- 著者
-
藤 義博
岡田 二郎
- 出版者
- 九州大学
- 雑誌
- 萌芽的研究
- 巻号頁・発行日
- 1997
本研究は自由行動中のオオスズメバチの脳の活動を埋め込み電極で記録することと、これをFM無線で転送し、その行動の神経生理学的基礎を直接解析することの2点を目的とした。本研究では予備実験として、オオスズメバチの視覚行動、学習過程、脳の構造を調べた。オオスズメバチの脳のサイズは現在まで報告されている昆虫の中では最大で、慢性埋め込み電極を用いいる研究に最適であることが明らかになった。まず第一の目的である特に埋め込み電極の有用性を検討した。スズメバチの脳に直径20μmの被覆銅線を埋め込み、飛翔時の脳の活動が可能であるかを調べた。飛翔中のスズメバチは前方で動く物体に顕著な攻撃行動をする。本研究では、この攻撃行動に関わるとみられる脳の活動変化が記録された。さらに、視覚中枢である視葉でも、動きの検出に関与するニューロンの応答が記録された。以上の結果は、慢性埋め込み電極でも、従来のガラス微小電極がに匹敵する記録が長時間可能であることを示した。第二の目的である、無線による活動電位の記録は困難な課題であるとの結論に達した。行動中の昆虫の筋電図(筋肉の活動電位)を無線で送る実験は報告されている。オオスズメバチはトランスミッターを背負っても飛翔することは出来る。このような実験はオオスズメバチ以外では不可能である。他の大型昆虫にもトランスミッターを負荷し、歩行可能な種はいるが、飛翔することは出来ない。従って、オオスズメバチから飛翔中の筋電図を記録することは可能であった。これは、飛翔の視覚コントロールの研究の有効な手段となりうる。しかしながら、脳の活動の記録は困難であった。筋電位がミリボルト単位の電位変化であるのに対し、脳の活動電位はマイクロボルトと非常に微弱でノイズレベルでから区別出来なかった。現在、これらの困難を克服するため、電極を工夫しノイズの低い記録方法を追求し、シグナルとノイズの分離法を検討している。