著者
岩永 正子 Nader Ghotbi 小川 洋二 乗松 奈々 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.266-270, 2006-09

近年18-Fポジトロン放出放射性同位核種を用いたPET(positoron emission tomography)およびPET/CTが悪性腫瘍などの臨床画像診断分野で急速に普及している。しかし,日本と欧米ではPET(PET/CT)の臨床応用に極めて異なる点がある。欧米ではPETは主として確定診断・ステージング・治療後フォローアップなどの癌診療に適用されているが,日本ではそういった癌診療以外に,無症状の健康人に対する癌検診の適用が20%も占めていることが特徴である。PETガン検診の急速な普及の背景には,PET検診センターと旅行会社がタイアップした「PET検診ツアー」ブーム,「数ミリの極微小のがんが発見でき,これまでの検査より癌の発見率が高い」「被曝線量は2.2mSvと年間に受ける自然被曝線量よりも低く安全」という偏った情報のみがマスメディアで過剰宣伝されていることなどが考えられている。日本では以前から医療用被曝の割合が高いことが知られ,PET/CTによる癌検診の普及により新たな医療被曝の増加が懸念される。PET検査の18-Fから出るγ線のエネルギーは高く(511 KeV)被検者だけでなく介護者・医療スタッフの職業被曝の問題もある。PET(PET/CT)の臨床腫瘍学における検査の妥当性・有効性については欧米から多くの報告があるが,PET(PET/CT)による一般健康人の癌検診(いわゆるマス・スクリーニング)は欧米では行われていないこともあって,その妥当性と放射線被曝について評価した研究は非常に少ない。そこで我々は,既知論文・PETモデルセンター・日本人癌罹患率などのデータをもとに,無症状の一般健康人を対象にしたPET(PET/CT)癌検診の検査の妥当性と放射線被曝線量を評価した。
著者
岩永 正子 朝長 万左男 早田 みどり
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

【背景】骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes, MDS)は高齢者に多く高率に白血病に移行する造血幹細胞異常で近年注目されている。これまで放射線曝露とMDS発生の関連について調査した疫学研究は少なく、原爆被爆者においても明確な結論が得られていない。【目的】原爆被爆者におけるMDSの発生状況を調査し、放射線被爆との関連を明らかにする。【方法】血液内科医が常勤する長崎市内5病院間でMDS疫学調査研究プロジェクトを構築後、2004年までに発症した症例を後方的に集積し、被爆者データベースと照合して被爆者MDSを特定後、2つの疫学解析を行った。【結果】これまでに集積したMDSは647例である。コホート解析:被爆者データベース上1980年1月1日時点で生存していた被爆者87496人を母集団とし、1980年以前のMDS既知診断例を除き、1980-2004年に診断された被爆者MDS162例を特定した(粗発生率:10万人年あたり10.7人)。単変量解析による発生率の相対リスクは、男性が女性の1.7倍、1.5km以内の近距離被爆者が3km以遠被爆者より4.3倍と高く、高率に白血病に移行する病型(RAEB, RAEBt)ほど近距離被爆での発生率が顕著であった。年齢調整集団解析:診断時住所が長崎市であったMDS325例のうち被爆者MDSは165例であった。被爆者母集団数は長崎県公表の地域別被爆者健康手帳所持者数をもとに1980年より5年毎の人数求め、非被爆者母集団総数は長崎県より5年ごとに公表される年齢別人口を被爆者と年齢をマッチさせ、その後被爆者数を減じて求めた。10万人年あたりの粗発生率は被爆者で10.0人、非被爆者で6.49人と計算され、被爆者集団における発生率は非被爆者集団より1.5倍高いという結果が得られた。【考察】今後は被曝線量との関連を明らかにする必要がある。