著者
田中 百合子 阿部 美子 大戸 佑二 板橋 尚 村上 信行 作田 亮一 永井 敏郎
出版者
The Japanese Society for Pediatric Nephrology
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.86-91, 2011

West症候群の第一選択治療はACTH療法 (AT) であるが,腎石灰化,腎結石合併の報告もある。本症で併用されることが多いzonisamide (ZNS) は,炭酸脱水素酵素阻害剤様の作用を持ち,腎結石の有害事象がある。<br> AT中,腎石灰化を認めた5例についてZNS投与の有無,AT期間,ACTH総量,AT中の尿中Ca/Cr比,%TRP,尿pH,血清Ca,P,ALP値の推移を後方視的に検討し,腎石灰化を起こさなかった4例と比較した。腎石灰化を認めた全例でZNSを併用していた。AT期間は腎石灰化群で長く量も多い傾向があった。AT中の尿中Ca/Cr比の上昇は,腎石灰化群でより高かった。血清P,%TRPは低下し,血清ALPも低下したが両群で差はなかった。ZNSの併用,長期多量のAT,尿中Ca/Cr比の上昇が腎石灰化の危険因子と思われた。AT中,特にZNS併用時は,腎エコー,尿中Ca/Cr比による経過観察が必要である。
著者
木原 裕貴 大田 敏之 福原 里恵 藤原 信 岩永 甲午郎 中田 久美子 本田 茜 古田 靖彦 大津 一弘 亀井 尚美 花見 亮治
出版者
The Japanese Society for Pediatric Nephrology
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 = Japanese journal of pediatric nephrology (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.71-76, 2007-04-15
参考文献数
20
被引用文献数
3 3

症例は日齢3の男児。血性嘔吐,腹部膨満,腹腔内遊離ガスを主訴とし,著明な高アンモニア血症,高エンドトキシン血症を認めた。持続的血液濾過透析を施行し,アンモニア値は減少傾向となったが,低血圧は改善しなかった。エンドトキシン吸着療法を施行したところ,血圧の上昇とともに,全身状態は改善し,根治術へつなげることができた。開腹所見は胃破裂であった。体外循環に伴う問題はなく,安全に施行することができた。成人領域においては,本治療法は広く行われているが,新生児では普及するにいたっていない。本症例において有効であったエンドトキシン吸着療法について,その機序と今後の適応基準を考察した。
著者
須藤 博明 辻 美代子 卯西 元
出版者
The Japanese Society for Pediatric Nephrology
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.33-37, 2000
被引用文献数
1

腎性低尿酸血症は,腎における尿酸クリアランスが亢進し尿酸の体内プールが減少している病態である<sup>1)</sup>。近年本症患者が,運動後急性腎不全を起こしやすいことが明らかになった<sup>2)</sup>。今回運動後急性腎不全を発症した15歳の男子を経験した。<br> 患者は,3日前運動会の後から腹痛と嘔吐を訴え,昨日から眼瞼浮腫を認め入院した。尿量約2,000ml,体重72.4kg (通常68kg),血圧154/90mmHg。<br> <b>血清生化学所見:</b> 尿素窒素39.9mg/dl,クレアチニン5.3mg/dl,尿酸4.3mg/dl。<br> <b>尿所見:</b> 蛋白 (+/-),潜血 (-),糖 (-),尿沈渣異常なし。<br> 非乏尿性急性腎不全と診断し,輸液,安静と塩分制限で治療したところ,腎機能は順調に改善した。回復時に体重は63.6kgとなり,血清尿酸値は0.6mg/dlと低値となった。5カ月後に施行したPyrazinamideとBenzbromarone抑制試験の結果から分泌前再吸収障害型の遺伝性腎性低尿酸血症と診断した。非乏尿性腎不全では血清尿酸値にも注目し,適切な治療と低尿酸血症者に対 して発症予防の指導が必要である。
著者
小松 博史 天谷 英理子 清水 芳隆 高田 洋 中原 哲朗 岩崎 康
出版者
The Japanese Society for Pediatric Nephrology
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.43-48, 1996

経カテーテル動脈塞栓術 (TAE) により,保存的治療に成功した仮性動脈瘤をともなった腎裂傷の1小児例を報告した。患児は10歳の女児で,一輪車で転倒し腹部を打撲し,腹痛・嘔吐を主訴に当科へ入院した。腹部CT・腎動脈造影では,右腎前下内側部が断裂し,同部から前下方にかけ一部傍腎腔に及ぶ巨大血腫・尿腫を認め,その断裂腎組織への腎動脈分枝途中に仮性動脈瘤の形成を認めた。また,腎盂・腎杯の損傷も合併していた。仮性動脈瘤部位へのコイル塞栓およびその末梢へのゼラチンスポンジでの塞栓術を施行し,約4カ月後には血腫ないし尿腫の縮小を認めた。尿路系もほぼ完全に修復し,高血圧などの合併症も認めていない。腎は腹部臓器の中では最も外傷を受けやすく,特に小児では筋肉組織・後腹膜による保護が弱いことや,位置が低く胸郭の囲みが十分でないことからとくに注意を要する。その治療に関しては,軽傷例では保存的に,重症例では外科的に治療されるが,腎裂傷では治療の選択は意見が分かれている。TAEは,主な出血源が特定できる,尿路系の保存的修復が期待できる,あるいは仮性動脈瘤の形成を認める場合などに有効な治療法と考えられた。<br> 腎は解剖学的には後腹膜腔内にあり,筋膜や腎周囲脂肪組織に包まれ,下位肋骨,脊椎骨,腰筋群,腹腔内諸臓器に保護され,比較的外傷は受けにくい位置に存在する臓器である。しかし,腎動静脈によって腎茎部で固定されているため減速型の損傷に弱く,また,小児では,(1) 成人に比べ腹部における腎臓の容積が相対的に大きいこと,(2) 腎周囲の脂肪組織,腹壁の筋層や後腹膜が未発達で保護が弱いこと,(3) 腎の位置が比較的低く胸郭の囲みが十分でないこと,(4) 胎生期の分葉構造がしばしば残存しているため,分葉に一致して裂けやすいこと,などから外傷を受けやすく,特に異常腎は外傷を受けやすい<sup>1)~6)</sup>。その治療に関しては,軽傷例では保存的に,腎破裂・腎茎部損傷などの重症例では外科的に治療されることが多いが,腎断裂症では保存的治療か外科的治療かの選択は意見が分かれている<sup>5)~9)12)</sup>。今回,我々は転倒事故による腎裂傷に対して,経カテーテル動脈塞栓術 (Transcatheter arterial embolization,TAE) により,保存的治療に成功した1例を経験したので文献的考察を加え,報告する。
著者
山岸 敏身 藤沢 佳子 横須 真由美
出版者
The Japanese Society for Pediatric Nephrology
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.53-54, 2005

5歳の慢性腎不全の男児がCAPDカテーテル留置の手術,およびCAPD導入目的で入院した。両親から入院や手術についての説明がされていた。入院後に,児の心理的準備不足が原因と思われた発熱や精神不安定がみられ,手術が延期となった。そこで,手術,CAPD導入について,手術前に,児の好きなキャラクターが登場する絵本を作成し,それを用いて児に説明を行った。絵本の使用により,今まで未知,恐怖であった手術やCAPD導入のことを,児が具体的にイメージすることができ,心の準備をすることができた。また,両親の不安も軽減できた。
著者
唐澤 環 池住 洋平 鈴木 俊明 内山 聖
出版者
The Japanese Society for Pediatric Nephrology
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 = Japanese journal of pediatric nephrology (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.13-18, 2009-04-15

わが国では小児IgA腎症の治療指針が示され,比較的重症例に対してステロイド薬,免疫抑制薬を含むカクテル療法が行われ良好な成果が得られている。しかし,治療による副作用などマイナス面については十分に検討されていない。今回私たちは,ステロイド治療が成長に与える影響を後方視的に検討した。<br> 対象はステロイド治療を行った小児IgA腎症48例 (治療開始時平均11歳10ヵ月) で,2年間の治療前後で身長,体重および骨年齢を比較した。<br> 身長SDスコアは平均0.229から-0.116 (p<0.05) へと有意に低下した。一方,肥満度は平均-0.38から5.94 (p<0.05) へと有意な増加を認め,骨塩量SDスコアは平均-0.357から-0.853と有意差はないものの低下傾向を認めた。<br> 小児IgA腎症のステロイド治療により成長障害を高頻度に来す可能性があり,今後はこうした副作用を考慮した治療法の質的向上が必要と考えられた。
著者
原 正則 柳原 俊雄 高田 恒郎 山本 格 川崎 克俊 木原 達
出版者
The Japanese Society for Pediatric Nephrology
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.71-77, 1996
被引用文献数
1 2

糸球体上皮細胞 (GEC) は非常に機能分化した細胞であるためにCytokinesisを伴う細胞増殖を起こしにくいとされている。また糸球体硬化につながる管外性病変の形成に重要な役割を演じていると考えられている。これらのことより我々は"尿中に剥離脱落したGECを算定すれば管外性病変や硬化性病変の進行を予測できる"という仮説を設定した。本研究ではこの仮説の妥当性を実験的半月体形成腎炎および小児期IgA腎症で検討した。ラットの腎不全に陥るような100%半月体形成腎炎では多数のGECが尿中に出現していた。経過中の全GEC数を算定すると60万個にもなり,これはラットの糸球体の総GEC数1,000万個の約6%に相当した。小児期IgA腎症患児では種々の程度に尿中にGECが出現していた。このうち2症例で経時的腎生検施行期間中の尿中GEC数を算定した。症例1では1,350万個のGECが脱落し,これは人の糸球体の総GEC数6億の約2%に相当した。さらにこの症例では管外性病変が進行しており,尿中GEC数より病変の進行を予測できた。一方,管外性病変の見られなかった症例2は尿中剥離数も少数であった。以上,小児期IgA腎症例,実験腎炎における尿中に剥離脱落したGECを算定し,管外性病変形成および進行についての我々の仮説の妥当性を検討した結果,経時的に尿中剥離GEC数を算定すれば糸球体硬化を予知できる可能性があるという結論に達した。