- 著者
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山岸 潤也
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2001
Periplaneta fuliginosa densovirus(PfDNV)は、1993年に中国武漢市郊外でクロゴキブリがら分離されたウイルスで、パルボウイルス科,デンソウイルス亜科,デンソウイルス属に分類される。デンソウイルスは約5000塩基の小さなゲノムを有する一本鎖DNAウイルスで、数個の遺伝子しかコードしないことから、昆虫におけるウイルス増殖を分子生物学的に解析する対象として、非常に適していると考えられる。また、これまで分離されているデンソウイルスの多くが、その感染により宿主を死に至らしめ、同時に強い宿主特異性をもつことから、ウイルス農薬として害虫駆除に利用することが期待できる。本研究では、特にウイルス増殖の基幹を成す遺伝子発現制御機構に注目して解析をおこない、ウイルスの宿主特異性や増殖機構を明らかにすることで、ウイルス農薬としての有効かつ安全な利用への応用を目指している。PfDNVが属するデンソウイルス属には、ハチミツ蛾を宿主とするGalleria mellonella densovirus(GmDNV)や、Junonia coenia densovirus(JcDNV)など、鱗翅目を宿主とするものが存在する。これらのゲノム構造は非常に類似していることが報告されているが、ウイルス構成タンパク質をコードするORFがGmDNVやJcDNVでは1つであることに対し、PfDNVでは2つに分断されているといった相違がある。また、そのmRNAも、GmDNVやJcDNVでは1種類であることに対し、PfDNVでは選択的スプライシングにより少なくとも9種類が生成することを我々は明らかにしている。これらは、PfDNVでは、GmDNVやJcDNVと異なり、選択的スプライシングがウイルス構成タンパク質の発現制御に関与することを示唆していた。今回我々は、5種類あるPfDNVの構成タンパク質について、そのN末端アミノ酸配列をエドマン法により解析することで、PfDNVの構成タンパク質の発現制御に選択的スプライシングが関与することを明らかにした。また、非構成タンパク質をコードするmRNAをRT-PCRによって解析した結果、PfDNVだけでなくGmDNVにおいても、選択的スプライシングの関与が認められた。これらは、昆虫のパルボウイルスであるデンソウイルスの遺伝子発現制御には選択的スプライシングが関与しないというこれまでの通説を覆す、新たな知見であった。また、本研究の結果から、デンソウイルス属は、構成タンパク質の発現に選択的スプライシングが関与するグループ(鱗翅目を宿主としないもの)と、しないグループ(鱗翅目を宿主とするもの)の2つに細分化されることが示唆された。(以上はjournal of general virologyに投稿中です。)