著者
高橋(中口) 梓 平岡 毅 遠藤 泰久 岩淵 喜久男
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.47-52, 2014-04-30 (Released:2019-09-03)
参考文献数
25

生活環のほとんどを他の昆虫体内で過ごす内部寄生蜂は,それぞれの宿主に適応するため驚くべき進化を遂げている.本稿で扱うキンウワバトビコバチCopidosoma floridanumは宿主卵,そして孵化した宿主幼虫の中で生き延びるために,進化的にバリエーションが少ないはずの初期発生を大幅に変更し,卵割後,アメーバ様に移動できるステージを獲得した.この移動性の寄生蜂胚は宿主細胞に自己と誤認させ,宿主胚の胚発生に伴う細胞移動に便乗し,その細胞間を通って宿主胚体内に侵入する.孵化した宿主幼虫体内で寄生蜂胚は,宿主細胞の臓器を保護する宿主由来の嚢組織(cyst cell)で周囲を覆わせて宿主免疫を回避するだけでなく,酸素を得るため宿主に気管を形成させていた.本講座では,共焦点レーザー顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて一連の現象を明らかにした経緯と,分子擬態に関与する分子機構の一部について紹介する.
著者
松浦 健二 瀬藤 光利 岩淵 喜久男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

なぜ生物は老いるのか?この問いに答えることは、至近要因的にも進化的・究極要因的にも生物学の最重要課題である。近年の分子生物学的手法の発展により、老化や生理寿命の分子基盤に対する理解は急速に進んできている。しかし、主要な研究は線虫・ショウジョウバエ・マウスといった短命なモデル生物を用いて行われてきた。本研究では、70年以上の寿命をもつと推定されるヤマトシロアリの王に着目し、従来の短命なモデル生物の研究では到達しえない寿命研究の全く新しい領域を開拓するものである。最新の研究により、孵化した幼虫がワーカーとして発育するか、羽アリとして発育するかのカースト決定に、フェロモンだけでなく、ゲノムインプリンティング(精子・卵特異的なエピジェネティック修飾)が影響することが明らかになった。カースト分化に対するインプリンティングの効果を検証するため、まず若い王に対してDNAメチル基転移酵素(DNMT1、 DNMT3)をターゲットとしたRNAiを行い、精子のエピジェネティック修飾を操作し、コロニーを創設させた。現在、子のカースト分化への影響を評価している。王の代謝活性は全体として年齢とともに変化するのか、また、どの代謝経路が駆動しているのかを判別するために水同位体比アナライザー(PICARRO社 L2140-i)を用いた二重標識水法により、代謝フラックス解析を行っている。現在、標識水投与による生存への影響評価を完了し、本試験の実施中である。ヤマトシロアリのワーカーは王と女王に対して特殊な餌(以後、ロイヤルフードと呼ぶ)を給餌している。このロイヤルフードの成分を特定し、その機能を明らかにするため、ワーカーから王と女王への口移し給餌物の直接採取、および解剖によって中腸内容物を回収した。現在、MALDI-IT-TOF 型顕微質量分析装置を用いて成分を分析中である。