著者
河野 崇
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.461-470, 2017-10-01 (Released:2017-10-01)
参考文献数
19

シリコン神経ネットワークは,神経細胞に対応するシリコンニューロン回路,シナプスに対応するシリコンシナプス回路を組み合わせることによって作られた電子回路版神経ネットワークである。脳神経系の電気生理学的活動をリアルタイムあるいはそれ以上の速度で模倣することにより,超低消費電力や少ないデータからの学習など脳神経系のもつ優れた特性を受け継ぐことができると期待されている。しかし,神経ネットワークにおける情報処理の原理が完全に解明されておらず,脳神経系に匹敵するシステムの実現のために,シリコン神経ネットワークの研究者も「構築による解析」の立場からこの問題に寄与することが求められている。このため,現代のシリコン神経ネットワークにおいてはモデルの設計方法がより重要であり,いくつかのアプローチが存在するが,それらについて簡単に解説する。
著者
河野 崇
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.032-037, 2014 (Released:2014-02-26)
参考文献数
19

術後認知機能障害(postoperative cognitive dysfunction:POCD)は,麻酔・手術後に生じる長期的な脳機能障害の一種である.POCDは,術後患者のQOLを大きく低下させるのみならず,長期予後を悪化させることが報告されている.POCDの最も重要な危険因子は高齢であるが,そのほかに低学歴,脳血管障害の既往,および術前の認知機能障害がある.POCDの発症要因については,全身麻酔薬,術後痛,鎮痛薬,および手術侵襲によるものが考えられているが,特定できない場合も多く,個々の患者状態に複数の要因が関連しているものと考えられる.さらに詳細な病態機序に関しては,多くの基礎研究がなされているが,現時点で統一された見解には至っていない.つまり,POCDの全体像は依然として明らかではなく,POCDに対する特異的な予防あるいは治療法の確立には至っていない.本稿では,POCDに関するこれまでの臨床および基礎研究からの知見を整理し,今後の課題について検討したい.
著者
河野 崇
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.12-19, 2018-01-01 (Released:2018-01-01)
参考文献数
57
被引用文献数
2

高齢手術患者の増加に伴い,術後神経認知障害への対策が重要課題となっている。術後神経認知障害として,術後せん妄と術後認知機能障害が挙げられる。術後せん妄と術後認知機能障害はそれぞれ異なる疾患単位と考えられているが,共通する病態として脳内炎症が注目されている。脳内炎症は,活性化したミクログリアから過剰に炎症性サイトカインが産生・放出された状態である。特に,海馬ミクログリアは加齢により炎症性反応性が増加することが知られており,高齢者に術後神経認知障害が生じやすい原因と考えられる。また,全身麻酔,手術侵襲に伴う全身炎症,痛み,急性ストレス反応,神経障害などは脳内炎症を誘発する。したがって,これらの要因を最小化することが術後神経認知障害の予防・治療に重要である。本稿では術後神経認知障害の病態に関する最新の研究動向を示すとともに,脳内炎症を標的とした予防・治療戦略を考察したい。
著者
河野 崇
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.50-56, 2020-01-15 (Released:2020-02-19)
参考文献数
11

術後せん妄は,手術を契機に発症する一過性の精神・認知障害である.術後せん妄の発症は,特に高齢者において,その後の認知症発症リスクを増大させることが示されている.術後せん妄における認知症状の病態機序には,脳内神経炎症が重要な役割を果たすことが示唆されているが,現時点で特異的な治療法はない.一方,これまでの臨床研究では,入院時せん妄の30〜40%は,集学的アプローチにより予防しうることが報告されている.その中で,区域麻酔の使用は,優れた鎮痛効果および全身麻酔の回避といった観点から,術後せん妄の予防に対して特に有効である可能性がある.本稿では,術後せん妄の現状,およびその予防法としての区域麻酔の役割について概説する.
著者
重松ロカテッリ 万里恵 河野 崇 山中 大樹 立岩 浩規 北岡 智子 横山 正尚
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.29-32, 2017

<p>鎮痛薬の有効性はプラセボ・ノセボ効果の影響を強く受ける.特に,鎮痛薬への期待と不安は,それらの発現に重要と考えられる.今回,臨床実習前の医学生を対象として新規に説明を受けた鎮痛薬の期待と不安の関係についてアンケートを用いた予備調査を行った.医学部4年生(108名)に対し,弱オピオイド鎮痛薬のトラマドールの説明を通常臨床と同様に行った.その後,トラマドールの鎮痛効果への期待と副作用の不安について11段階で評価した.その結果,トラマドールの鎮痛効果への期待度と副作用の不安度には有意な正の相関が見られた(Spearmanの順位相関係数:0.392).鎮痛薬のプラセボ効果を最大限にして,ノセボ効果を最小限にすることは医療従事者にとって永遠の課題といえるが,その達成のため今後もさらなる検討が必要と考えられる.</p>
著者
山中 大樹 河野 崇
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.143-148, 2018-09-20

■臨床の視点▲エンドトキシン誘発性痛覚過敏とは?自然免疫応答は,宿主を病原体から守る高度な生体内防御システムである。病原体(抗原)の侵入は,各病原体に特有の分子構造にToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)を代表とするパターン認識受容体が反応することで察知される。その結果,免疫担当細胞が活性化されサイトカインを分泌することで生理的な炎症反応を引き起こし,病原体を排除する。炎症に関連する免疫担当細胞としては,樹状細胞やマクロファージが重要な役割を担うが,中枢神経系ではミクログリアやアストロサイトといったグリア細胞がその機能を果たす。このような免疫系は生体防御に働くばかりではなく,急性および慢性の病態にも関連する。例えば神経損傷時には,免疫担当細胞の活性化により末梢性侵害受容器の過敏化(末梢神経感作)や脊髄後角神経の過敏化(中枢神経感作)が生じ,痛みが遷延することが知られている。 エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)であり,細胞内毒素としてTLR-4を介して自然免疫応答を誘発する。LPSの大量投与(4.0ng/kg)により,敗血症の病態が再現される。また,LPSの少量静脈内投与(0.4ng/kg)による全身炎症モデルは,ヒト健康ボランティアを対象とした臨床研究にも広く応用されており,多くの論文が報告されている。この少量LPS炎症モデルでは,全身の各種侵害刺激に対する疼痛閾値が低下することが一貫して示されている1)。われわれの研究でも,ラットモデルを用いて血行動態に影響を与えない程度の少量のLPS投与により,後肢足底切開後の自発痛が増強されることを報告した2)。このようなLPSによる痛みの増強は,エンドトキシン誘発性痛覚過敏と呼ばれている。実際,感染症などの全身炎症時には,発熱,食欲不振,疲労,抑うつ,傾眠,そして痛覚過敏といった全身症状を呈する。これらの症状はsickness behaviorと呼ばれ,生存のための適応的反応と推測されている。sickness behaviorはLPS投与により再現されるため,エンドトキシン誘発性痛覚過敏はsickness behaviorの一部と考えられる。また,LPS投与後の内臓や骨格筋の痛覚過敏は,それぞれ機能性腹痛症候群,線維筋痛症の病態としても注目されている。
著者
河野 崇
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.27-33, 2020-08-01 (Released:2020-09-10)
参考文献数
51

術後神経・認知機能異常は,高齢心臓血管手術患者に頻度が多く,長期予後に影響する重大な術後合併症である。発症様式により,術後せん妄と術後認知機能障害とに分類される。これらに共通する病態機序として脳内神経炎症の役割が注目されている。特に,加齢に伴う脳内常在性ミクログリアの炎症反応性変化は,手術侵襲に対する高齢脳の認知脆弱性に関与する。脳内神経炎症仮説に基づく術後神経・認知機能異常の予防・治療戦略では,急性期に生じる術後せん妄に対する対策が最も重要と考えられる。本稿では,脳内神経炎症仮説を踏まえつつ,術後神経・認知機能異常の定義,病態機序,予防,治療戦略について概説したい。
著者
河野 崇 横山 正尚
出版者
日本疼痛学会
雑誌
PAIN RESEARCH (ISSN:09158588)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.177-181, 2013-08-30 (Released:2013-10-03)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

Some validated methods for assessing pain in laboratory animals are currently available. However, it remains to be determined whether these methods are also applicable for aged animals. Recently, grimace scale (GS) was developed for pain assessment based on facial expressions, and can effective­ly evaluate animal spontaneous pain. In the present study, we investigat­ed that accuracy and reliability of the rat grimace scale (RGS) in aged rats. Six coders were trained with the RGS training manual. Unlabeled 80 facial images of which half were with no pain (baseline), the other half were with pain (2 - 4 h after laparotomy) were randomly assigned and then scored by the coders. A high degree of the reliability was found with an overall intra-class correlation coefficient value of 0.92. The average ac­curacy of pain detection assessed by coders’ dichotomous judgment of “global pain” or “no pain” was sufficiently high with a correct classification rate of 84.6%. Furthermore, a single subcutaneous administration with morphine (1.0 mg/kg) resulted in decrease of RGS at 4 h after laparotomy. These results suggested that RGS is a useful method for assessing spontaneous pain after laparotomy in aged rats.
著者
田村 浩人 河野 崇 合原 一幸
出版者
Institute of Industrial Science The University of Tokyo
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.183-185, 2018-05-01 (Released:2018-05-30)
参考文献数
11

近年,深層ニューラルネットワーク(deep neural network, DNN) が機械学習分野で関心の中心にあり,一方でカオスニューロンモデル及びカオスニューラルネットワーク(chaotic neural network, ChNN) が計算論的神経科学や非線形科学において注目を集めている.しかし,深層のChNN に関する研究は未だない.このギャップを埋めるべく,本稿ではReLU(rectifier linear unit) カオスニューロンモデルを提案する.これはReLU を活性化関数として用いるDNN を,ChNN に拡張する際に必要となる.さらに,ReLU の単純さにも関わらず,単一のReLU カオスニューロンでも動的に変化する出力を生成できることを示す.
著者
河野 崇 荒川 真有子 横山 正尚
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.408-411, 2014 (Released:2014-06-17)
参考文献数
9

近年,ロクロニムによるアナフィラキシーに対してスガマデクスの投与が有効であった症例がいくつか報告されている.スガマデクスの投与は,手術室において容易に行うことができることから,試みる価値がある治療選択肢の一つと考えられる.しかし一方で,スガマデクス投与後の筋弛緩作用の必要性を考慮する必要がある.今回われわれは,麻酔導入時にロクロニウムが原因と推測されたアナフィラキシーに対してスガマデクスを投与後に喉頭痙攣を生じた症例を経験した.本症例を通してロクロニウムアナフィラキシーに対するスガマデクス投与の注意点を考察したい.