著者
重松ロカテッリ 万里恵 河野 崇 山中 大樹 立岩 浩規 北岡 智子 横山 正尚
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.29-32, 2017

<p>鎮痛薬の有効性はプラセボ・ノセボ効果の影響を強く受ける.特に,鎮痛薬への期待と不安は,それらの発現に重要と考えられる.今回,臨床実習前の医学生を対象として新規に説明を受けた鎮痛薬の期待と不安の関係についてアンケートを用いた予備調査を行った.医学部4年生(108名)に対し,弱オピオイド鎮痛薬のトラマドールの説明を通常臨床と同様に行った.その後,トラマドールの鎮痛効果への期待と副作用の不安について11段階で評価した.その結果,トラマドールの鎮痛効果への期待度と副作用の不安度には有意な正の相関が見られた(Spearmanの順位相関係数:0.392).鎮痛薬のプラセボ効果を最大限にして,ノセボ効果を最小限にすることは医療従事者にとって永遠の課題といえるが,その達成のため今後もさらなる検討が必要と考えられる.</p>
著者
山中 大樹 河野 崇
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.143-148, 2018-09-20

■臨床の視点▲エンドトキシン誘発性痛覚過敏とは?自然免疫応答は,宿主を病原体から守る高度な生体内防御システムである。病原体(抗原)の侵入は,各病原体に特有の分子構造にToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)を代表とするパターン認識受容体が反応することで察知される。その結果,免疫担当細胞が活性化されサイトカインを分泌することで生理的な炎症反応を引き起こし,病原体を排除する。炎症に関連する免疫担当細胞としては,樹状細胞やマクロファージが重要な役割を担うが,中枢神経系ではミクログリアやアストロサイトといったグリア細胞がその機能を果たす。このような免疫系は生体防御に働くばかりではなく,急性および慢性の病態にも関連する。例えば神経損傷時には,免疫担当細胞の活性化により末梢性侵害受容器の過敏化(末梢神経感作)や脊髄後角神経の過敏化(中枢神経感作)が生じ,痛みが遷延することが知られている。 エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)であり,細胞内毒素としてTLR-4を介して自然免疫応答を誘発する。LPSの大量投与(4.0ng/kg)により,敗血症の病態が再現される。また,LPSの少量静脈内投与(0.4ng/kg)による全身炎症モデルは,ヒト健康ボランティアを対象とした臨床研究にも広く応用されており,多くの論文が報告されている。この少量LPS炎症モデルでは,全身の各種侵害刺激に対する疼痛閾値が低下することが一貫して示されている1)。われわれの研究でも,ラットモデルを用いて血行動態に影響を与えない程度の少量のLPS投与により,後肢足底切開後の自発痛が増強されることを報告した2)。このようなLPSによる痛みの増強は,エンドトキシン誘発性痛覚過敏と呼ばれている。実際,感染症などの全身炎症時には,発熱,食欲不振,疲労,抑うつ,傾眠,そして痛覚過敏といった全身症状を呈する。これらの症状はsickness behaviorと呼ばれ,生存のための適応的反応と推測されている。sickness behaviorはLPS投与により再現されるため,エンドトキシン誘発性痛覚過敏はsickness behaviorの一部と考えられる。また,LPS投与後の内臓や骨格筋の痛覚過敏は,それぞれ機能性腹痛症候群,線維筋痛症の病態としても注目されている。