- 著者
-
山口 正寛
- 出版者
- 日本学校メンタルヘルス学会
- 雑誌
- 学校メンタルヘルス (ISSN:13445944)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.1, pp.81-90, 2016 (Released:2021-04-08)
- 参考文献数
- 28
【問題と目的】本研究では,感情調整と社会性に困難を抱える学生を対象にした,認知行動療法的アプローチ(以下,CBTプログラム)とソーシャル・スキルズ・トレーニング(以下,SSTプログラム)に基づく心理教育による集団介入の実践報告を通して,これらのプログラムの有効性とその運用上の課題を検討した。【方法】9名の大学生が全10回のCBTプログラムに参加し,そのうち7名が引き続き全13回のSSTプログラムに参加した。CBTプログラムは,リラクゼーション,自他の感情理解に関する練習を中心に構成し,自尊感情とストレス・コーピングを効果測定の指標とした。SSTプログラムは,話の聴き方や対人葛藤場面における対処法などを中心とするスキル練習から構成し,ソーシャル・スキルと自己効力感,大学への適応感,精神的健康度を効果測定の指標とした。【結果】CBTプログラム実施後には,参加者の自尊心の向上が示唆され,SSTプログラム実施後では,ソーシャル・スキルの向上が示された。一方で,両プログラム実施後の参加者のストレス・コーピング,自己効力感,適応感及び精神的健康には改善が認められなかった。【考察】CBTプログラムを通して,客観的な自己理解の視点が得られたことや,リラクゼーションなどを活用して感情をコントロールするスキルを獲得することが自尊心の向上につながったと考えられた。また,SSTプログラムは対人関係上のソーシャル・スキルの改善に有効と考えられた。本研究の結果から,感情調整と社会性に困難さを抱える大学生を対象にした心理教育による集団介入は,一般大学生を対象とした心理教育と同様の効果が得られると考えられた。また,大学内における心理教育を運用する際の課題として,参加者のアセスメント,集団介入による否定的作用,介入効果の妥当性について検討する必要について考察された。