著者
岩間 厚志
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

強い転写活性を有する白血病融合蛋白MLL-AF9によって発現が直接活性化されるhuman lincRNAを、ヒト血液細胞株を用いたChIP sequenceとRNA sequence解析によってプロファイリングした。しかし、この細胞系においては主要標的遺伝子座におけるMLL-AF9の十分な結合が得られなかったため、臍帯血CD34+造血幹・前駆細胞をMLL-AF9で形質転換した細胞を用意し、同様の検討を行った。その結果、MLL-AF9の十分な結合が得られ、特異性の高いMLL-AF9の標的遺伝子リストが得られた。すなわち、coding遺伝子174個に加えて、非遺伝子領域に8,000を超えるMLL-AF9の特異的な結合が確認され、この中に多くのlincRNAが含まれるものと考えられた。同時におこなった転写活性化のヒストンマークであるH3K4me3のChIP-sequenceデータと照合することにより、MLL-AF9によって直接転写が活性化されるlincRNAを同定することが可能である。MLL-AF9をはじめとするMLL融合白血病遺伝子によって転写されるlincRNAを絞り込むため、MLL-AF9を持つ急性骨髄性白血病5例と正常核型急性骨髄性白血病5例を用いて、MLL-AF9白血病に特異的なlincRNAをマイクロアレイ (SurePrint G3 Human GE: Agelent社) 解析によってリストアップした。また、ヒトCD34+CD38-造血幹細胞とCD34+CD38+造血前駆細胞のRNA sequenceも終了した。現在、これらのアレイ解析データとRNA sequenceデータを、上記のMLL-AF9結合遺伝子データと照合することにより、MLL-AF9によって直接転写が活性化されるlincRNAを絞り込みつつある。
著者
渋谷 和子 岩間 厚志
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

最近の研究により関節リウマチにおいて、Th1細胞とTh2細胞の不均衡が病態に密接に関与していることが明らかになってきた。Th1細胞とTh2細胞はともに同一のCD4陽性ナイーブT細胞から分化するため、Th1/Th2分化メカニズムの解明とその人為的制御法の検討は、関節リウマチの新しい治療法開発への基礎となる。CD4陽性ナイーブT細胞からTh1もしくはTh2細胞への分化の開始には、CD4陽性ナイーブT細胞が抗原提示細胞から抗原刺激を受けることが必須である。私達は、この時ナイーブT細胞と抗原提示細胞が接着することに着目し、ナイーブT細胞上に発現する接着分子からのシグナルとTh1/Th2分化との関係について検討した。その結果、私達はナイーブT細胞上に発現する接着分子LFA-1からの刺激によってTh1細胞が分化誘導されることを見いだした。これは、IL-12非依存性の新しいTh1分化誘導経路であった。以前に、私達はCD226分子がT細胞上のLFA-1と複合体を形成すること、LFA-1からの刺激でCD226の細胞内チロシンがリン酸化することを報告した。そこで、今回私達は野生型および細胞内チロシンをフェニルアラニンに置換した変異型CD226をレンチウイルスベクターにてナイーブT細胞に遺伝子導入し、LFA-1によるTh1分化誘導を検討した。その結果、変異型CD226を導入したナイーブT細胞では、LFA-1シグナルによるTh1分化誘導が著しく抑制された。このことより、LFA-1によるIL-12非依存性の新しいTh1分化誘導シグナル経路にCD226が重要な役割を担っていることが明らかになった。これらの結果をふまえて今後は、LFA-1/CD226複合体シグナルと生体内Th1/Th2バランス、関節リウマチ病態の関係を、疾患モデルマウスを用いて個体レベルで検討していく方針である。
著者
指田 吾郎 岩間 厚志
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.111-118, 2015 (Released:2015-03-12)
参考文献数
38

近年の研究成果は,造血器腫瘍をジェネティック変異とエピジェネティック変異が複数蓄積した病態として理解する重要性を示している。骨髄異形成症候群(MDS)はクローナルな造血幹細胞による悪性腫瘍であり,造血不全状態を呈して,一部が急性骨髄性白血病(MDS/AML)へと移行する。近年の詳細なゲノムワイドの遺伝子解析によって,TET2, DNMT3A, EZH2, ASXL1などのエピジェネティック制御遺伝子の変異がMDSで次々と同定された。これまでに蓄積されたがんにおけるエピゲノム異常の知見とあわせて,エピジェネティック制御異常を伴うMDS発症の分子基盤が徐々に解明されつつある。