著者
倉恒 弘彦 西牧 真里 志水 彰
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

不登校児を対象に馬介在療法を実施、(1)自覚症状、(2)心理学的評価、(3)自律神経系評価、(4)睡眠、覚醒リズムの評価などによって科学的に効果を検討した。また、精神作業疲労負荷健常者における乗馬の疲労回復効果を検証するとともに、有酸素運動や馬の常歩(なみあし)運動の動きをするジョーバ(松下電工)による疲労回復効果についても比較検討した。不登校児を対象に1回/週x5週間で実施した12名の馬介在療法の結果では、気分の落ち込み、イライラ感、不安感、緊張に明らかな改善がみられた(p<0.001)。心理評価では、以前に比較して表情が明るくなる、家庭での会話が増える、日常生活における行動量が増加するなどメンタルヘルスの向上が認められた。また、自律神経系評価では乗馬後は交感神経系の緊張が緩和していることが確認された。一方、5日間連続の馬介在療法に参加した3名の不登校児においても、初日の結果では乗馬後自律神経系の緊張が緩和される傾向がみられた。残念ながら、5日間連続して参加が可能であったのは1名のみであったが、睡眠に関して中途覚醒数が減少し睡眠効率の改善が認められた。疲労付加健常者の検討では、有酸素運動(散歩)群でも疲労度、活力、緊張、意欲の改善効果がみられたが、乗馬群は疲労度、気分の落ち込み、イライラ感、活力、不安感、緊張、意欲、体調において有意に改善がみられ、乗馬は有酸素運動以上の改善効果がみられることが判明した。また、馬の常歩(なみあし)運動の動きをするジョーバ(松下電工)の検討では、活力、不安感、緊張の自覚症状は乗馬群のみで改善がみられたが(p<0.01)、気分の落ち込み、イライラ感、意欲の程度、体調はジョーバでも改善がみとめられ(p<0.01)、自宅から出ることが難しい不登校児に対する1つの方法になりえる可能性が考えられた。
著者
志水 彰 山下 仰
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

1.研究目的:コミックビデオの視聴による笑いの前後で血液中のNK細胞活性を測定し、笑いによる変化を求めた。笑いの評価は主観的な面白さをPOMSで、客観的な評価を大頬骨筋電図の面積積分値の大きさで行った。2.実験の進行状況:現在までに男女あわせて12名(男性8名、女性4名)の測定を終えている。(平均年齢22.9±3.5歳)最終的に20人を測定する予定である。3.現在までの結果:(1)主観的な評価でコミックビデオを面白いと感じた場合は、視聴後にNK細胞活性は有意に上昇した。(2)先の結果をビデオ視聴前と視聴後で比較した場合、コミックの場合もコントロールの場合もNK細胞活性に有意な差は見られなかった。(3)コミックビデオ視聴前後のNK細胞活性の差とコントロール刺激ビデオ視聴前後のNK細胞活性の差を比較した場合にも有意な差は見られなかった。(4)この結果は、笑うという動作はNK細胞活性に影響せず、面白いという情動はNK細胞活性を上昇させると解釈できる。4.今後の研究の展開について:今後は被験者の性格、気分、大頬骨筋電図の面積積分値とNK細胞活性の関係をさらに求めたい。また、今までの成績では男性被験者に比較して女性被験者はNK細胞活性の変化に乏しかったが、これも感受性の違いによるものと思われるが、現在のところ女性被験者数が少ないためにはっきりしたことはいえないのでこの点についても検討したい。
著者
岩瀬 真生 高橋 秀俊 中鉢 貴行 梶本 修身 志水 彰 武田 雅俊
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.1291-1296, 2003-12-15

はじめに Trail Making Test(TMT)とは,1枚の紙に書かれた1から25までの数字などの指標を順に鉛筆でなぞるという簡易な認知機能検査である4)。TMTは1950年代に開発され神経内科領域で主に前頭葉機能を評価するために使用されてきた。 TMTは従来脳障害の判定に有用であるといわれており,左半球障害者や前頭葉障害者などではカテゴリーチェンジのないTMT-Aに比してカテゴリーチェンジのあるTMT-Bの成績が極端に悪くなると考えられている。TMT-A,B課題双方ともに成績が低下する場合には,情報処理あるいは注意力の全般的機能障害が示唆される。統合失調症患者においてもA,B課題双方ともに成績が低下し,A課題の障害に比してB課題の障害が高度であるという報告が多い。 梶本らはタッチパネルディスプレイを用いてTMTをコンピュータ化したAdvanced Trail Making Test(ATMT)を開発した2)。ATMTは原版のTMTを改変して,visuospatial working memory(VWM)の定量評価を可能にした。ATMTは原版のTMTと比べいくつかの利点がある。(1)タッチパネル上に表示された数字ボタンに直接指で触れて課題を遂行するようにし,1回のボタン押しごとの反応時間測定を可能にした。(2)数字ボタンを25までに限定せず長時間の連続測定を可能にした。(3)数字ボタンの位置が固定され,VWMにより成績向上が可能な課題(ATMT-B課題)と数字ボタンの位置が1回のボタン押しごとに変化し,課題の遂行が視覚的探索のみによる課題(ATMT-C課題)とを作成し,両者の比較によりVWMの定量評価を可能にした。ATMTは短時間で大量かつ定量性の高いデータを得られる上に,課題の教示がほとんど不要なため容易に検査を施行でき,小児から高齢者までさまざまな精神疾患へ応用可能と考えられる。 本論文では,ATMTによるVWMの評価方法を概説する。さらに,健常者と統合失調症患者の少数例でVWMの評価を予備的に開始しており,その結果について述べる。