著者
岩崎 康孝 黒沢 尚
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.275-279, 1990-12-15

第三次救急施設に搬入される自殺未遂症例100例の保険加入状況を調査した。さらに症例の他の属性(性,精神疾患圏,自殺企図手段,家族の有無,配偶者の有無,子供の有無)との関係を調べた。対象となった自殺未遂者症例の生命保険加入率は33%であり,一般人口に比べ低かった。生命保険加入率と患者の属性との関連では,精神疾患圏,自殺企図手段,家族の有無,配属者の有無,子供の有無とは有意な相関を認めた。性との有意な関連は認めなかった。生命保険加入率の低い群は,精神疾患圏では,精神分裂病圏症例,自殺企図手段では服薬による症例,家族の無い症例,子供の無い症例,配偶者の無い症例であった。特に服薬自殺企図症例は性,精神疾患圏,家族・配偶者・子供の有無などの要因によって生命保険加入率が低いとは言えず,他の方法を選択する自殺企図症例とは異なる母集団を形成している可能性を示唆した。
著者
小松 博史 天谷 英理子 清水 芳隆 高田 洋 中原 哲朗 岩崎 康
出版者
The Japanese Society for Pediatric Nephrology
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.43-48, 1996

経カテーテル動脈塞栓術 (TAE) により,保存的治療に成功した仮性動脈瘤をともなった腎裂傷の1小児例を報告した。患児は10歳の女児で,一輪車で転倒し腹部を打撲し,腹痛・嘔吐を主訴に当科へ入院した。腹部CT・腎動脈造影では,右腎前下内側部が断裂し,同部から前下方にかけ一部傍腎腔に及ぶ巨大血腫・尿腫を認め,その断裂腎組織への腎動脈分枝途中に仮性動脈瘤の形成を認めた。また,腎盂・腎杯の損傷も合併していた。仮性動脈瘤部位へのコイル塞栓およびその末梢へのゼラチンスポンジでの塞栓術を施行し,約4カ月後には血腫ないし尿腫の縮小を認めた。尿路系もほぼ完全に修復し,高血圧などの合併症も認めていない。腎は腹部臓器の中では最も外傷を受けやすく,特に小児では筋肉組織・後腹膜による保護が弱いことや,位置が低く胸郭の囲みが十分でないことからとくに注意を要する。その治療に関しては,軽傷例では保存的に,重症例では外科的に治療されるが,腎裂傷では治療の選択は意見が分かれている。TAEは,主な出血源が特定できる,尿路系の保存的修復が期待できる,あるいは仮性動脈瘤の形成を認める場合などに有効な治療法と考えられた。<br> 腎は解剖学的には後腹膜腔内にあり,筋膜や腎周囲脂肪組織に包まれ,下位肋骨,脊椎骨,腰筋群,腹腔内諸臓器に保護され,比較的外傷は受けにくい位置に存在する臓器である。しかし,腎動静脈によって腎茎部で固定されているため減速型の損傷に弱く,また,小児では,(1) 成人に比べ腹部における腎臓の容積が相対的に大きいこと,(2) 腎周囲の脂肪組織,腹壁の筋層や後腹膜が未発達で保護が弱いこと,(3) 腎の位置が比較的低く胸郭の囲みが十分でないこと,(4) 胎生期の分葉構造がしばしば残存しているため,分葉に一致して裂けやすいこと,などから外傷を受けやすく,特に異常腎は外傷を受けやすい<sup>1)~6)</sup>。その治療に関しては,軽傷例では保存的に,腎破裂・腎茎部損傷などの重症例では外科的に治療されることが多いが,腎断裂症では保存的治療か外科的治療かの選択は意見が分かれている<sup>5)~9)12)</sup>。今回,我々は転倒事故による腎裂傷に対して,経カテーテル動脈塞栓術 (Transcatheter arterial embolization,TAE) により,保存的治療に成功した1例を経験したので文献的考察を加え,報告する。