著者
岩崎 宏之
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

霞ケ浦湖岸に位置する茨城県土浦市は、江戸時代以来度々水害に悩まされてきた。土浦市に水害をもたらせた原因を考察すると、土浦市の中央を貫通して霞ケ浦に流入する桜川が氾濫して堤防を決壊させたことによって引き起こされた洪水と、霞ケ浦の水位の上昇による逆水とによる洪水との二つの原因によることが明かとなる。これを歴史的に検討すると、天明6年(1876)、文化9年(1812)、明治43年(1910)、昭和13年の洪水は前者に、また弘化3年の場合は後者によるものと目されているが、史料をさらに子細に検討すると、原因は複数の因子の相乗作用によることが明らかとなる。すなわち、長雨や利根川の増水によって圧迫された霞ケ浦の水位が上昇して長期にわたる溢水となった状況のときに、台風が襲来すると、その風の方向によって異常な高潮現象が発生し、霞ケ浦への出口を塞がれた桜川は急激に増水して氾濫を引き起こしている。この現象を「津波」と称して恐れていたことが、近世の土浦の町に住んだ人々の日記史料等から窺えるのである。この異常な水面上昇は、茨城県下に記録的な強風をもたらした明治35年(1902)9月28日の台風の際には六尺に達したと記録されている。「津波」を起こす強風は、台風の通過コースによるところが大であるが、水位の上昇と強風との相乗作用は今後も起きる可能性があるわけで、このような観点から歴史的災害にかかわる各種歴史資料の分析が必要となる。本研究は、古文書史料や日記など、土浦市とその周辺地域に残る近世以降の史料の中から気象と洪水に関する情報を抽出し、霞ケ浦の水位の上昇が洪水を引き起こす現象を検討した。また色川三中と弟美年によって記録された「家事誌」(文政9年〜安政6年、26冊が現存)には毎日の天候の変化や台風など異常な気象状況が克明に書き留められており、本研究ではこの記述をもとに当該期間の土浦の毎日の気象状況をデータベースに作成した。さらに三中の次弟御蔭の著述になる「逆水防議」には、霞ケ浦の逆水から町を守る方策が述べられており、本研究では、彼等が体験した天保4年や弘化3年の風水害の記事をはじめとして、その他地域に残る古文書史料に散見する関係記事を収集することができた。これら各種歴史資料に記録された関係記事を統合することによって、近世城下町土浦の洪水災害時の状況を明らかにするだけでなく、今後の防災に資するものである。
著者
岩崎 宏之 仲地 哲夫 並木 美太郎 桶谷 猪久夫 柴山 守 勝村 哲也 星野 聰 石上 英一 高橋 延匡 梅原 郁 石田 晴久
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1994

かつて琉球は、東アジア世界における地域間交流の要、「万国之津梁」として繁栄した。この沖縄の地理的重要性は、今日においても変るところがない。沖縄は今も日本、中国、台湾、朝鮮半島、さらには東南アジアの諸地域を包む環東シナ海世界の要である。沖縄をそのような国際社会のなかに位置付けて地域間交流の具体的様相を歴史的に考察し、東シナ海を取り囲む諸民族、いわゆるアジアニーズの歴史的変貌を明らかにすることを課題として重点領域研究「沖縄の歴史情報研究」は平成6年度より同9年度までの4年間の研究期間をもって遂行された。本研究は、領域研究の成果を取りまとめて研究成果報告書を作成し、領域研究の成果である琉球・沖縄史と環東シナ海地域間交流史に関する各種歴史情報を、学界はもとより広くインターネット等を利用して一般に公開・利用に供することを課題とした。琉球・沖縄史と環東シナ海世界の地域間交流史に関する多種多様な歴史資料をいかにして情報化するか、本領域研究では、(1)各種研究文献の統合的把握のための歴史情報の集積と検索システムの開発、(2)古文献、古文書資料など琉球・沖縄に関する歴史資料が、どこに、どのようなものがあるか、各種歴史資料の所在に関する情報の集積と検索システムの開発に関する研究、(3)本領域研究で調査・収集した琉球・沖縄史と環東シナ海世界の地域間交流史に関する基本的史料の画像情報の検索システムの開発とこれら各種資料をインターネット上で広く公開・利用するためのシステムの開発、(4)琉球王朝期の外交文書集「歴代宝案」や琉球家譜、「明実録」「清実録」「島津家琉球外国関係文書」など、琉球・沖縄史研究にとっての基本的文献の全文テキスト・データベースや環シナ海地域間交流史に関する各種の文献史料の情報化、を進めた。計画研究・公募研究の各研究班によって行なわれたこれらの情報化資料はすべて総括班に集積された。本研究課題は、これらの情報化資料の統合、ならびにその検索システムの開発等に関する各種の研究成果の取りまとめを行ない、またこれら収集・集積した各種歴史情報を筑波大学付属図書館の電子図書館サーバーからインターネットに公開・提供するための整備作業を進めた。平成10年8月には、本領域研究の全体を総括した総括班研究成果報告書「沖縄の歴史情報研究」を刊行した。また、本領域研究で収集されたマイクロフィルム等各種歴史情報は、東京大学史料編纂所、筑波大学附属図書館、大阪市立大学学術情報総合センター、沖縄国際大学南島文化研究所等に寄贈し、ひろく学界の利用に提供することにした。