著者
高橋 裕樹 山本 元久 篠村 泰久 今井 浩三
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.442-451, 2013 (Released:2013-12-31)
参考文献数
30
被引用文献数
6

IgG4関連疾患はグルココルチコイド(GC)が奏効することから,生命予後は良好であると推測されていたが,長期観察例の増加に伴い,臓器機能の予後に関する臨床情報が集積されてきた.これらをもとに,早期治療の必要について検討した.IgG4関連涙腺・唾液腺炎では発症後2年以内の治療開始,および臨床的寛解の維持が唾液腺分泌能の回復・維持には重要であった.IgG4関連腎臓病では治療前の推算糸球体濾過量が60 ml/分未満の場合,腎機能の回復が不十分であることから,早期の治療介入の有用性が示唆された.自然寛解率が比較的高い自己免疫性膵炎においてもGC治療が有意に再燃を抑制することが示されているが,長期例での膵萎縮,膵石形成などを伴う慢性膵炎への移行が指摘されており,治療方法や治療介入のタイミングについて検討が必要である.IgG4関連疾患は既存の慢性炎症性疾患に比較し,臓器破壊は緩徐であることが想定されるが,病変の持続により線維化の拡大とともに臓器障害が進行することより,GCなどの治療薬の副作用を考慮した上で,可及的早期の治療介入が望ましいと考えられた.
著者
大橋 広和 高橋 裕樹 小原 美琴子 鈴木 知佐子 山本 元久 山本 博幸 牧口 祐介 玉川 光春 嵯峨 賢次 村上 理絵子 今井 浩三
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.407-413, 2004 (Released:2005-02-22)
参考文献数
23
被引用文献数
1 4

症例は40歳,女性.1995年5月頃より下腿浮腫が出現し膜性腎症によるネフローゼ症候群と診断,ステロイド大量投与により不全寛解を得た.また,同時期に頭部から四肢に拡大する角化性紅斑を認めた.1996年当院皮膚科にて毛孔性紅色粃糠疹(以下PRP)と診断されたが,治療抵抗性であった.1999年7月手指関節炎が出現,2000年4月に再び蛋白尿が出現し,同年8月当科入院となった.入院時,両手指遠位指節間(以下DIP)関節と右第4指近位指節間(以下PIP)関節に著明な腫脹を認めた.抗核抗体,リウマトイド因子,HLA-B27は陰性.関節X線上DIP・PIP関節の破壊を認め,関節MRIにて滑膜炎が確認された.加えて骨シンチグラフィーでは両中足趾節関節と左仙腸関節に集積をみた.関節症の特徴が乾癬性関節炎に類似しており,乾癬と同様皮膚の異常角化を主徴とするPRPに伴う関節炎と診断した.膜性腎症に対してステロイド大量投与を施行後,いったん関節症状は改善したが,手指関節の破壊は急速に進行した.2002年4月よりシクロスポリンAを併用し,関節炎の消退傾向を認めている.PRPに合併する関節症の報告例は少なく,その病態解析には今後の症例の蓄積が必要である.
著者
山本 元久 鈴木 知佐子 苗代 康可 山本 博幸 高橋 裕樹 今井 浩三 篠村 恭久
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.36, pp.129, 2008

48歳女性、元看護師。2001年9月より膝関節水腫が出現、仕事や肥満が原因と考えられていたが、2002年2月から発熱・CRP上昇を認め、当科紹介となった。膝関節腫脹と左下腿に結節性紅斑を認め、少量プレドニゾロン(PSL)を開始した。2003年3月より両下腿腫脹、皮膚潰瘍を認め、皮膚生検で血管炎を確認した。末梢神経障害による四肢のしびれ以外、臓器障害はなく、ANCA・抗リン脂質抗体は陰性であり、皮膚型結節性多発動脈炎(cPN)と診断した。PSL増量によりCRP低下や下肢腫脹の消退を認めたが、減量し復職すると、下腿腫脹・疼痛が悪化、潰瘍を形成するため、PSL減量が困難であった。2005年末に離職・自宅療養となったが、下腿腫脹の悪化、皮膚潰瘍の多発・拡大と下肢痛を認め、PSL 40 mgに増量、2006年8月からエンドキサンパルス療法を3回施行した。その後、PSL17.5mgにまで減量したが、発熱・CRP再上昇を呈し、同意を得た上で、2007年10月からエタネルセプト(ETA)の併用を開始したところ、速やかに解熱、炎症反応の陰性化をみた。現在、PSL12.5mgにまで減量しているが、潰瘍形成を含め、再燃は認めていない。ETAが奏効したcPNの一例を経験したので、考察を加えて報告する。
著者
高橋 裕樹 山本 元久 篠村 泰久 今井 浩三
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日臨免誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.442-451, 2013
被引用文献数
6

&nbsp;&nbsp;IgG4関連疾患はグルココルチコイド(GC)が奏効することから,生命予後は良好であると推測されていたが,長期観察例の増加に伴い,臓器機能の予後に関する臨床情報が集積されてきた.これらをもとに,早期治療の必要について検討した.IgG4関連涙腺・唾液腺炎では発症後2年以内の治療開始,および臨床的寛解の維持が唾液腺分泌能の回復・維持には重要であった.IgG4関連腎臓病では治療前の推算糸球体濾過量が60 ml/分未満の場合,腎機能の回復が不十分であることから,早期の治療介入の有用性が示唆された.自然寛解率が比較的高い自己免疫性膵炎においてもGC治療が有意に再燃を抑制することが示されているが,長期例での膵萎縮,膵石形成などを伴う慢性膵炎への移行が指摘されており,治療方法や治療介入のタイミングについて検討が必要である.IgG4関連疾患は既存の慢性炎症性疾患に比較し,臓器破壊は緩徐であることが想定されるが,病変の持続により線維化の拡大とともに臓器障害が進行することより,GCなどの治療薬の副作用を考慮した上で,可及的早期の治療介入が望ましいと考えられた.<br>
著者
山本 元久 高橋 裕樹 苗代 康可 一色 裕之 小原 美琴子 鈴木 知佐子 山本 博幸 小海 康夫 氷見 徹夫 今井 浩三 篠村 恭久
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-8, 2008-02-28
被引用文献数
27 39 12

ミクリッツ病は涙腺・唾液腺腫脹を,自己免疫性膵炎は膵のびまん性腫脹を呈し,ともに腺組織中へのIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする疾患である.私たちは,当科における全身性IgG4関連疾患(systemic IgG4-related plasmacytic syndrome ; SIPS)40例の臨床的特徴(腺分泌機能,血清学的評価,合併症,治療および予後)を解析した.男性は11例,女性は29例で,診断時の平均年齢は58.9歳であった.疾患の内訳は,ミクリッツ病33例,キュッツナー腫瘍3例,IgG4関連涙腺炎4例であった.涙腺・唾液腺分泌低下は,約6割の症例にみられたが,軽度であった.抗核抗体陽性率は15%,抗SS-A抗体陽性は1例のみ,低補体血症は30%に認められた.また自己免疫性膵炎,間質性腎炎,後腹膜線維症,前立腺炎などの合併を認めた.治療は,臓器障害を有する症例で治療開始時のステロイド量が多く,観察期間は最長16年のうち,臓器障害の有無に関わらず3例で再燃を認めた.ミクリッツ病をはじめとするSIPSの現時点における問題点と今後の展望について述べてみたい.<br>
著者
山本 元久 小原 美琴子 鈴木 知佐子 岡 俊州 苗代 康可 山本 博幸 高橋 裕樹 篠村 恭久 今井 浩三
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.349-356, 2005-10-31
参考文献数
44
被引用文献数
9 14

症例は,73歳女性.1998年頃より口渇,両側上眼瞼腫脹が出現,2003年10月には両側顎下部腫脹を認めた.同時期に近医で糖尿病と診断され,経口血糖降下薬の投与が開始された.2004年夏頃より上眼瞼腫脹が増強したため,当科受診,精査加療目的にて10月に入院となった.頭部CT・MRIでは,両側涙腺・顎下腺腫脹を認めた.血清学的に高γグロブリン血症を認めたが,抗核抗体・抗SS-A抗体は陰性であり,乾燥性角結膜炎も認めなかった.さらなる精査で,高IgG4血症及び小唾液腺生検にて著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を認めたため,Mikulicz病と診断した.腹部CTではびまん性膵腫大を認め,ERCPで総胆管・主膵管に狭窄を認めた.自己免疫性膵炎の合併と診断し,プレドニゾロン40 mg/日より治療を開始した.その結果,涙腺・顎下腺腫脹は消失,唾液分泌能も回復した.また膵腫大,総胆管・膵管狭窄も改善した.耐糖能障害も回復傾向にある.Mikulicz病と自己免疫性膵炎は共に高IgG4血症を呈し,組織中にIgG4陽性形質細胞浸潤を認めることから,両疾患の関連を考える上で非常に興味深い症例であると思われた.<br>