- 著者
-
山田 義顕
- 出版者
- 大阪府立大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1997
平成9年度は、装甲艦<A>問題が浮上する時期に、<ローマン事件>を契機として、すでに軍部対政府・議会という対立関係から、軍部・政府対議会という対立関係に政軍関係が変化していたことを指摘した。平成10度は、まず装甲艦<A>の成立過程を、軍事的、外政的側面から検討した。この点ではまず、海軍指導部が、ヴェルサイユ条約によって厳しい制約を受けながらも、北海でフランス艦隊に対抗できる新型艦の開発に成功した過程をたどった。その過程で、「砲撃では巡洋艦に、速力では大型戦艦に優越する」「小型巡洋戦艦」(いわゆるボケット戦艦)として、装甲艦<A>の決定をみたことを明らかにした。またこの装甲艦<A>は、ドイツ海軍が単に沿岸防衛に専守する任務をもつものではなく、制海権を目標とした戦前のドイツ大洋艦隊の道を再び歩む方向を決定づけたことを指摘した。つまり装甲艦<A>は、ドイツ海軍のイデオロギー的連続性を示すものであったのである。ついで、ヘルマン・ミュラー大連合内閣の時期に、1928/29年予算に計上された装甲艦<A>の第一回分割払いの問題を、「政党と海軍」、「政治と海軍」を中心に取り上げた。ここでは、装甲艦<A>の軍事的、外政的、財政的な面から建造に反対する諸政党に対し、国防大臣ヴィルヘルム・グレーナーが、どのようにこの艦の必要性を説いたかを検討した。両年度の研究実績の詳細については、『研究成果報告書』の第1章と第2章でまとめた。