著者
熊本 雄一郎 青山 道夫 濱島 靖典 岡 英太郎 村田 昌彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月11日に発生した巨大地震とそれに引き続く大津波は、福島第一原子力発電所(FNPP1)の核燃料露出と炉心損傷を引き起こした。その結果、多くの放射性セシウム(134Csと137Cs)がFNPP1より漏えいし北太平洋に放出された。これまでの観測研究によって、日本近海の北太平洋に大気沈着および直接流出した放射性セシウムは北太平洋海流に沿って中緯度表層を東に移行しつつあることが明らかにされた(Kumamoto et al., 2016)。また、黒潮・黒潮続流の南側に大気沈着した放射性セシウムは亜熱帯モード水の亜表層への沈み込みによって、2014年末までに西部亜熱帯域のほぼ南端に相当する北緯15度まで南下したことが確認されている(Kumamoto et al., 2017)。一方、2011年から2015年の約4年余の間、北海道西部、新潟、石川、福井、島根、佐賀、鹿児島、愛媛、静岡県の各原子力発電所の沿岸域では、海水中放射性セシウムの継続な濃度上昇が確認されている(規制庁, 2016)。また、Aoyama et al.(2017)も2015/2016年に同沿岸海域における表面水中濃度の上昇を報告している。放射性セシウム濃度の上昇が観測された海域は黒潮系水の影響が比較的大きい沿岸海域であり、これらの結果はFNPP1事故で西部亜熱帯域全体に拡がった放射性セシウムが、時計回りの亜熱帯循環流によって日本沿岸に回帰していることを暗示している。しかしながら、西部亜熱帯循環域におけるFNPP1事故起源放射性セシウムの時空間変動は明らかではない。我々は2015年および2016年に黒潮・黒潮続流南側の西部亜熱帯域において、表面から深度約800mまでの海水中溶存放射性セシウムの濃度を測定したのでその結果を報告する。海水試料は、新青丸KS15-14(2015年10月)、白鳳丸KH16-03(2016年6月)、および「かいめい」KM16-08(2016年9月)の各観測航海において、バケツ及びニスキン採水器を用いて各10~20リットルを採取された。陸上の実験室(海洋研究開発機構むつ研究所)において硝酸酸性にした後、海水中の放射性セシウムをリンモリブデン酸アンモニウム共沈法によって濃縮し、ゲルマニウム半導体検出器を用いて放射性セシウムの濃度を測定した。濃縮前処理と測定を通じて得られた分析の不確かさは、約8%であった。北緯30-32度/東経144-147度で得られた134Cs濃度(FNPP1事故時に放射壊変補正済)の鉛直分布を、同海域において2014年に得られたそれ(Kumamoto et al., 2017)と比較した。その結果、深度100m程度までの表面混合層においては、2014年には約1 Bq/m3であった134Cs濃度が、2015/2016年には1.5-2.5 Bq/m3に増加したことが分かった。一方、深度300-400mの亜表層極大層におけるその濃度は、2014年から2016年の3回の観測を通じてほとんど変化していなかった(約3-4 Bq/m3)。この134Cs濃度の亜表層極大層は、亜熱帯モード水の密度層とよく一致していた。一方、同じく黒潮続流南側の北緯34度/東経147-150度における放射壊変補正済134Cs濃度は、2012年から2014年の約3年間に、表面混合層では検出下限値以下(約0.1 Bq/m3)から約1 Bq/m3に増加し、亜表層の300-400mでは約16 Bq/m3から約3-4 Bq/m3に低下したことが報告されている(Kumamoto et al., 2017)。これらの観測結果は、FNPP1事故から5年以上が経過した2016年までに、亜熱帯モード水によって南方に輸送されたFNPP1事故起源の放射性セシウムが同モード水の時計回りの循環によって、日本南方の西部亜熱帯域北部に回帰してきたことを強く示唆している。その他の起源(例えば陸水)の影響が小さいと仮定できるならば、表面混合層における2012年から2016年の間の134Cs濃度上昇(0.1 Bq/m3以下から1.5-2.5 Bq/m3)は、亜表層極大の高濃度水がentrainmentによって表面水に取り込まれたためと推測される。講演では、日本沿岸域の2015/2016年の観測結果速報も報告する予定である。この本研究はJSPS科研費24110004の助成を受けた。
著者
熊本 雄一郎 青山 道夫 濱島 靖典 岡 英太郎 村田 昌彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月11日に発生した巨大地震とそれに引き続く大津波は、福島第一原子力発電所(FNPP1)の核燃料露出と炉心損傷を引き起こした。その結果、多くの放射性セシウム(134Csと137Cs)がFNPP1より漏えいし北太平洋に放出された。これまでの観測研究によって、日本近海の北太平洋に大気沈着および直接流出した放射性セシウムは北太平洋海流に沿って中緯度表層を東に移行しつつあることが明らかにされた(Kumamoto et al., 2016)。また、黒潮・黒潮続流の南側に大気沈着した放射性セシウムは亜熱帯モード水の亜表層への沈み込みによって、2014年末までに西部亜熱帯域のほぼ南端に相当する北緯15度まで南下したことが確認されている(Kumamoto et al., 2017)。一方、2011年から2015年の約4年余の間、北海道西部、新潟、石川、福井、島根、佐賀、鹿児島、愛媛、静岡県の各原子力発電所の沿岸域では、海水中放射性セシウムの継続な濃度上昇が確認されている(規制庁, 2016)。また、Aoyama et al.(2017)も2015/2016年に同沿岸海域における表面水中濃度の上昇を報告している。放射性セシウム濃度の上昇が観測された海域は黒潮系水の影響が比較的大きい沿岸海域であり、これらの結果はFNPP1事故で西部亜熱帯域全体に拡がった放射性セシウムが、時計回りの亜熱帯循環流によって日本沿岸に回帰していることを暗示している。しかしながら、西部亜熱帯循環域におけるFNPP1事故起源放射性セシウムの時空間変動は明らかではない。我々は2015年および2016年に黒潮・黒潮続流南側の西部亜熱帯域において、表面から深度約800mまでの海水中溶存放射性セシウムの濃度を測定したのでその結果を報告する。海水試料は、新青丸KS15-14(2015年10月)、白鳳丸KH16-03(2016年6月)、および「かいめい」KM16-08(2016年9月)の各観測航海において、バケツ及びニスキン採水器を用いて各10~20リットルを採取された。陸上の実験室(海洋研究開発機構むつ研究所)において硝酸酸性にした後、海水中の放射性セシウムをリンモリブデン酸アンモニウム共沈法によって濃縮し、ゲルマニウム半導体検出器を用いて放射性セシウムの濃度を測定した。濃縮前処理と測定を通じて得られた分析の不確かさは、約8%であった。北緯30-32度/東経144-147度で得られた134Cs濃度(FNPP1事故時に放射壊変補正済)の鉛直分布を、同海域において2014年に得られたそれ(Kumamoto et al., 2017)と比較した。その結果、深度100m程度までの表面混合層においては、2014年には約1 Bq/m3であった134Cs濃度が、2015/2016年には1.5-2.5 Bq/m3に増加したことが分かった。一方、深度300-400mの亜表層極大層におけるその濃度は、2014年から2016年の3回の観測を通じてほとんど変化していなかった(約3-4 Bq/m3)。この134Cs濃度の亜表層極大層は、亜熱帯モード水の密度層とよく一致していた。一方、同じく黒潮続流南側の北緯34度/東経147-150度における放射壊変補正済134Cs濃度は、2012年から2014年の約3年間に、表面混合層では検出下限値以下(約0.1 Bq/m3)から約1 Bq/m3に増加し、亜表層の300-400mでは約16 Bq/m3から約3-4 Bq/m3に低下したことが報告されている(Kumamoto et al., 2017)。これらの観測結果は、FNPP1事故から5年以上が経過した2016年までに、亜熱帯モード水によって南方に輸送されたFNPP1事故起源の放射性セシウムが同モード水の時計回りの循環によって、日本南方の西部亜熱帯域北部に回帰してきたことを強く示唆している。その他の起源(例えば陸水)の影響が小さいと仮定できるならば、表面混合層における2012年から2016年の間の134Cs濃度上昇(0.1 Bq/m3以下から1.5-2.5 Bq/m3)は、亜表層極大の高濃度水がentrainmentによって表面水に取り込まれたためと推測される。講演では、日本沿岸域の2015/2016年の観測結果速報も報告する予定である。この本研究はJSPS科研費24110004の助成を受けた。
著者
岡 英太郎
出版者
東京大学
雑誌
東京大学海洋研究所大槌臨海研究センター研究報告 (ISSN:13448420)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.71-72, 2002-03-29

平成13年度共同利用研究集会「北太平洋北西部とその縁辺海の水塊変動と循環」(2001年8月21日, 研究代表者:岩坂直人)講演要旨Variations of water masses and circulations in the northwestern North Pacific and its marginal seas(Abstracts of scientific symposia held at Otsuchi Marine Research Center in 2000)