- 著者
-
深谷 親
山本 隆充
- 出版者
- 日本脳神経外科コングレス
- 雑誌
- 脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.2, pp.137-142, 2016 (Released:2016-02-25)
- 参考文献数
- 20
機能的神経疾患の原因を考えるうえで皮質-線条体-視床-皮質ループ (CSTCループ) という概念が注目されている. 大脳皮質から大脳基底核, 視床に至る経路にそれぞれ運動, 認知, 情動に関する回路が近接して存在し, 連携して活動しているという考えである. このループの機能障害が関与していると考えられる疾患として, パーキンソン病, ジストニア, 強迫性障害, トゥレット症候群などが挙げられる. これらの疾患では, 運動, 認知, 情動のどの回路が主に障害されているかで疾病としての表現型も異なってくる. 脳深部刺激療法のターゲットは, CSTCループのいずれかの部位に設定されることが多い. したがって, 運動, 認知, 情動といった機能を個々に切り離して治療することは難しい. パーキンソン病に対する視床下核の刺激により情動面の変化が生じることがあるのはよく知られている. こうした現象は, 健常者においても気分のよいときには行動も快活になり, 気分が落ち込んでいる時は頭も働かなくなるといった経験からも理解できるであろう. CSTCループを基盤とした考えは, 脳深部刺激療法の理論背景となるだけではなく, 最前線の臨床の場でも役立つ可能性が高い. 運動には, 高い認知症予防効果やうつの改善効果があり, パーキンソン病の進行を遅らせることが知られている. また前向きで安定した情動は不随意運動を改善し, 運動療法が痛み認知を改善させることも報告されている.