- 著者
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岩下 知裕
清田 大喜
小林 道弘
荒川 広宣
槌野 正裕
高野 正太
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.H2-149_1, 2019 (Released:2019-08-20)
【はじめに】 便秘とは,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態(慢性便秘症診療ガイドライン2017)」と定義されている.また,慢性便秘症患者の6割程度にうつ,不安などの心的異常を認め,心理検査では心理的異常を示すスコアが健康対照者に対して有意に高いことが報告されている.厚生労働省の平成28年度国民基礎調査による便秘の有訴者数は65歳以上の男性で6.50%,女性で8.05%となっており,80歳以上では男女平均にて約10.8%と高齢になるにつれ増加する傾向にあることが分かる.これらの報告より,便秘は身体機能の障害のみならず二次的に心的な障害を受け、QOLが低下する疾患であり,適切な介入が必要であると考えられる.当院では,排便障害患者に対して必要であれば直腸肛門機能訓練を実施している.日々の診療のなかで排便障害を有する患者の中には,体幹や骨盤,股関節機能に問題がある症例がみられることがある.今回,両股関節内旋可動域制限が生じている排便障害(機能性便排出障害)の症例に対して,股関節へのアプローチを行い,骨盤底機能が改善したことで主訴が軽減した症例を経験したため以下に報告する.【症例紹介】 80歳代の男性.既往歴はS状結腸癌術後,狭心症(カテーテル留置),前立腺癌.主訴は便意があるが排便しにくい,いつもウォシュレットを強く当てて排便を行っていた.患者のニードはウォシュレットを使用せずに排便出来るようになりたい.【評価とリーズニング】 入院初期評価時には両股関節内旋可動域5°,徒手筋力検査(MMT)にて両股関節内外旋筋力3,直腸肛門機能検査の直腸肛門内圧検査では最大静止圧(Maximum Resting Pressure:MRP)43mmHg,最大随意収縮圧(Maximum Squeeze Pressure:MSP)242mmHg.便秘の評価であるConstipation Scoring System(CSS)は16点.【介入内容と結果】本症例に対して,最初に排便姿勢の評価を行った.理学療法プログラムは1.両股関節内旋可動域訓練,2.体幹筋筋力増強訓練(腹部引き込み運動),3.腸の蠕動運動促進を目的とした体幹回旋訓練,4.トレッドミル歩行訓練を実施した.また,5.バルーン排出訓練を2回/週の頻度で初回を含め計5回介入した.バルーン排出訓練は伸展性の高いバルーンを肛門より挿入し,50mlの空気を挿気し,偽便に見立てて排出する.その際に肛門の弛緩や息み方を学習出来るように指導したが,肛門の収縮・弛緩の動きが不良であった.理学療法開始2週間後,両股関節内旋可動域は30°,両股関節内外旋筋力は4に改善.MRP:50mmHg,MSP:352mmHgで肛門の収縮が可能, 50mlのバルーン排出可能,CSSは8点と改善し,ウォシュレットを使用せずに排便が可能となった.【結論】 慢性便秘症診療ガイドライン2017によると,便秘の発生リスクとしてはBMIや生活習慣,腸管の長さ,関連疾患の有無(逆流性食道炎,過敏性腸症候群,機能性ディスペプシア,下痢症),加齢などが挙げられるが,本症例では,原因の一つとして骨盤と股関節の可動性低下が考えられた.股関節内旋可動域を拡大したことで,外旋筋の柔軟性が向上し,肛門挙筋の起始部と連結している内閉鎖筋の柔軟性が向上したと考えられる.解剖学的に肛門挙筋は恥骨直腸筋,恥骨尾骨筋,腸骨尾骨筋の3筋から構成され,恥骨直腸筋の一部は外肛門括約筋と連結している.恥骨直腸筋は肛門直腸角を構成し,外肛門括約筋は収縮することにより遠位で肛門を閉鎖・固定する.骨盤底筋群の柔軟性が向上したことにより,排便時の恥骨直腸筋と外肛門括約筋の随意的な弛緩が可能となった.恥骨直腸筋が弛緩することで,肛門直腸角は鈍角し,外肛門括約筋が弛緩することで,排便時に肛門が緩み,機能性便排出障害が改善したと考えられる. 今回,機能性便排出障害を主訴とする症例を経験した.理学療法士として,股関節内旋可動域の図ったことで直腸肛門機能の改善につながったと考えている.今回は1症例の経験を報告したが,今後も継続して機能性便排出障害の症例に対して,股関節や骨盤の運動機能の改善に伴う排便障害の改善効果について検討していきたい.【倫理的配慮,説明と同意】臨床研究指針に則り同意を得,個人が特定されないように配慮した.なお,利益相反に関する開示はない.