- 著者
-
山本 浩一
大和谷 厚
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.132, no.2, pp.83-88, 2008 (Released:2008-08-08)
- 参考文献数
- 20
- 被引用文献数
-
3
ラットやマウスなどの齧歯類動物には嘔吐反射はないが,抗がん薬の投与や回転刺激,放射線照射など催吐作用のある刺激を与えると,カオリンなどの通常の餌としては異常な物に対して食欲を示すパイカ行動(異味症)が現れる.催吐刺激により現れるこの行動はそれぞれの刺激に特異的な制吐薬の前処置によって抑制でき,われわれはパイカ行動を指標とすれば齧歯類を悪心・嘔吐の研究に応用できることを報告してきた.齧歯類でも特にマウスは遺伝子改変動物を用いることができるなど利点も多いが,催吐刺激によるカオリン摂取量は,ラットに比べて非常に少ないことや,カオリンペレットをあちこちに食べ散らかすために摂取量の正確な測定は困難であった.そこで,われわれは経口摂取しても消化管から吸収されず糞便中に排出される赤色色素のカルミンを添加して作成したカオリンペレットを用い,催吐刺激後2日間の糞便を回収し,糞便中から抽出したカルミンを比色定量することにより精度よくマウスのカオリン摂取量を定量する方法を開発した.これまではイヌ・フェレット・ネコ・ブタ・サルなどの中型から大型の比較的高価で遺伝的なバックグラウンドが一定していない動物を用いざるを得ず,多大な労力と費用のかかっていた悪心・嘔吐の実験を,齧歯類動物のパイカ行動を利用することによって簡便化することができ,悪心・嘔吐の発症機構そのものの研究に加え,新規薬物の有害作用としての悪心・嘔吐のスクリーニングにも広く応用できるものと期待している.