- 著者
-
益子 洋人
- 出版者
- 日本学校メンタルヘルス学会
- 雑誌
- 学校メンタルヘルス (ISSN:13445944)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.1, pp.69-76, 2009-09-30 (Released:2021-04-08)
- 被引用文献数
-
1
本研究では,過剰適応傾向を「自分の気持ちを後回しにしてでも,他者から期待された役割や行為に応えようとする傾向」と定義した。本研究の目的は,第一に,一般高校生における過剰適応傾向と抑うつ,強迫,対人恐怖心性,不登校傾向との関連を検討すること,第二に,過剰適応傾向のサブタイプによって,それら4つの精神的健康指標がどのように異なるのかを,探索的に検討することである。420名の高校生に,質問紙調査を行った。相関分析の結果,過剰適応傾向のすべての因子は,抑うつ,強迫,対人恐怖と,有意な正の関連を示した。中でも抑うつと対人恐怖は,比較的強い関連を示しており,強迫は,比較的弱い関連を示していた。他方,不登校傾向は,過剰適応傾向の一部の因子としか有意な正の相関を示さず,関連も弱いものだった。また,過剰適応の5つのサブタイプを独立変数,精神的健康指標を従属変数とする一元配置分散分析の結果,各因子得点が高い過剰適応群は,多数がcut off pointを超えるほどに不健康であり,いくつかの因子得点が高い群がそれに続くが,「自己不全感」が低い群は,過剰適応していない群と同程度にしか不健康ではないことが示された。以上の結果から,一般の高校生における過剰適応傾向は,特に抑うつや対人恐怖につながりやすく,強迫や不登校にはあまりつながらないであろうことや,全般的に過剰適応している群は,精神的健康において,臨床群とほぼ同等の問題を抱えている可能性があること,過剰適応的な行動をとっていても,「自己不全感」が高まっていなければ,比較的健康に過ごせる可能性があることが明らかになった。今後の課題として,過剰適応傾向,特に「自己不全感」を低減させるための具体的な方法を開発することや,過剰適応と特定の不適応との関連を明らかにすることがあげられる。