本をはじめとする東アジアではイレウス管〔long tube(LT)〕が比較的多く使用されている。本稿では,減圧療法の歴史的変遷,STとLTの差異,日本でLTが多用されている現状について解説する。Summary●1995年の前向き無作為化試験において,イレウス管(LT)と経鼻胃管(ST)では小腸閉塞に対して減圧成功率に有意差を認めなかった。それ以降,欧米ではLTは使用されなくなっている。●近年,LTのさらなる製品改良と挿入技術の進歩により,LTの有用性が見直されてきており,臨床的にSTよりも有効である可能性を示唆する文献が報告されている。●内視鏡補助下での挿入を行うことでコストの問題はあるが,複数回の腹部手術歴があり癒着が高度なことが予想され,外科的介入が躊躇される症例はLTのよい適応となるかもしれない。
著者
江木 盛時
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.461-473, 2011-07-01

2001年に強化インスリン療法intensive insulin therapy(IIT)の有効性1)が外科系ICU患者で報告されて以降,血糖管理は集中治療における重要な領域の1つとなった2)。厳格な血糖管理tight glycemic control(TGC)は,2001年以降に定着した名称であり,速効性インスリンを持続静脈投与し,1~4時間ごとの頻回な血糖値測定を行いながら,厳密に血糖値を管理する方法を指す。TGCのほかに,strict glucose controlなどの名称もあるが,現在最も使用されるのはTGCである。Van den Berghe1)によって提唱されたIITは,TGCのなかでも目標血糖帯を正常血糖帯(80~110mg/dL)とするものを指す。
著者
山下 智幸 山下 有加
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.391-412, 2016-04-01

日本産婦人科医会妊産婦死亡症例検討評価委員会の調査1)では,国内の妊産婦死亡は2010〜2014年の5年間で237例発生しており,平均すると47.4例/年の頻度である。年間出生数が100万人強であることを考慮すると,おおよそ21000分娩に1例程度の妊産婦死亡と概算できる。 一方,米国では,妊婦の心停止は12000分娩に1例2)と考えられている。米国疾病対策センター(CDC*1)の調査3)では,はっきりとした原因はわかっていないものの,妊娠関連死亡数は増加傾向であることが指摘されており,2011年の妊娠関連死亡は17.8例/10万生存分娩である。ヨーロッパの妊産婦死亡は,国ごとに異なるものの16例/10万生存分娩と推定されている4)。カナダでは,2009年10月〜2010年11月において,6.1例/10万分娩で減少傾向である5)。日本では6例/10万生存分娩で,先進国全体の16例/10万生存分娩よりも下回っている4)。 妊産褥婦心停止の頻度は決して高くない。しかし,これらの調査は生命予後のみに焦点が当てられた調査であり,妊産褥婦の心停止ニアミス症例*2がどの程度なのか,あるいは機能予後がどうなっているかについては現時点ではわかっていない。オランダの調査6)ではニアミス症例が約141分娩に1例存在していることを指摘しており,妊産褥婦の心停止に対する備えの重要性を物語っている。 救急・集中治療に従事する医療スタッフは,緊急度・重症度の高い事象に十分備える必要があるが,妊産褥婦の蘇生に関する特別な知識や技術を身につけることに加え,診療体制を整備しておくことが欠かせない。「知ってはいるが,実際にできない」では元も子もないのである。本稿では,最新の蘇生ガイドラインの内容も含めながら,妊産褥婦の蘇生について解説する。Summary●妊婦の蘇生では,一般成人の蘇生と同様に質の高いCPRが重要である。●子宮左方圧排を用手的に行い,大動脈・下大静脈圧迫(ACC)を解除する。●妊婦心停止では,その場で帝王切開を行い,児を娩出させる必要がある。●施設内での備えが重要で,シミュレーションなどを行っておくことが望ましい。