- 著者
-
山口 貴弘
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬学会
- 雑誌
- ファルマシア (ISSN:00148601)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.3, pp.257, 2018 (Released:2018-03-01)
- 参考文献数
- 2
多剤耐性菌は世界中で急速に発生拡散しており,多剤耐性菌感染症による健康リスクは増大している.近年,多剤耐性菌感染症の治療に効果的であるとしてコリスチンが再注目されている.コリスチンは1950年に日本で発見された抗菌薬であり,主に家畜の飼料添加物として世界中で利用されている.ヒトに対しては,腎毒性や神経毒性等の副反応が強く,使用は限定されていた.しかし,多剤耐性菌感染症の最終選択薬として,日本でも2015年に一部の多剤耐性グラム陰性菌の感染症治療薬として適応が認められた.多剤耐性菌に対する「最後の切り札」として期待されているコリスチンであるが,2015年にプラスミド性コリスチン耐性遺伝子(mobilized colistin resistance gene)mcr-1を持つ大腸菌が初めて報告され,それ以降,各国で臨床検体,食肉等から数多く検出されている.また,mcr-1以外のプラスミド性コリスチン耐性遺伝子が次々に報告され,多剤耐性菌感染症の治療への影響が懸念されている.プラスミド性コリスチン耐性が拡散している原因は,コリスチン耐性遺伝子を持つプラスミドが,同種もしくは異種の細菌に水平伝達していくことや,可動性挿入配列IS(insertion sequence)のような転移因子(transposable genetic elements)による拡散が考えられる.今回はISの一種であり,コリスチン耐性拡散の要因とされているISApl1に関する研究について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Liu Y. et al., Lancet Infect. Dis., 16, 161-168(2016).2) Poirel L. et al., Antimicrob. Agents Chemother., 61, e00127-17(2017).