著者
岸 知子 岡田 恵美子 佐藤 敦子 石川 雅子 鵜川 重和 中村 幸志 玉腰 暁子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.210-222, 2018 (Released:2018-05-29)
参考文献数
32

目的 北海道は面積が広く,地域により自然環境,主要産業が多様であることから社会経済状況の影響を受ける生活習慣ならびに生活習慣病による死亡率の地域差が大きい可能性がある。本研究は,北海道の地域間における健康格差縮小に取り組む際の資料を得ることを目的とし,北海道の二次医療圏を単位として,死亡率と栄養摂取状況の地域差の実態と,それらの関連を検討した。方法 本研究は生態学的研究である。死亡に関する情報の把握には,北海道保健統計年報ならびに北海道内の二次医療圏を単位として作成されている地域保健情報年報を用いた。平成17年~21年のデータから北海道全体と,各二次医療圏の標準化死亡比(SMR)の5年平均値を算出した。栄養素摂取量の把握には,平成16年度健康づくり道民調査のデータを用いた。二次医療圏の死亡率と栄養素摂取量の関連は,Spearmanの相関係数を用いて検討した。結果 死亡率は道南,道東の沿岸部で高く,道北地域の内陸部,十勝地域で低い傾向にあった。また,二次医療圏間の栄養素摂取量における最大値と最小値の差に関しては,エネルギーは400 kcal~500 kcal,たんぱく質は20 g~30 g,食塩は4 g~5 g,緑黄色野菜は60 g,淡色野菜は100 gであった。死亡率と栄養素摂取量の関連については,女性でのみ悪性新生物死亡と脂質摂取量,牛乳・乳製品摂取量の間に正の関連,悪性新生物死亡と米の摂取量の間,心疾患死亡と大豆・大豆製品摂取量の間に負の関連が認められた。結論 北海道の二次医療圏間における死亡率および栄養素摂取量の地域差の実態が明らかになった。また,女性でのみ死亡率と栄養摂取量との間に関連が認められた。今後は,地域の健康指標,生活習慣に関する情報に加え,社会経済環境に関する情報も含めて地域差の要因について検討することが課題であると考える。
著者
清川 博史 清木 元治 伊東 文生 安田 宏 及川 律子 石井 俊哉 山本 博幸 月川 賢 大坪 毅人 峰岸 知子 越川 直彦
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.139-150, 2015

<b>【背景】</b>大腸癌の診断および術後管理において腫瘍マーカーの臨床的意義は大きい。ラミニン<i>γ</i>2単鎖(Ln-<i>γ</i>2)の発現は様々な腫瘍浸潤先進部において著しく亢進することが報告されており,これはLn-<i>γ</i>2が浸潤性の腫瘍マーカーとして有用である可能性を強く示唆している。我々は,Ln-<i>γ</i>2を選択的に認識するモノクローナル抗体を用いてLn-<i>γ</i>2の定量ELISA法を開発した。<br/><b>【方法】</b>定量ELISA法により78症例(健常者51例,良性疾患8例,大腸癌19例)における血清中のLn-<i>γ</i>2の定量を行った。同時に,化学発光免疫測定法 (chemiluminescent immunoassay: CLIA) を用いてCarcinoembryonic antigen (CEA) とCarbohydrate antigen 19-9 (CA19-9) を測定し診断能について比較検討を行った。<br/><b>【結果】</b>Ln-<i>γ</i>2の中央値は,健常者241.9 pg/mL,良性疾患138.8 pg/mLであり,一方大腸癌においては323.0 pg/mLと非癌症例より有意に高値であった(<i>p</i> = 0.0134)。大腸癌症例と非癌症例とを区別するLn-<i>γ</i>2のカットオフ値を315.8 pg/mLとすると大腸癌症例の57.9%に陽性であった。Ln-<i>γ</i>2とCEA併用における大腸癌陽性率は78.9%であり,CEAとCA19-9併用での陽性率57.9%よりも高率であった。大腸癌の各病期における陽性率では,いずれのマーカーにおいても進行期は高率であったが,CEA,CA19-9におけるStage I/IIの陽性率は低率であった。一方,Ln-<i>γ</i>2はStage I/IIにおいて陽性率50.0%とより高率であった。<br/><b>【結語】</b>血清Ln-<i>γ</i>2は大腸癌診断において既存の腫瘍マーカーを補助可能なバイオマーカーとなる可能性がある。