著者
大和谷 厚
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

脳内ヒスタミン神経系のいくつかの生理機能は,他の神経系の神経終末上にプレシナプティックヘテロレセプターとして存在するH3-受容体を介してそれらの神経系の活動性が調節されて発現するという作業仮説を証明するため実験を開始した.まず,脳微小透析法と多種目神経化学分析装置を用い,H3-受容体リガンドの脳内神経伝達物質動態への作用を検討し,セロトニン神経系の代謝回転が影響を受けることを明らかにした.その経過にH3-受容体の遮断薬として最も一般的に用いられているチオペラミドが,H3-受容体遮断以外の作用をもつことを見い出し,まずその機構を明らかにすることにした.そして,チオペラミドはカルシウム非依存性にGABA遊離を直接促進させることから,GABAトランスポーターに対する阻害作用によるものと結論づけた.これまで、チオペラミドはヒスタミンH3受容体遮断薬の標準薬として多くの研究に用いられ、その薬理作用は脳内のヒスタミン遊離を増加した結果として説明され、脳内ヒスタミンの生理的意義を探るため用いられてきたが,この結果から,これまでの報告されているチオペラミドの中枢薬理作用がヒスタミンH3受容体遮断によるものだけでなく、GABA遊離の関与も考える必要があり,全てのデータについて再検討する必要があると考えられた。また,H3-受容体リガンドの治療薬としての可能性を深る目的で,麻酔深度におよぼす影響および動揺病の予防効果について動物実験を行った.H3-受容体遮断薬により脳内ヒスタミン遊離を増強させたときの麻酔深度への影響を調べたが,チオペラミドの場合,所期の効果が観察できなかった.これは,前述のチオペラミドのGABA遊離促進効果によりマスクされたものと結論づけ,より特異性の高い薬物で再検討することとした.動揺病予防については,H3-遮断薬の投与が有効であることが分かった.
著者
山本 浩一 大和谷 厚
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.2, pp.83-88, 2008 (Released:2008-08-08)
参考文献数
20
被引用文献数
3

ラットやマウスなどの齧歯類動物には嘔吐反射はないが,抗がん薬の投与や回転刺激,放射線照射など催吐作用のある刺激を与えると,カオリンなどの通常の餌としては異常な物に対して食欲を示すパイカ行動(異味症)が現れる.催吐刺激により現れるこの行動はそれぞれの刺激に特異的な制吐薬の前処置によって抑制でき,われわれはパイカ行動を指標とすれば齧歯類を悪心・嘔吐の研究に応用できることを報告してきた.齧歯類でも特にマウスは遺伝子改変動物を用いることができるなど利点も多いが,催吐刺激によるカオリン摂取量は,ラットに比べて非常に少ないことや,カオリンペレットをあちこちに食べ散らかすために摂取量の正確な測定は困難であった.そこで,われわれは経口摂取しても消化管から吸収されず糞便中に排出される赤色色素のカルミンを添加して作成したカオリンペレットを用い,催吐刺激後2日間の糞便を回収し,糞便中から抽出したカルミンを比色定量することにより精度よくマウスのカオリン摂取量を定量する方法を開発した.これまではイヌ・フェレット・ネコ・ブタ・サルなどの中型から大型の比較的高価で遺伝的なバックグラウンドが一定していない動物を用いざるを得ず,多大な労力と費用のかかっていた悪心・嘔吐の実験を,齧歯類動物のパイカ行動を利用することによって簡便化することができ,悪心・嘔吐の発症機構そのものの研究に加え,新規薬物の有害作用としての悪心・嘔吐のスクリーニングにも広く応用できるものと期待している.
著者
春名 正光 大和谷 厚 近江 雅人 玉田 康彦 玉田 康彦
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

交感神経の支配下で機能する汗腺や末梢血管は重要な微小器官であり、そのダイナミックな生理機能を解明することが重要である。本研究では、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を用いて、ヒト指汗腺や小動脈の生理機能を可視化した。汗腺においては、外部刺激に反応する精神性発汗の動的解析を行い、新たに内部発汗を見出した。小動脈においては、脈動を観測し、弾性型動脈と筋型動脈として同時に機能することを明らかにした。