著者
峰尾 恵人
出版者
中日本入会林野研究会
雑誌
入会林野研究 (ISSN:2186036X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.83-99, 2020 (Released:2020-05-01)

寺社は、古代から森林を所有し、宗教的な原理を反映した森林の管理経営を行う主体である。本稿では、入会林野研究との比較によって、寺社林に関する先行研究の動向の特徴を明らかにした上で、寺社有林に関する唯一の網羅的な資料である農林省山林局編『社寺林の現況』に検討を加え、「寺社と森林」研究の今後の課題について論じた。寺社林に関する先行研究は、入会林野研究と比べて、①量的に少ない、②論点とアプローチが多様で自然科学分野からの研究の比率が高い、③寺社側の視点が弱い、④著名な寺社や地域の事例に情報が偏在している、といった特徴がある。農林省山林局編『社寺林の現況』は、調査・出版の時期と背景が不明であり、本文中の記載および農林省の資料から、1939年の森林法改正と同時期の1939年頃に作成され、1940年に出版されたものと推測した。「寺社と森林」研究の課題として、公共性を帯びた財をめぐる権利配分や制度設計、伝統木造建造物用材生産の担い手としての寺社の可能性の2点を挙げた。入会林野と寺社有林は、近代化の過程の中で前近代的なものと捉えられてきたが、新たな角度から再評価される時期に来ている。
著者
峰尾 恵人
出版者
中日本入会林野研究会
雑誌
入会林野研究 (ISSN:2186036X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.83-94, 2019 (Released:2019-05-24)

森林と人間や社会との関係性の希薄化が進む中、本稿では、企業と地元組織が協定を結び、連携して森林整備を行う、「企業の森づくり」活動および都道府県による支援制度に着目して、その実態解明と今後の研究および政策に向けた示唆の導出を目的とした。和歌山県、京都府及び滋賀県を調査地とする聞き取りおよび参与観察の結果を受けて、1府2県における支援制度の共通点と差異、「企業の森づくり」活動特有の意義、活動の変化・展開に必要な要因を検討し、今後の研究課題としてこれまで森林政策論の中で十分に論じられてこなかった一般企業の森林政策における役割の検討、政策の望ましい一つの方向として、参加のハードルを下げ、CO2吸収量の認定などの客観的指標も整備した上で、行政や中間組織が個別の活動の積極的展開を推進する体制づくりを挙げた。
著者
峰尾 恵人 松下 幸司
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

「木の文化」は近年注目を集めているが、従来林学分野で考慮されることは少なかった。人工林長伐期化や広葉樹林化が課題となっている現在、「木の文化」を一つの視角として導入してはどうかというのが本報告の提案である。わが国の伝統的な「木の文化」から森林利用の歴史を見ると、多様な樹種・寸法の植物性資材が持続的に活用されてきたことが浮かび上がる。<br> 「木の文化」は持続可能であるという言説がしばしばあるがこれは誤りで、枯渇性資源的性質の強い長大材は近世に枯渇の危機を迎え、近代には外材に供給を依存するようになり、近年では違法伐採材まで利用されるようになっている。その他の再生可能資源も、社会経済の近代化の過程で林野利用の様式や需要のあり方が変化し、近年では生産の最終局面を迎えている資材があることも報告されている。これらの原因には、選好の変化や不完全情報などの市場の失敗が挙げられ、公的な介入の必要がある。<br> かつて林学は高齢林・広葉樹林を林相「改良」の対象とみなしてきたが、ポスト産業社会における森林科学にとって、「木の文化」という概念は生態系・経済・文化や川上・川下の関係を再構築する鍵となりうるのではないか。