著者
槌野 正裕 荒川 広宣 小林 道弘 清田 大喜 岩下 知裕 堀内 大嗣 中島 みどり 高野 正太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌 九州理学療法士学術大会2019 (ISSN:24343889)
巻号頁・発行日
pp.45, 2019 (Released:2019-12-11)

【はじめに】当院は大腸肛門病センターとして、大腸、肛門の器質的疾患や直腸肛門の機能障害に対しての診断・治療を行おり、リハビリテーション科は、便秘や便失禁症例に対する直腸肛門機能訓練に取り組んでいる。便失禁症は、2017年に発刊された便失禁診療ガイドラインによると、65歳以上の有症率は男性8.7%、女性6.6%とされており、専門的な保存治療の一つに骨盤底筋群に対するバイオフィードバック(biofeedback:BF)療法が行われ、治療の有効率は70%前後と報告されている。当院でも便失禁症例に対しては筋電図BF療法を用いているが、収縮方法を獲得できない症例を経験する。このように通常のBF療法では骨盤底筋群の収縮を獲得できない症例に対して、内閉鎖筋膜は肛門挙筋に起始を与えると報告されていることから、股関節外旋筋の収縮をさせることで骨盤底筋群の一つである外肛門括約筋の収縮を得ることが出来るのではないかと考え、検討を開始(第6回運動器理学療法学会で報告)した。今回、外旋筋を用いた骨盤底筋収縮に関する検討を継続した結果を報告する。【対象と方法】2018年5月から12月に当院で骨盤底筋群に対するBF療法を行った症例の中で無作為に選出した26例(男性4例、女性22例、平均年齢66.7±17.0歳)を対象とした。対象者の受診動機は、便秘14例、便失禁18例、その他3例(重複あり)であった。方法は、対象者をシムス体位(左側臥位)とさせ、検査者が外肛門括約筋に電極(幅5mm)が密着するように棒型双極電極を肛門に挿入する。筋電図(日本光電社製 MEB-9400シリーズ)を用いて外肛門括約筋収縮時の積分値(S:squeeze)を安静時の積分値(R:rest)で除した値(S/R)を外肛門括約筋の収縮力とした。次に対象者を腹臥位とし、股関節中間位、膝関節90°屈曲位から両側の踵部を合わせるように股関節外旋筋の収縮を促し、外肛門括約筋のS/Rを求めてシムス体位との収縮力の違いを比較した。統計学的処理にはWilcoxsonの符号順位検定を用いて検討した。【結果】外肛門括約筋の収縮力S/Rは、シムス体位の2.95(1.68~7.67)に対して腹臥位での股関節外旋筋収縮では4.80(2.32~7.70)と有意(p < 0.01)に収縮力は強くなった。しかし、外旋筋の収縮よりもシムス体位での収縮力が強い症例を4例に認めた。3例は外旋筋の収縮を行わせた方がシムス体位よりも持続収縮が可能であり、1例は安静時の活動電位も高まっていたため、収縮力としては低下していた。【考察】内閉鎖筋と肛門挙筋の関係に関しては様々な報告が散見されるが、臨床的には股関節外旋筋の収縮を促すと、肛門は腹側へ引き込まれるように動くのが確認される。内閉鎖筋膜は肛門挙筋に起始を与えており、内閉鎖筋は骨盤底において肛門挙筋と密接な関係にあるとの報告(田巻ら)から、骨盤底筋群に対するBF療法の効果を高める事が期待できると考えられる。【倫理的配慮,説明と同意】【倫理的配慮、説明と同意】当研究は、大腸肛門病センター高野病院倫理委員会の許可(第18-03番)を得て、充分な倫理的な配慮を行い実施した。
著者
岩下 知裕 清田 大喜 小林 道弘 荒川 広宣 槌野 正裕 高野 正太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-149_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】 便秘とは,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態(慢性便秘症診療ガイドライン2017)」と定義されている.また,慢性便秘症患者の6割程度にうつ,不安などの心的異常を認め,心理検査では心理的異常を示すスコアが健康対照者に対して有意に高いことが報告されている.厚生労働省の平成28年度国民基礎調査による便秘の有訴者数は65歳以上の男性で6.50%,女性で8.05%となっており,80歳以上では男女平均にて約10.8%と高齢になるにつれ増加する傾向にあることが分かる.これらの報告より,便秘は身体機能の障害のみならず二次的に心的な障害を受け、QOLが低下する疾患であり,適切な介入が必要であると考えられる.当院では,排便障害患者に対して必要であれば直腸肛門機能訓練を実施している.日々の診療のなかで排便障害を有する患者の中には,体幹や骨盤,股関節機能に問題がある症例がみられることがある.今回,両股関節内旋可動域制限が生じている排便障害(機能性便排出障害)の症例に対して,股関節へのアプローチを行い,骨盤底機能が改善したことで主訴が軽減した症例を経験したため以下に報告する.【症例紹介】 80歳代の男性.既往歴はS状結腸癌術後,狭心症(カテーテル留置),前立腺癌.主訴は便意があるが排便しにくい,いつもウォシュレットを強く当てて排便を行っていた.患者のニードはウォシュレットを使用せずに排便出来るようになりたい.【評価とリーズニング】 入院初期評価時には両股関節内旋可動域5°,徒手筋力検査(MMT)にて両股関節内外旋筋力3,直腸肛門機能検査の直腸肛門内圧検査では最大静止圧(Maximum Resting Pressure:MRP)43mmHg,最大随意収縮圧(Maximum Squeeze Pressure:MSP)242mmHg.便秘の評価であるConstipation Scoring System(CSS)は16点.【介入内容と結果】本症例に対して,最初に排便姿勢の評価を行った.理学療法プログラムは1.両股関節内旋可動域訓練,2.体幹筋筋力増強訓練(腹部引き込み運動),3.腸の蠕動運動促進を目的とした体幹回旋訓練,4.トレッドミル歩行訓練を実施した.また,5.バルーン排出訓練を2回/週の頻度で初回を含め計5回介入した.バルーン排出訓練は伸展性の高いバルーンを肛門より挿入し,50mlの空気を挿気し,偽便に見立てて排出する.その際に肛門の弛緩や息み方を学習出来るように指導したが,肛門の収縮・弛緩の動きが不良であった.理学療法開始2週間後,両股関節内旋可動域は30°,両股関節内外旋筋力は4に改善.MRP:50mmHg,MSP:352mmHgで肛門の収縮が可能, 50mlのバルーン排出可能,CSSは8点と改善し,ウォシュレットを使用せずに排便が可能となった.【結論】 慢性便秘症診療ガイドライン2017によると,便秘の発生リスクとしてはBMIや生活習慣,腸管の長さ,関連疾患の有無(逆流性食道炎,過敏性腸症候群,機能性ディスペプシア,下痢症),加齢などが挙げられるが,本症例では,原因の一つとして骨盤と股関節の可動性低下が考えられた.股関節内旋可動域を拡大したことで,外旋筋の柔軟性が向上し,肛門挙筋の起始部と連結している内閉鎖筋の柔軟性が向上したと考えられる.解剖学的に肛門挙筋は恥骨直腸筋,恥骨尾骨筋,腸骨尾骨筋の3筋から構成され,恥骨直腸筋の一部は外肛門括約筋と連結している.恥骨直腸筋は肛門直腸角を構成し,外肛門括約筋は収縮することにより遠位で肛門を閉鎖・固定する.骨盤底筋群の柔軟性が向上したことにより,排便時の恥骨直腸筋と外肛門括約筋の随意的な弛緩が可能となった.恥骨直腸筋が弛緩することで,肛門直腸角は鈍角し,外肛門括約筋が弛緩することで,排便時に肛門が緩み,機能性便排出障害が改善したと考えられる. 今回,機能性便排出障害を主訴とする症例を経験した.理学療法士として,股関節内旋可動域の図ったことで直腸肛門機能の改善につながったと考えている.今回は1症例の経験を報告したが,今後も継続して機能性便排出障害の症例に対して,股関節や骨盤の運動機能の改善に伴う排便障害の改善効果について検討していきたい.【倫理的配慮,説明と同意】臨床研究指針に則り同意を得,個人が特定されないように配慮した.なお,利益相反に関する開示はない.