- 著者
-
峰尾 恵人
松下 幸司
- 出版者
- 日本森林学会
- 雑誌
- 日本森林学会大会発表データベース
- 巻号頁・発行日
- vol.126, 2015
「木の文化」は近年注目を集めているが、従来林学分野で考慮されることは少なかった。人工林長伐期化や広葉樹林化が課題となっている現在、「木の文化」を一つの視角として導入してはどうかというのが本報告の提案である。わが国の伝統的な「木の文化」から森林利用の歴史を見ると、多様な樹種・寸法の植物性資材が持続的に活用されてきたことが浮かび上がる。<br> 「木の文化」は持続可能であるという言説がしばしばあるがこれは誤りで、枯渇性資源的性質の強い長大材は近世に枯渇の危機を迎え、近代には外材に供給を依存するようになり、近年では違法伐採材まで利用されるようになっている。その他の再生可能資源も、社会経済の近代化の過程で林野利用の様式や需要のあり方が変化し、近年では生産の最終局面を迎えている資材があることも報告されている。これらの原因には、選好の変化や不完全情報などの市場の失敗が挙げられ、公的な介入の必要がある。<br> かつて林学は高齢林・広葉樹林を林相「改良」の対象とみなしてきたが、ポスト産業社会における森林科学にとって、「木の文化」という概念は生態系・経済・文化や川上・川下の関係を再構築する鍵となりうるのではないか。