著者
岩永 正子 朝長 万左男 早田 みどり
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

【背景】骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes, MDS)は高齢者に多く高率に白血病に移行する造血幹細胞異常で近年注目されている。これまで放射線曝露とMDS発生の関連について調査した疫学研究は少なく、原爆被爆者においても明確な結論が得られていない。【目的】原爆被爆者におけるMDSの発生状況を調査し、放射線被爆との関連を明らかにする。【方法】血液内科医が常勤する長崎市内5病院間でMDS疫学調査研究プロジェクトを構築後、2004年までに発症した症例を後方的に集積し、被爆者データベースと照合して被爆者MDSを特定後、2つの疫学解析を行った。【結果】これまでに集積したMDSは647例である。コホート解析:被爆者データベース上1980年1月1日時点で生存していた被爆者87496人を母集団とし、1980年以前のMDS既知診断例を除き、1980-2004年に診断された被爆者MDS162例を特定した(粗発生率:10万人年あたり10.7人)。単変量解析による発生率の相対リスクは、男性が女性の1.7倍、1.5km以内の近距離被爆者が3km以遠被爆者より4.3倍と高く、高率に白血病に移行する病型(RAEB, RAEBt)ほど近距離被爆での発生率が顕著であった。年齢調整集団解析:診断時住所が長崎市であったMDS325例のうち被爆者MDSは165例であった。被爆者母集団数は長崎県公表の地域別被爆者健康手帳所持者数をもとに1980年より5年毎の人数求め、非被爆者母集団総数は長崎県より5年ごとに公表される年齢別人口を被爆者と年齢をマッチさせ、その後被爆者数を減じて求めた。10万人年あたりの粗発生率は被爆者で10.0人、非被爆者で6.49人と計算され、被爆者集団における発生率は非被爆者集団より1.5倍高いという結果が得られた。【考察】今後は被曝線量との関連を明らかにする必要がある。
著者
森内 幸美 山田 恭暉 朝長 万左男
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.1444-1448, 1992-10-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
20
被引用文献数
6 3

成人T細胞白血病 (ATL) 患者の易感染性を確認するために, 最近10年間に当科に入院したATL患者 (112例) と類縁疾患である非ポジキンリンパ腫 (NHL) 患者 (109例) について, 合併した感染症の検討を行った.感染症を合併した症例は, ATLの80.4%, NHLの46.8%に認められ, 有意差を認めた (p<0.001).Documentedinfectionを合併した症例は, ATLの62.5%, NHLの27.5%に認められ, 有意差を認めた (p<0.001).個々の感染症については, 肺炎 (p<0.05), 膿皮症 (p<0.05), 真菌感染症 (p<0.05), Pneumocystis carinii肺炎 (p<0.05), サイトメガロウイルス感染症 (p<0.05), 単純ヘルペスウイルス感染症 (p<0.01) が有意にATL群に高頻度に認められた.結核症, リステリア症, サルモネラ感染症もATL群にのみ認められた.死因については, 2群間に有意差を認めなかった.
著者
中根 允文 本田 純久 高田 浩一 三根 真理子 朝長 万左男
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

長崎市にて生活している原子爆弾被爆者(原爆被爆者手帳の保有者)はおおよそ5万人いるが、彼らについて科学的方法論に則って詳細な疫学研究は未だ行われてこなかった。われわれは、原爆投下から50年を経過してこの被爆者における精神的な負担の程度を知り、且つ精神障害の有病率を明らかにすることによって、現在彼らが如何なる精神保健支援を必要としているかを探ろうとした。対象は調査期間内に被爆者健康診断を受診してくる被爆者のうち、本研究に参加の同意が表明された者で、彼らに全般健康調査12項目版(GHQ-12)でスクリーニングを施行し、二次調査としてCIDI面接、および三次調査として精神科医による臨床面接が実施された。協力の得られた事例は7,670名(男性3,216名、女性4,454名)である。一次調査の結果として、GHQ-12における高得点者の頻度は9.3%であり、性別・年齢階層別に全く同一の頻度ではないものの有意な差を見るほどではなかった。これを被ばく距離別に見たとき、近距離被爆者(〜2km)が他の被爆距離群の者より高い平均得点を示し、また高得点者も多いことが確認された。次にこの一次調査のスコアをもとに二次調査(参加協力者は225名)・三次調査対象(同212名)が抽出されたが、彼らに見られた精神障害のうち最も頻繁に見られた診断はF4「神経症性、ストレス関連性、および身体表現性の障害」であり、中でも身体表現性障害・他の不安障害の亜型が目立った。次に多かったのはF3「気分(感情)障害」で、特にうつ病圏患者が目立って多かった。今回の多数の協力をもとに、被爆者における精神疾患の有病率を推算してみると、最低の11.59〜19.59%までの幅があった。日本においては、こうしたデータの報告が全くと言っていいほどに見られないので、同値が低率なのか高率なのかを判断できない。われわれは、一般内科外来を受診した患者について全く同じ方法論でもって調査研究を行い、20%を越える有病率であったことを報告している。それに比すと、やや高率であることが窺われる。ただ、今後も詳細な疫学研究を継続することによって、適切な解釈が可能となるであろう。更に、こうした頻度に影響する要因の解明も必要であり、今後は心理社会的背景を綿密に調査していく予定にしている。