著者
柳町 智治
出版者
国立国語研究所
雑誌
国語研プロジェクトレビュー = NINJAL project review (ISSN:21850100)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.205-210, 2014-06

大学院研究留学生が指導教員から実験の手順について指示説明をうけている場面の相互行為分析をもとに,数をかぞえる,あるいは指示や説明を理解するという認知的活動が社会的に組織化されている様子を示す。また,第二言語話者が日常的実践を行っていく能力をどのように捉え評価したらいいのかという問題を,近年広がりを見せている能力記述文に準拠した評価方法と関連させて検討していく。This paper, based on the microanalysis of a video-taped interaction between an international graduate student and her academic supervisor in a science lab at a Japanese university, demonstrates how cognitive activities such as counting and mutual understanding are socially organized. The paper also discusses the issue of how we should evaluate second-language speakers' competence in organizing daily activities on the basis of recent 'can-do statement' movements in Europe and Japan.
著者
柳町 智治
出版者
北海道大学留学生センター = Hokkaido University International Student Center
雑誌
北海道大学留学生センター紀要
巻号頁・発行日
vol.2, pp.58-74, 1998-12

本小論では、第二言語習得(SLA)研究者の問で頻繁に議論されてきた「SLA研究は第二言語教授を包括するのか、あるいは教授の現場での応用を前提とするのか」という問題ついて、KrashenのSLAモデルとACTFLの言語能力基準を例に、'technical knowledge'を追求する研究者と授業に応用可能な'practical knowledge'を求める教師の両者の視点から考察する。さらに、両者の隔たりを埋めるための方策として、教師が研究者に対し研究で示唆された結果が実際に学習の場で起きているのかフィードバックを与えることにより、仮説検証のプロセスに参画する試みや、アクション・リサーチを通じて、教師が言語を教えるプロとしての資質を高め、研究と言語教授の関係を再評価する契機とする、といった例を紹介し検討する。最後に、以上の考察が日本語教育に示唆する問題を、(1)日本語習得研究と日本語の教授を峻別し、研究の結果を日本語教育に応用する際や、逆に、本来言語教授のために生み出されたものを習得研究に応用する際には、慎重な態度で臨むことが望まれる、(2)これからの日本語教師には教えるプロとして、今後ますます専門化していくと予想される習得研究の発展に対応すべく、研究の方法論や統計についての基本的知識の習得が不可欠になる、という二点から考察する。This article examines a frequently discussed issue among second-language professionals: should second-language acquisition (SLA) research deal with problems related to secord-language teaching? We review two different views on this issue: those of researchers who mainly pursue technical knowledge in SLA in a narrow sense, and those of second-language teachers who seek practical knowledge to improve their teaching. As examples of the divergence between these two perspectives, we discuss debates on Krashen's SLA model and ACTFL's Proficiency Guidelines (PG). In order to bridge this gap, we put forward some suggestions for second-language teachers, including encouraging them to actively give feedback to researchers concerning predictions made in SLA studies and get involved in the process of hypothesis testing. Action research is also mentioned as a way to provide second-language teachers with opportunities for professional development and re-evaluating the relationship between research and teaching. Finally, implications of this issue are discussed in the context of teaching Japanese as a second language. Two of these are that: (1) we must be careful when we try to apply results of Japanese SLA research to language teaching as well as when we use measures designed for language pedagogy such as PG for the purpose of pursuing technical knowledge through academic research; and (2) it is necessary to provide future Japanese-language teaching professionals with basic training in L2 research methodology in order to enable them to keep up with developments in SLA research which is becoming an increasingly specialized academic field.
著者
柳町 智治 岡田 みさを
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

人々のインタラクションは、日常の具体的な実践の文脈に埋め込まれている。そして、そうした文脈には発話や発話者だけでなく、聞き手、非言語、人工物といった様々なリソースが存在し、それらが人々のインタラクションにおける一つ一つの発話順番の積み重なりに深く関わっている。本研究では、こうした視点から多くの自然会話の事例を分析していくことを通して、日本語の使用と学習の問題を再考し議論していった。研究の目的としては、(a)日本語を母語あるいは第二言語とする者のワークプレースおける自然会話を、微視的かつボトムアップに記録し記述し、(b)こうした相互行為実践の具体的場面の事例的研究を蓄積し、最終的に日本語教育における学習や教授に関する提言を行うことであった。具体的成果として、さまざまなワークプレース(大学の実験室やアルバイト先の飲食店やボクシングジム)におけるデータの分析から、(1)彼らが会話への参加の微妙な調整を通して「参加」を組織化している様子、(2)聞き手、非言語、人工物といった様々なリソースを通してインタラクションがマルチモダルに組織化されている様子、(3)参加者による「職業的/専門的な見方」、つまり、「ある社会グループに特有の興味関心に応じる、社会的に組織されたものの見方や理解の仕方」が形成され志向され、また理解される様子、さらに、(4)人々は純粋な個体としてそこにいるのではなく、むしろ、周囲の人、モノ、テクノロジーとの布置連関のあり方を通して我々の前に立ち現れており、彼らはそうしたリソースやネットワークへのアクセスのあり方そのものであること、を明らかにした。
著者
柳町 智治 岡田 みさを
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本科研調査では、日本語の「学習」を「学習者と周囲とのコミュニケーションが環境中の様々なリソースに媒介され変容していくプロセス」として捉え、目本語の使用、学習といった実践のあり方を「具体的な文脈に属する複数の人間、道具のやりとりのダイナミクス」と見なし再考した。具体的には、第二言語話者あるいは日本語母語話者が日常的な実践を行っている場面(理系大学院における実験場面やボクシングの練習場面)をとりあげ、そこで見られるインタラクションをビデオデータの微視的な分析やフィールド調査を通じて詳細に記述、分析するということを行った。その際、(1)人の行動がその場の言語、非言語行動、人工物の使用といったマルチモダルなリソースの並置を通してどのように成し遂げられているのか、(2)何かを学習するということをその文脈で特有のものの見方(professional vision)を学ぶことと捉えた場合、個々の文脈においてそうした「vision」が当事者たちによってどのように提示されその理解が達成されているのか、の2点を分析考察の中心とした。日本語によるインタラクションを「マルチモダリティ」および「vision」の視点から考察した研究はまだほとんど行われていないが、3年間の本プロジェクトでは、日本語第二言語話者と日本語母語話者の相互行為が当該文脈においてどのように成し遂げられ、組織化されているのかの一端を具体的なインタラクションの分析を通して明らかにした。