著者
光武 範吏 山下 俊一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.8, pp.1999-2005, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

甲状腺癌の大半は予後良好な乳頭癌である.しかし,低分化,未分化タイプの予後不良な進行癌が存在し,新たな治療法が模索されている.最近の研究の進歩により,甲状腺癌の病因と考えられる遺伝子異常の種類とその頻度,そして各機能が明らかにされつつある.すなわち,病理組織学的分類による乳頭癌,濾胞癌,未分化癌そして髄様癌に特徴的な遺伝子異常の存在が明らかにされ,各遺伝子異常を標的とした分子標的治療の新知見が積み重ねられ,欧米では具体的な臨床応用が展開されている.また,甲状腺癌幹細胞様細胞の存在も治療戦略上重要な標的となりうる.しかし,本邦では甲状腺癌治療に関する多施設共同調査研究ネットワークの構築が遅れ,分子標的治療の臨床治験やその統計疫学的な有効性の評価体制も未整備である.本稿は,甲状腺癌に代表的な遺伝子異常とその役割を概説し,第三の内科的治療としての分子標的治療の展望とその有効性について紹介する.
著者
高橋 達也 藤盛 啓成 山下 俊一 齋藤 寛
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1993年から1997年まで、マーシャル諸島甲状腺研究(The Marshall Islands Nationwide Thyroid DiseaseStudy)によって、現地で医学的・疫学調査が行われた。マーシャル諸島住民では、甲状腺結節性病変の有病率が高かった。甲状腺結節の最も一般的な形態は、腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter)であった。しかしながら、本研究で発見された腺腫様甲状腺腫の患者の多くは、医学的治療を必要としなかった。幾多の他の研究と同じように、女性では、男性と比較して甲状腺結節の有病率が高かった。また、有病率は、年齢とともに高くなり、50歳代の女性で最も高率(約50%)であった。甲状腺結節例の約半数は、触診で診断できたが、残りの半数は、超音波診断によってのみ診断し得た(触診できなかった)。甲状腺機能低下症や甲状腺亢進症(バセドウ病)の様な甲状腺機能の異常は、マーシャル諸島では、比較的まれで、有病率は他国と比較して同程度、もしくは、低かった。太平洋地域(日本を含む)などに多く見られる橋本病(自己免疫性甲状腺炎)は、マーシャル諸島では、まれであった。甲状腺癌の疑いで43人の患者が、現地のマジェロ病院において、マーシャル諸島甲状腺研究の医療チームによってなされた手術を受けた。この43人中、25人については、病理学的に癌が確認された。外科手術で重篤な合併症は、1人も発生しなかった。マーシャル諸島全体での、一般住民の甲状腺結節や甲状腺癌の頻度は、従来報告されているよりもかなり高かった。しかし、我々は、ハミルトン博士(Dr.Hamilton)の仮説、すなわち、「甲状腺結節の頻度は、ブラボー実験の時に住んでいた場所とビキニ環礁からの距離に反比例する(ビキニから遠くなると、結節は減る)」、を確認できなかった。この点に関して、ブラボー実験で被曝した住民における甲状腺癌の頻度に関する予備的な分析では、概算した甲状腺放射線被曝量と甲状腺癌有病率は正の相関(被曝量が増えると甲状腺癌も増える)が有意に示された。
著者
山下 俊一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.274-279, 2015 (Released:2016-03-04)
参考文献数
8

米国甲状腺学会(ATA)が,小児甲状腺結節・分化がんの取扱いについて,診断の進め方と手術の選択方法,術後管理の詳細について405編におよぶ論文精査と専門家の意見を反映し,欧米の現時点でのコンセンサスを取り纏めた。既報の成人甲状腺がん治療ガイドラインと比較すると,発見された小児甲状腺がんの治療手順が中心であり,原則成人版と大差はない。すなわち,予後良好な小児甲状腺結節・分化がんの術前のリスク推定による治療選択ではなく,術中所見と術後リスクを考慮した術式(全摘中心)の議論と,術後フォローアップ時における血中サイログロブリン(Tg)濃度を,再発癌マーカーとし,全摘後も高リスクと評価される患者への放射性ヨウ素内用療法を推奨した管理ガイドラインとなっている。小児甲状腺がんの前向き調査がなく,自然経過を考慮した議論の余地もあり,現在実施されている福島県の約38.5万人を対象とする甲状腺超音波検査の今後が重要となる。
著者
山下 俊一
出版者
日本熱帯医学会
雑誌
Tropical Medicine and Health (ISSN:13488945)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2SUPPLEMENT, pp.S93-S107, 2014 (Released:2014-09-26)
被引用文献数
5

The Great East Japan Earthquake on March 11, 2011, besides further studying the appropriateness of the initial response and post-countermeasures against the severe Fukushima nuclear accident, has now increased the importance of the epidemiological study in comprehensive health risk management and radiation protection; lessons learnt from the Chernobyl accident should be also implemented. Therefore, since May 2011, Fukushima Prefecture has started the “Fukushima Health Management Survey Project” for the purpose of long-term health care administration and early diagnosis/treatment for the prefectural residents. Basic survey is under investigation on a retrospective estimation of external exposure of the first four months. As one of the four detailed surveys, the thyroid ultrasound examination has clarified the increased detection rate of childhood thyroid cancers as a screening effect in the past three years and so thyroid cancer occurrence by Fukushima nuclear power plant accident, especially due to radioactive iodine will be discussed despite of difficult challenge of accurate estimation of low dose and low-dose rate radiation exposures. Through the on-site valuable experience and a difficult challenge for recovery, we should learn the lessons from this severe and large-scale nuclear accident, especially how to countermeasure against public health emergency at the standpoint of health risk and also social risk management.
著者
山下 俊一 高村 昇 光武 範吏 サエンコ ウラジミール
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

チェルノブイリ原発事故後、放射線ヨウ素内部被ばくによる甲状腺発癌リスク以外に、ニトロソアミン系における発癌動物モデルが証明され、近年の環境汚染問題でヒトにおいてもその可能性が報告されている。そこで、ベラルーシの甲状腺癌症例の地域別分布と放射線ヨウ素被ばく状況、大量有機農薬使用による水質汚染に着目し、その関連性について包括的なデータの検証と共同論文発表を行なった。これに合わせて、福島原発事故後の甲状腺超音波検査の解析結果から、スクリーニング効果以外の甲状腺癌発見増加の原因として、川内村の異なる水源の飲用水中の硝酸・亜硝酸動態を測定し、その因果関係を検討したが、有意な関係性は認められなかった。
著者
山下 俊一 高村 昇 中島 正洋 サエンコ ウラジミール 光武 範吏
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

チェルノブイリ周辺の海外連携研究拠点を中心に、放射線誘発甲状腺がんの分子疫学調査を継続し、共同シンポやワークショップを開催した。チェルノブイリ甲状腺がん関連の英語単行本を共同出版し、各種招聘事業と被ばく医療研修指導を行なった。放射線誘発甲状腺がんの感受性候補遺伝子群のSNPs解析を中心に、分子疫学調査と分子病理解析を行い新知見を報告した。これらの成果を、福島原発事故後の県民健康調査事業における甲状腺検査の結果解釈に応用し、福島とチェルノブイリの甲状腺癌の違いを臨床像や分子遺伝学的見地から明らかにした。
著者
山下 俊一 高村 昇 中島 正洋 光武 範吏 サエンコ ウラジミール 大津留 晶
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

ベラルーシにおける連携研究拠点を基盤としつつ、同時に被ばく集団のコホートをウクライナでも確立、当研究における分子疫学調査は世界でも唯一無二のコホートとなり、その学術的意義は極めて大きい。これにより、散発性甲状腺癌の発症関連遺伝子であるNKX2-1近傍のSNPは、放射線誘発癌との関連は否定的となった。さらに2011年は東日本大震災における福島第一原発事故のため、申請時の計画に加え、震災対応のために、当研究における国際連携ネットワークを活用、チェルノブイリ原発事故で得られたエビデンス、経験を福島での震災対応に活かすことが出来ている。
著者
山下 俊一 難波 裕幸 長瀧 重信
出版者
一般社団法人 日本内分泌学会
雑誌
日本内分泌学会雑誌 (ISSN:00290661)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.1035-1043, 1993-11-20 (Released:2012-09-24)
参考文献数
50

The topic“Thyroid and Radiation”is both an old and a new area to be solved by human beings. The thyroid is an organ that is usually susceptible to exposure to ionizing radiation, both by virtue of its ability to concentrate radioiodine (internal radiation) and by routine medical examination: Chest X-ray, Dental X-ray, X-irradiation of cervical lymphnodes etc. (external radiation). Iodine-131 is widely used for the therapy of Graves' disease and thyroid cancers, of which the disadvantage is radiation-induced hypothyroidism but not complications of thyroid tumor. The thyroid gland is comparatively radioresistant, however, the data obtained from Hiroshima, Nagasaki and Marshall islands indicates a high incidence of external radiation-induced thyroid tumors as well as hypothyroidism. The different biological effects of internal and external radiation remains to be further clarified. Interestingly, recent reports demonstrate the increased number of thyroid cancer in children around Chernobyl in Belarus. In this review, we would like to introduce the effect of radiation on the thyroid gland at the molecular, cellular and tissue levels. Furthermore the clinical usefulness of iodine-131, including the safety-control for radiation exposure will be discussed.
著者
山下 俊一
出版者
The Radiological Nursing Society of japan
雑誌
日本放射線看護学会誌 (ISSN:21876460)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.26-32, 2019-03-31 (Released:2019-04-12)
参考文献数
7

人類史上最悪の原子爆弾が、広島、長崎にそれぞれ投下されてから73年が経過し、生存している原爆被爆者の高齢化とその減少に伴い、当時の貴重な経験や教訓が風化の危機に晒されています。そこで、本年は、本学会が長崎で開催されることから、原爆被災直後の救護活動に携わった代表的な医師の一人である永井隆博士生誕110周年を記念し、永井隆博士の人間性に学ぶと同時に、博士を敬慕し続けナイチンゲール賞を受賞された久松シソノ氏の「凛として看護」を学び直す貴重な機会であると言えます。すなわち、原爆被災からの再起と復興を糧に、長崎の地に学んだ私たちがいかにその経験と教訓を生かし、現代リスク社会の中で新たな役割を果たす使命と責務があることを共に考えたいと思います。その上で、東日本大震災、そして東京電力(株)福島第一原子力発電所事故から7年半を経過しようとしていますが、今なお避難を余儀なくされている方々や、震災関連での多くの障壁のために、生活の困難や不便さを甘受されている被災者に心からお見舞い申し上げます。震災、そして原発事故後の混乱と混迷の中で、放射線影響研究や被ばく医療を専門とする医療人が、いかなる信念と行動規範に基づき、日本の禍機とも言える困難の中で東奔西走し、危機的状況を乗り越えたのかその活動精神の一端を紹介します。本依頼原稿の本文は、日本語ではなく英語で紹介しますが、理由は同じテーマですでに本年6月の原子爆弾後障害研究会で先に書かせていただき、重複を避けると同時に、放射線看護領域でもグローバル化対応に少なからずお役に立てるからだと思うからです。ご理解頂ければ幸甚です。
著者
光武 範吏 山下 俊一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.786-791, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
10

広島・長崎での原爆被爆者やチェルノブイリ原発事故後の疫学調査などより,外部被曝のみならず放射性ヨードによる内部被曝によるものと考えられる晩発性甲状腺癌が誘発される事が確認された.発癌リスクには線量依存性があり,被爆時の年齢と強い逆相関性が認められる.特に低年齢,5~10歳未満では顕著であり,この時期の被曝を避ける事がもっとも重要である.近年の分子生物学の進歩により,放射線誘発癌の分子メカニズムも次第に明らかになりつつある.
著者
岩永 正子 Nader Ghotbi 小川 洋二 乗松 奈々 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.266-270, 2006-09

近年18-Fポジトロン放出放射性同位核種を用いたPET(positoron emission tomography)およびPET/CTが悪性腫瘍などの臨床画像診断分野で急速に普及している。しかし,日本と欧米ではPET(PET/CT)の臨床応用に極めて異なる点がある。欧米ではPETは主として確定診断・ステージング・治療後フォローアップなどの癌診療に適用されているが,日本ではそういった癌診療以外に,無症状の健康人に対する癌検診の適用が20%も占めていることが特徴である。PETガン検診の急速な普及の背景には,PET検診センターと旅行会社がタイアップした「PET検診ツアー」ブーム,「数ミリの極微小のがんが発見でき,これまでの検査より癌の発見率が高い」「被曝線量は2.2mSvと年間に受ける自然被曝線量よりも低く安全」という偏った情報のみがマスメディアで過剰宣伝されていることなどが考えられている。日本では以前から医療用被曝の割合が高いことが知られ,PET/CTによる癌検診の普及により新たな医療被曝の増加が懸念される。PET検査の18-Fから出るγ線のエネルギーは高く(511 KeV)被検者だけでなく介護者・医療スタッフの職業被曝の問題もある。PET(PET/CT)の臨床腫瘍学における検査の妥当性・有効性については欧米から多くの報告があるが,PET(PET/CT)による一般健康人の癌検診(いわゆるマス・スクリーニング)は欧米では行われていないこともあって,その妥当性と放射線被曝について評価した研究は非常に少ない。そこで我々は,既知論文・PETモデルセンター・日本人癌罹患率などのデータをもとに,無症状の一般健康人を対象にしたPET(PET/CT)癌検診の検査の妥当性と放射線被曝線量を評価した。
著者
山下 俊一 鈴木 啓司 光武 範吏 サエンコ ウラジミール 大津留 晶
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

正常ヒト甲状腺初代培養細胞から多分化能幹細胞様細胞を誘導することに成功した。詳細な検討から、甲状腺細胞のリプログラミングや上皮-間葉転換が、発癌時の癌幹細胞の発生に関与している可能性が示唆された。甲状腺癌発症関連遺伝子のひとつと考えられているFOXE1の、癌組織における発現パターンの変化も明らかにした。また、日本人症例でFOXE1、NKX2-1近傍のSNPsが甲状腺癌発症と関連することを明らかにし、これは本邦にとって重要な結果である。さらに、分子標的剤Imatinib が、従来の化学療法・放射線治療時のNF-kappaB活性上昇を抑制することを見出し、予後不良な甲状腺未分化癌の新規治療法となることが期待された。
著者
山下 俊一 大津留 晶 高村 昇 中島 正洋 光武 範吏 難波 裕幸
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

チェルノブイリ原発事故後激増した小児甲状腺がんの成因と長期健康影響を明らかにする研究目的で、すでに確立した海外拠点との学術交流による分子疫学調査を計画的に推進することができた。特にWHOやNCRP、EUなど欧米の放射線安全防護に係わる国際プログラムに積極的に参画し、低線量被ばくのリスク評価・管理について交流実績を挙げた。旧ソ連3ヶ国(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)における放射能汚染地域の住民データ、生体試料の収集から遺伝子抽出活動を継続し、放射線誘発甲状腺がん疾患関連遺伝子群の探索を行い、候補遺伝子のSNPs多型を解析した。その結果、DNA損傷修復酵素、がん抑制遺伝子群のSNPsの交洛関係を見出した。同時にChernobyl Tissue Bankという国際共同研究体制の運営に継続参画し、放射線誘発甲状腺がんの潜伏期や被ばく時年齢、病理組織像などの違いを詳細に検討し、臨床像の特徴についての解明を試みた。その結果、放射線被ばくによる甲状腺癌は非被ばくの散発性甲状腺がんと比較してもその予後や再発率に大差なく、通常の診断治療指針の遵守による生命予後の良さを明らかにすることができた。網羅的遺伝子解析の途中結果では疾患感受性遺伝子SNPs候補を見出している。上記研究成果は国内外の学会で報告すると同時に、WHOなどの低線量被ばく安全ガイドラインへの取組に保健医療行政上からも貢献している。放射線の外部被ばくによる発がんリスクだけではなく、放射性ヨウ素類の選択的甲状腺内部被ばくにより乳幼児・小児期被ばくのリスクが明らかにされ、今後の原発事故対策や放射線安全防護基準策定の基盤データの整備につながり社会的波及意義が大きいと期待される。
著者
齋藤 寛 柴田 義貞 高村 昇 渡辺 孝男 中野 篤浩 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故において、事故時に乳幼児であった世代から甲状腺がんが多発したことはよく知られているが、この詳細なメカニズムについてはまだ明らかになっていない。一方で、事故直後に放射能の除染を目的として鉛をはじめとする重金属類が空中から散布されたことが明らかになっており、すでに鉛の汚染状況についての地図も作成されている。しかしながら、これによる住民の健康影響については、これまで全く調査が行われていない。近年、in vitroにおいて、カドミウムやニッケルといった金属に曝露したcell lineにおける遺伝子不安定性が報告されており、放射線被ばくと同様、金属曝露も遺伝子不安定性の原因となることが示唆されてきている。そのため我々は、主にウクライナ放射線医学研究所との共同研究で、チェルノブイリ原発事故のもう一つの側面として、同地区における金属汚染の実態を明らかにし、さらにこれによる染色体レベルでの変異解明を目的としている。本年度は、昨年度までの解析結果に加えて毛髪を用いた微量金属の再評価を行ったが、毛髪と金属汚染レベルでは相関関係はみられなかった。その一方で血液中の微量元素については有意に上昇しているものがみられ、今後さらなる評価が必要であると考えられた。7月にはこれまでの研究成果の総括を行うために、研究代表者、分担者に加えてウクライナの海外共同研究者、さらに国内や中国、ベラルーシ共和国などからも専門家を招聘しての国際会議を開催し、グローバルな視点からの金属汚染の現状についての報告と今後の取り組みについて協議した。
著者
山下 俊一 高村 昇 中島 正洋 サエンコ ウラジミール 光武 範吏 鈴木 啓司
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

チェルノブイリ周辺の海外連携研究拠点並びに欧米共同研究機関と共に放射線誘発甲状腺がんの分子疫学調査を以下の項目で推進した。特に、国際社会における専門家交流と学術研究成果の新知見などの意見交換ならびに今後の調査研究推進について国際交流実績を挙げた。① 7月3~5日:ジューネーブにて開催されたThe 15th meeting of WHO REMPANに参加し、チェルノブイリと福島の教訓と今後の研究に向けた協議を行った。8月28~29日:カザフスタンでの第12回国際会議“Ecology, Radiation and Health”、11月22~23日:台湾での第32回中日工程技術検討会、平成30年2月3~4日:長崎での第2回3大学共同利用・共同研究ネットワーク国際シンポジウム、3月2日:ベラルーシにて開催された国際甲状腺がんフォーラム、3月5日:ロシアのメチニコフ国立北西医科大学での世界展開力強化事業に関する調印記念シンポジウム等に参加し、放射線と甲状腺に関する研究成果を発表した。② 共同研究者として平成29年5月~平成29年10月までベラルーシ卒後医学教育アカデミーよりPankratov Oleg先生を客員教授として招聘し、小児甲状腺がん全摘手術後の放射性ヨウ素内用療法の副作用研究を行い、平成29年11月~平成30年3月までロシア・サンクトペテルブルクより北西医科大学のVolkova Elena先生を客員教授として招聘し、内分泌疾患の臨床疫学研究と、日露両国における診断治療法の違いについての比較研究を行なった。チェルノブイリ周辺諸国より6名の研修生を7月13日~8月16日まで受け入れた。サンプリング収集と解析については、チェルノブイリ現地における大規模コホート調査研究を推進し、生体試料収集保存管理のバイオバンク構築維持を引き続き継続している。
著者
柴田 義貞 山下 俊一 前田 茂人 本田 純久
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

低線量率放射線への長期被曝が人体に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、チェルノブイリ周辺地域住民における乳がん、甲状腺がん発生の実態について疫学調査を行った。1.乳がん乳がんの危険因子については、チェルノブイリ原発所在地のプリピャチ市を含む、チェルノブイリ30-km圏内からキエフ市に避難してきた、事故当時15-45歳の女性1997人(I群)と、事故以前からキエフ市に在住していた同年齢の女性1931人(II群)に対して、質問紙を用いて、月経・出産に関する因子、喫煙および飲酒状況、有病状況等についてウクライナ放射線医学究所と共同で調査し(I群は2003年、II群は2004年)、以下の結果を得た。I群はII群に比して、既婚の割合は小さく、離婚および死別の割合ならびに出産回数が有意に多く、閉経年齢も有意に高かった。乳がんの発生率に関しては、1982年から2001年までの20年間を4期間に分けて、ベラルーシ共和国における乳がんの年齢階級別発生率について、州別の期間間の比較および期間別の州間の比較を行った。乳がんの発生率は4期間を通じてMinsk市がほぼ全年齢階級でもっとも高く、その他の州の間には大差はなかった。また、それぞれの州では、ほぼ全年齢階級で乳がん発生率が期間を追って増加する傾向が認められた。現時点では、乳がん発生率に関して、放射線被曝の影響は認められなかった。2.甲状腺がん特定被曝集団の長期追跡調査を行い、国際甲状腺組織登録バンクの管理運営に参画し、収集した標本を基に各種免疫組織化学的解析および甲状腺がん関連遺伝子の解析を行い、次のような成果を得た。(1)ミトコンドリア遺伝子(mtDNA)の部分欠失や巨大欠損の詳細なプロファイル解析を行い、放射線被曝線量との相関関係を示唆するデータを得た。(2)新しいret/PTC遺伝子異常の再配列を発見した。(3)小児甲状腺がん組織を用いて分子生物学的解析を行い、BRAF異常に対する放射線の影響が否定的であることを示した。