著者
小西 舞 小荒田 秀一 山口 健 田代 知子 副島 幸子 末松 梨絵 井上 久子 多田 芳史 大田 明英 長澤 浩平
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.154-161, 2011-06-30
参考文献数
17
被引用文献数
1 12

症例は67歳女性.主訴は頭痛,四肢の小結節・紅斑.近医にて慢性腎不全・高脂血症を治療中であったが,インフルエンザワクチン接種を行った.接種2週間後,微熱,頭痛が出現し,CRP高値,MPO-ANCA陽性,腎機能障害,側頭部の圧痛,四肢の紅斑を指摘され,紹介受診となった.紅斑の組織像で動脈周囲に炎症細胞浸潤,フィブリノイド壊死を認め,側頭動脈の組織では炎症細胞浸潤と巨細胞を伴う血管炎を認めた.CTで両肺に多発する斑状影を認め,肺胞出血または間質性肺炎と考えられた.顕微鏡的多発血管炎(mPA)と側頭動脈炎(GCA)の合併と診断し,副腎ステロイドによる治療を開始した.CRP, MPO-ANCAの陰性化を認め,腎機能も改善した.その後,日和見感染症を併発し死亡され剖検がなされた.剖検では,半月対形成性糸球体病変が証明された.本例はインフルエンザ・ワクチン接種を契機として2つの血管炎が同時に発症しており,組織学的に巨細胞性血管炎と微小血管炎が証明された世界初の報告である.血管炎症候群に共通する発症機序を示唆する貴重な症例と考えられた.<br>
著者
下垣 保恵 郡山 健治 田中 雅博 望月 裕司 豊田 嘉清 中井 直治 河野 厚
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.329-334, 2010-12-31
被引用文献数
1

50歳,女性.2003年9月に全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus ; SLE)を発症.抗Sm抗体陽性.右水腎症.プレドニゾロン(prednisolone ; PSL)40 mg/日で治療開始.大腿骨頭壊死(2B),ステロイド精神病合併.2005年5月PSL15 mg/日まで漸減中に尿蛋白再出現でシクロスポリン(CyA)併用開始.1年後,嘔吐を伴う激しい頭痛を繰り返したが画像診断上は異常を認めなかった.2007年2月タクロリムス(TAC)に変更,頭痛は消失したが,同年9月頃より左優位の巧緻性運動障害,振戦,小刻み歩行等を認めた.2009年6月ドーパミントランスポーターのイメージング(DAT)検査にてパーキンソン病(Parkinson's disease ; PD)確定診断.遺伝子解析で孤発性PDと判明.TAC中止によりParkinsonismは一部改善し,薬剤性が示唆された.TAC投与中のSLE患者に振戦を認めた場合,Parkinsonism誘発の可能性があるため減量や中止を考慮すべきである.<br>
著者
長岡 章平 中村 満行 瀬沼 昭子 関口 章子
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.389-397, 2005-12-31
被引用文献数
1 3

1998年8月から2003年12月までの期間中当科において初めてMTXを開始した活動性RA460例(男80例,女380例,平均年齢59.3歳)についてカルテベースにて検討した.MTX投与24週後のACR20改善率61.3%,50%改善率30.4%であり,投与48週までの累積投与継続率は0.567であった.観察期間中260例(56.5%),304回に有害事象を認めた.有害事象のため投与中止した症例は52例,11.3%,死亡例は10例,2.2%であった.1%以上の内訳は,肝機能異常31.7%,感染症6.1%,消化器症状5.0%,口内炎3.9%,血球減少3.5%,骨折3.5%,悪性腫瘍2.6%,間質性肺炎2.0%,脳あるいは心血管障害2.0%,頭痛1.7%,皮疹1.3%,脱毛1.1%であった.有害事象例は高齢者,高Stageに多かった.MTXの有用性が再評価されたが,慎重なモニタリングが大切であると思われた.<br>
著者
齋藤 滋 島 友子 中島 彰俊
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.424-428, 2012-10-31
参考文献数
13
被引用文献数
1

&nbsp;&nbsp;Semiallograftである胎児を許容するために,妊娠時には父親抗原に対するトレランスが存在することが知られていたが,その詳細な免疫学的機構は明らかではなかった.最近の研究により,妊娠時には父親抗原特異的もしくは男性抗原であるHY抗原特異的制御性T細胞が増加していること,精漿のプライミングが父親抗原特異的制御性T細胞の誘導に重要であることが判明している.またヒトならびにマウスの流産や,ヒトでの妊娠高血圧腎症では末梢血ならびに,妊娠子宮での制御性T細胞の減少が報告されている.妊娠初期子宮内膜では,特殊なNK細胞がリンパ球の主要な成分(約80%)を占める.我々は,マウス妊娠子宮ではCD25<sup>+</sup> NK細胞が増加すること,CD25<sup>+</sup> NK細胞はIL-10やTGF-&beta;を産生すること,本NK細胞は樹状細胞上のMHC class II抗原発現を抑制させ,細胞傷害性T細胞の誘導を抑制し,制御性NK細胞と呼べる性状を有することを見い出した.<br> &nbsp;&nbsp;このように妊娠初期において,制御性T細胞と制御性NK細胞は協同的に作用し,胎児を母体免疫系の攻撃から守っている.<br>
著者
和田 靖之 北島 晴夫 久保 政勝
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.33-40, 1998-02-28
参考文献数
16
被引用文献数
1

Shwachman症候群が疑われた1男児例を経験した.患児は軽度の膵外分泌機能障害を呈し,さらに末梢血好中球数の著明な低下がみられ,呼吸器感染症を反復していた.患児の好中球機能は<i>in-vivo</i>, <i>in/vitro</i>ともに遊走能に障害を認め,患児の好中球自体の障害と考えられた.入院後,さまざまなウイルス感染症に罹患した後,末梢血の好中球数が増加した.さらに患児の膵外分泌機能障害も徐々に改善がみられている. Shwachman症候群はわが国では稀な疾患であるが,本症例の経過よりわが国ではさまざまな亜型の存在も考えられた.
著者
松下 貴史 佐藤 伸一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.333-342, 2005-10-31
参考文献数
63
被引用文献数
12

&nbsp;&nbsp;B細胞の生存・分化・抗体産生に重要な役割を果たすBAFF (B cell activating factor belonging to the tumor necrosis factor family)はTNFファミリーに属する分子で単球,マクロファージ,樹状細胞の細胞膜上に発現され,可溶型として分泌される.BAFFの受容体にはBAFF-R (BAFF receptor), BCMA (B-cell maturation antigen)およびTACI (transmembrane activator and calcium-modulator and cyclophilin ligand interactor)の3種類が知られておりいずれもB細胞の広範な分化段階において発現がみられる.BAFFシグナルは主にBAFF-Rを介して伝えられ,TACIは抑制性のシグナルを伝達している.BAFFはB細胞上の受容体との結合により未熟B細胞の生存と分化,成熟B細胞の増殖,自己反応性B細胞の生存を制御する.BAFF過剰発現マウスでは全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus ; SLE)やSj&ouml;gren症候群に類似した症状を呈する.さらにSLE自然発症モデルマウスや関節リウマチ(rheumatoid arthritis ; RA)モデルマウスであるコラーゲン誘導関節炎においてBAFFアンタゴニストの投与にて症状が改善することが明らかにされた.そしてSLEやRA,Sj&ouml;gren症候群,全身性強皮症の患者において血清BAFF濃度の上昇が報告されている.BAFFは末梢性B細胞の分化・生存に影響することから,BAFF/BAFF受容体の異常が末梢性トレランスの破綻を来たし,リウマチ性疾患の発症に関与していると推測される.近年SLEやRAにおいてB細胞をターゲットした治療が脚光を浴びており, BAFFが有望な治療標的となることが期待されている.<br>
著者
村松 正道 喜多村 晃一 リャン グオシン
出版者
日本臨床免疫学会 = The Japan Society for clinical immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, 2008-08-31

我々はこれまで、活性化B細胞に特異的に発現する遺伝子Activation-induced cytidine deaminase (AID)を単離し、次にAIDが抗体遺伝子の2つの遺伝子改編(クラススイッチ組換えとsomatic hypermutation)のトリガーとなる事を示してきた。すなわち、生体が抗原刺激を受けた際、B細胞が活性化されAIDを新規に発現誘導し、AIDが抗体遺伝子にDNA切断を誘導する。S領域のDNA切断はクラススイッチ組換えにつながり、AIDが可変領域に作用するとsomatic hypermutationが起こる。実際、変異によりAIDの機能不全が起こると常染色体劣性遺伝の液性免疫不全症である高IgM症候群となる事がわかっている。その後の解析より、AIDによる抗体遺伝子座改編システムは、B細胞による獲得免疫の根幹を形成するメカニズムであるのみならず、そのシステムの些細なほころびが発がんのリスクとなる事もわかってきた。ここではAIDと発がんの関連に関する研究の一端を紹介する。 もう一つのトピックとしてAIDにまつわる新たな展開を紹介したい。AIDは、DNAやRNA上の塩基を修飾し塩基の遺伝情報を改変する活性を持つDNA/RNA deaminaseの1員である。この一群のdeaminaseは遺伝情報を再編集し生体の様々な局面に関わっている事が少しずつ明らかになってきた。AIDに最も近いdeaminaseメンバーであるAPOBEC3は、ここ数年HIVウイルスにhypermutationを導入することでHIVを不活性化する自然免疫のeffecter分子として注目されている。HIV以外のウイルスでも、このdeaminaseの働きが相次いで報告されている。AIDも含むdeaminaseの自然免疫における役割を考察する。
著者
立石 睦人 谷口 敦夫 森口 正人 原 まさ子 柏崎 禎夫
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.152-158, 1997-06-30
参考文献数
19
被引用文献数
4 1

ループス腎炎以外の膠原病難治性病態に対するシクロホスファミド大量静注療法(CYパルス)の有用性を検討した.対象はステロイド薬をはじめとした従来の治療法に抵抗性を示した各種膠原病35例であった.著効ないし有効と判定し得たのは35例中20例(57.1%)であり,その病態は全身性エリテマトーデス(SLE)の中枢神経症状2例,血管炎2例,慢性関節リウマチ(RA)の間質性肺炎2例,血管炎2例,関節炎2例,血小板減少症1例,多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)の筋炎2例,間質性肺炎2例,強皮症(PSS)の間質性肺炎1例,抗リン脂質抗体症候群(APS)の血小板減少症2例,若年性関節リウマチ(JRA)の皮膚血管炎1例,ベーチェット病(BD)の中枢神経症状1例であった.一方,副作用は35例中9例(25.8%)に認められた. CYパルスは膠原病の難治性病態,特に中枢神経症状,血管炎,間質性肺炎,自己免疫性血小板減少症などに対して試みる価値のある治療法と考えられた.
著者
坪井 洋人 飯塚 麻菜 浅島 弘充 住田 孝之
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.77-85, 2013-04-28
参考文献数
23
被引用文献数
4

&nbsp;&nbsp;シェーグレン症候群(SS)は唾液腺炎・涙腺炎を主体とし,様々な自己抗体の出現がみられる自己免疫疾患である.SSでは,種々の自己抗体が検出されるが,SSに特異的な病因抗体はいまだ同定されていない.外分泌腺に発現し,腺分泌に重要な役割を果たすM3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)に対する自己抗体(抗M3R抗体)は,SSにおいて病因となる自己抗体の有力な候補であると考えられ,近年注目されている.我々のグループの研究で,M3Rのすべての細胞外領域(N末端領域,第1,第2,第3細胞外ループ)に対して,抗M3R抗体の抗体価および陽性率は健常人と比較してSS患者で有意に高値であった.またSS患者において,抗M3R抗体はM3Rの細胞外領域に複数のエピトープを有することが明らかとなった.さらにヒト唾液腺(HSG)上皮細胞株を用いて,塩酸セビメリン刺激後の細胞内Ca濃度上昇に対する抗M3R抗体の影響を解析した.抗M3R抗体の細胞内Ca濃度上昇に対する影響は,抗M3R抗体のエピトープにより異なる可能性が示唆された.興味深いことに,M3R第2細胞外ループに対する抗M3R抗体陽性SS患者のIgGと,我々が作成したM3R第2細胞外ループに対するモノクローナル抗体は,ともにHSG細胞内Ca濃度上昇を抑制した.M3R第2細胞外ループに対する抗M3R抗体は,唾液分泌低下に関与する可能性が示唆された.<br> &nbsp;&nbsp;以上の結果より,抗M3R抗体は複数のエピトープを有し,唾液分泌への影響はエピトープにより異なる可能性が示された.抗M3R抗体はSSにおける病因抗体としての可能性のほか,診断マーカーや治療ターゲットとなる可能性も期待される.<br>
著者
塚本 浩 上田 尚靖 堀内 孝彦
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.361-368, 2011-10-31
参考文献数
24
被引用文献数
2 6

TNF receptor-associated periodic syndrome(TRAPS)は常染色体優性遺伝形式の家族性周期性発熱疾患である.TRAPSではI型TNF受容体(TNFRI)をコードするTNFRSF1A遺伝子について100以上の遺伝子変異が報告されており,かつ浸透率は85%以上と高い.本邦からはC30R, C30S, T61I, C70S, C70G, C88Y, N101Kの7種類の変異が報告されている.変異TNRIは小胞体内に停滞し,ミトコンドリアからの活性酸素産生を介してMAPキナーゼを活性化状態にする.ここに細菌感染等でToll様受容体からのシグナルが付加され,炎症性サイトカイン産生誘導が起こることが本症の病態形成に関与していると考えられている.臨床所見として発熱期間は平均21日間,発熱間隔は1から数ヶ月である.発作期には,発熱と共に,皮疹,筋痛,関節痛,腹痛,漿膜炎,結膜炎,眼窩周囲浮腫などの随伴病変を伴う.治療としては,副腎皮質ステロイド剤とTNF阻害薬エタネルセプトが発作の重症度や発作期間の短縮に有効である.エタネルセプトでは発作頻度も減少するが無効例も存在する.最近では,IL-1受容体拮抗薬アナキンラやIL-6受容体拮抗薬トシリズマブの有効性も報告されている.厚生労働省のTRAPS研究班(代表者:堀内孝彦)は2010年に,本邦のTRAPS患者の病態に即した診断基準を作成するため全国の実態調査を行い,現在遺伝子解析が進行中である<br>
著者
中嶋 蘭 三森 経世
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.71-76, 2013-04-28
参考文献数
17
被引用文献数
34

抗MDA5抗体は皮膚筋炎特異的抗体であり,同抗体陽性例は筋症状が少なく,高率に急速進行性間質性肺炎を併発し予後不良であること,高フェリチン血症・肝胆道系酵素上昇を伴うなど特徴的な臨床像を呈する.抗MDA5抗体陽性患者と陰性皮膚筋炎患者の治療前血清サイトカインを比較したところ前者では有意にIL-6, IL-18, M-CSF, IL-10が高値を示し,IL-12, IL-22は低値を示した.これらのことから,抗MDA5抗体陽性例においては単球・マクロファージの異常活性化が病態の背景に存在すると考えている.抗MDA5抗体陽性例は一旦酸素投与が必要な呼吸不全状態になると極めて救命率が低いため,診断後可及的速やかに治療介入が必要であると考えられる.ステロイド大量療法・シクロスポリン内服・シクロホスファミド間歇静注療法(IVCY)の3剤を併用した強力免疫抑制レジメンを用いることで,同抗体陽性例の予後が改善した.特に疾患活動性を反映することが報告されている血清フェリチン値は,IVCY投与約2週後に低下する傾向を認め,IVCYが同抗体陽性例の治療においてキードラッグとなることが示唆された.<br>
著者
久野 千津子 中村 稔 真弓 武仁 林田 一洋 加治 良一 長澤 浩平 仁保 喜之 福田 敏郎 恒吉 正澄 大島 孝一
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.256-264, 1995-04-30
被引用文献数
8 3

症例は20歳,女性. 1993年2月,高熱,関節痛,サーモンピンク様皮疹が出現し,白血球増多,脾腫を認め,成人スチル病と診断された. γ-globulin製剤およびprednisolone(PSL)の投与にて症状は改善した.同年9月より全身倦怠感,微熱が出現し,当科に再入院.成人スチル病の再燃を疑われ, PSL 15mg/day投与にて経過観察していたが, 10月2日,高熱と下肢にサーモンピンク様皮疹が出現. 10月7日にはGOT 3,270IU/<i>l</i>, GPT 1,880IU/<i>l</i>, LDH 5,480IU/<i>l</i>と肝障害が出現し,急速に肝不全状態となったため, methylprednisoloneによるpulse療法,血漿交換を開始した. hemophagocytosisが原因と思われる汎血球減少を合併し, VP-16による化学療法も施行.しかしDICが進行し, 11月2日死亡した.剖検所見では,肝臓は組織学的に肝細胞の広範な壊死を認め, histiocyteの浸潤を認めた.本症例はhemophagocytic syndrome(HS)により成人スチル病や急性ウイルス性肝炎と鑑別困難な症状を呈した興味ある症例と考え報告する.
著者
鑑 慎司
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.13-19, 2011-02-28
被引用文献数
9

IL-23は樹状細胞などの抗原提示細胞が産生する.そしてIL-23はTh17細胞への分化を誘導し,Th17細胞の増殖,維持に必要である.Th17細胞は好中球を遊走するケモカイン,抗菌ペプチド,および他の炎症性サイトカインの発現を増強する.IL-23とTh17細胞が正常に機能する状態では宿主はカンジダ,黄色ブドウ球菌,溶連菌等の微生物を駆除できるが,Th17細胞が欠損した状態では易感染性となる.その一方で乾癬等の自己免疫疾患ではTh17細胞が過剰な状態になっていることが報告されている.また,様々な検体を用いた解析で,乾癬患者は健常人よりもこれらの微生物感染が多いことも報告されており,乾癬発病におけるスーパー抗原の関与も示唆されている.IL-23やTh17細胞の機能を理解することは,宿主の微生物に対する防御反応と乾癬などの自己免疫疾患をみるうえで重要な洞察をもたらし,感染症や自己免疫疾患の効果的な治療法の開発へとつながることが期待される.<br>
著者
山本 元久 高橋 裕樹 苗代 康可 一色 裕之 小原 美琴子 鈴木 知佐子 山本 博幸 小海 康夫 氷見 徹夫 今井 浩三 篠村 恭久
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-8, 2008-02-28
被引用文献数
27 39 12

ミクリッツ病は涙腺・唾液腺腫脹を,自己免疫性膵炎は膵のびまん性腫脹を呈し,ともに腺組織中へのIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする疾患である.私たちは,当科における全身性IgG4関連疾患(systemic IgG4-related plasmacytic syndrome ; SIPS)40例の臨床的特徴(腺分泌機能,血清学的評価,合併症,治療および予後)を解析した.男性は11例,女性は29例で,診断時の平均年齢は58.9歳であった.疾患の内訳は,ミクリッツ病33例,キュッツナー腫瘍3例,IgG4関連涙腺炎4例であった.涙腺・唾液腺分泌低下は,約6割の症例にみられたが,軽度であった.抗核抗体陽性率は15%,抗SS-A抗体陽性は1例のみ,低補体血症は30%に認められた.また自己免疫性膵炎,間質性腎炎,後腹膜線維症,前立腺炎などの合併を認めた.治療は,臓器障害を有する症例で治療開始時のステロイド量が多く,観察期間は最長16年のうち,臓器障害の有無に関わらず3例で再燃を認めた.ミクリッツ病をはじめとするSIPSの現時点における問題点と今後の展望について述べてみたい.<br>
著者
久保 亮治
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.76-84, 2011-04-28
被引用文献数
4

生命にとって自己と外界を区切るバリア構造を持つことは,生体内部のホメオスターシスを保ち,生命活動を維持するために必須である.我々の身体の表面,すなわち皮膚の最外層では重層扁平上皮のシート(表皮)とその表面を覆う角質層がバリアとして働いている.上皮細胞シートにおいては,細胞自体を物質が通過しようとする場合(transcellular pathway)は細胞膜がバリアとして働き,細胞と細胞の隙間を物質が通過しようとする場合(paracellular pathway)は細胞間を密に接着するタイトジャンクション(TJ)がバリアとして働く.角質層とTJによるバリアの内側には様々な免疫系の細胞が存在し,外来物質の侵入に備えている.表皮内にはランゲルハンス細胞と呼ばれる樹状細胞が存在し,表皮細胞間に網目のように樹状突起を張り巡らせている.ランゲルハンス細胞は通常,TJバリアの内側に留まるが,活性化すると表皮TJバリアの外側に樹状突起を伸ばし,樹状突起の先端部分より抗原取得を行う性質を持つことを,我々は見出した.外敵との闘いの最前線における索敵活動のように見える本現象について詳しく解説する.<br>
著者
阿比留 教生
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.432-439, 2008-12-31

近年,抗CD3抗体などの生物学的製剤を中心に,ヒト1型糖尿病の分野においても,疾患の治癒・寛解を目指し治療法の開発研究がすすめられているが,安全性,経済性などの問題を抱えている.インスリンは,ヒト,NODマウスの1型糖尿病発症に関連した主要自己抗原である.膵島浸潤T細胞に反応せず,しかも,血糖降下作用を維持する変異インスリン(B鎖16位残基アラニン置換)のみを発現するNODマウスでは,インスリン自己抗体が発現せず,糖尿病も発症しない.NODマウスに,poly I:Cをアジュバントに,インスリンB鎖ペプチドを皮下投与すると,制御性T細胞だけでなく,攻撃側のeffector細胞も膵島内に誘導する.一方,インスリンB鎖16, 19位残基を置換したアナログペプチドを,コレラトキシンをアジュバントに経鼻投与すると,強力な糖尿病発症の抑制と高血糖からの寛解を誘導した.このように,膵島抗原を用いた免疫学的治療法は,投与ルートやアジュバント,補助療法に改良を加え,制御性T細胞を優位に誘導することより,今後,ヒト1型糖尿病において,安全な発症阻止,寛解誘導の治療法となる可能性がある.<br>
著者
宮川 周士
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.174-184, 2007-06-28
参考文献数
40

移植を待つ患者の数と実際のドナーの数の差から,今また異種移植が注目されつつある.この総説は実際の臨床を主体としてまたそれを目指した遺伝子改変したブタ作りを焦点としている.<br>   ブタの臓器にDAF(CD55)を中心としたヒト補体制御因子を発現させ,また糖転移酵素,α1,3 galactosyltransferase (α1,3GT)が作り出すα-Galエピトープ(Galα1-3Galβ1-4GlcNAc-R)をノックアウトする試みは,既にハーバード大学,ピッツバーグ大学,メイヨークリニック,ブレザジェンなどでおこなわれている.我々も,DAF (CD55)と糖転移酵素GnT-IIIを発現しこのα-Galエピトープをホモでノックアウトしたブタ,を昨年開発している.<br>   一方,臨床のブタ膵島移植は多くの国(ロシア,スエーデン,メキシコ,中国)で2005年まで行われており,アメリカでもここ3年以内に臨床治験が始まる予定である.<br>   加えて,異種移植領域の最近の研究,たとえば糖鎖抗原や補体の活性化やNK細胞やその他の免疫反応を押さえる研究を紹介する.また,ブタ内在性レトロウイルス(PERV)の感染性に関する研究も報告する.<br>
著者
山本 元久 小原 美琴子 鈴木 知佐子 岡 俊州 苗代 康可 山本 博幸 高橋 裕樹 篠村 恭久 今井 浩三
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.349-356, 2005-10-31
参考文献数
44
被引用文献数
9 14

症例は,73歳女性.1998年頃より口渇,両側上眼瞼腫脹が出現,2003年10月には両側顎下部腫脹を認めた.同時期に近医で糖尿病と診断され,経口血糖降下薬の投与が開始された.2004年夏頃より上眼瞼腫脹が増強したため,当科受診,精査加療目的にて10月に入院となった.頭部CT・MRIでは,両側涙腺・顎下腺腫脹を認めた.血清学的に高γグロブリン血症を認めたが,抗核抗体・抗SS-A抗体は陰性であり,乾燥性角結膜炎も認めなかった.さらなる精査で,高IgG4血症及び小唾液腺生検にて著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を認めたため,Mikulicz病と診断した.腹部CTではびまん性膵腫大を認め,ERCPで総胆管・主膵管に狭窄を認めた.自己免疫性膵炎の合併と診断し,プレドニゾロン40 mg/日より治療を開始した.その結果,涙腺・顎下腺腫脹は消失,唾液分泌能も回復した.また膵腫大,総胆管・膵管狭窄も改善した.耐糖能障害も回復傾向にある.Mikulicz病と自己免疫性膵炎は共に高IgG4血症を呈し,組織中にIgG4陽性形質細胞浸潤を認めることから,両疾患の関連を考える上で非常に興味深い症例であると思われた.<br>