著者
柳町 智治 岡田 みさを
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

人々のインタラクションは、日常の具体的な実践の文脈に埋め込まれている。そして、そうした文脈には発話や発話者だけでなく、聞き手、非言語、人工物といった様々なリソースが存在し、それらが人々のインタラクションにおける一つ一つの発話順番の積み重なりに深く関わっている。本研究では、こうした視点から多くの自然会話の事例を分析していくことを通して、日本語の使用と学習の問題を再考し議論していった。研究の目的としては、(a)日本語を母語あるいは第二言語とする者のワークプレースおける自然会話を、微視的かつボトムアップに記録し記述し、(b)こうした相互行為実践の具体的場面の事例的研究を蓄積し、最終的に日本語教育における学習や教授に関する提言を行うことであった。具体的成果として、さまざまなワークプレース(大学の実験室やアルバイト先の飲食店やボクシングジム)におけるデータの分析から、(1)彼らが会話への参加の微妙な調整を通して「参加」を組織化している様子、(2)聞き手、非言語、人工物といった様々なリソースを通してインタラクションがマルチモダルに組織化されている様子、(3)参加者による「職業的/専門的な見方」、つまり、「ある社会グループに特有の興味関心に応じる、社会的に組織されたものの見方や理解の仕方」が形成され志向され、また理解される様子、さらに、(4)人々は純粋な個体としてそこにいるのではなく、むしろ、周囲の人、モノ、テクノロジーとの布置連関のあり方を通して我々の前に立ち現れており、彼らはそうしたリソースやネットワークへのアクセスのあり方そのものであること、を明らかにした。
著者
柳町 智治 岡田 みさを
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本科研調査では、日本語の「学習」を「学習者と周囲とのコミュニケーションが環境中の様々なリソースに媒介され変容していくプロセス」として捉え、目本語の使用、学習といった実践のあり方を「具体的な文脈に属する複数の人間、道具のやりとりのダイナミクス」と見なし再考した。具体的には、第二言語話者あるいは日本語母語話者が日常的な実践を行っている場面(理系大学院における実験場面やボクシングの練習場面)をとりあげ、そこで見られるインタラクションをビデオデータの微視的な分析やフィールド調査を通じて詳細に記述、分析するということを行った。その際、(1)人の行動がその場の言語、非言語行動、人工物の使用といったマルチモダルなリソースの並置を通してどのように成し遂げられているのか、(2)何かを学習するということをその文脈で特有のものの見方(professional vision)を学ぶことと捉えた場合、個々の文脈においてそうした「vision」が当事者たちによってどのように提示されその理解が達成されているのか、の2点を分析考察の中心とした。日本語によるインタラクションを「マルチモダリティ」および「vision」の視点から考察した研究はまだほとんど行われていないが、3年間の本プロジェクトでは、日本語第二言語話者と日本語母語話者の相互行為が当該文脈においてどのように成し遂げられ、組織化されているのかの一端を具体的なインタラクションの分析を通して明らかにした。