著者
島田 厚良 石井 さなえ
出版者
中部大学現代教育学部
雑誌
現代教育学部紀要 = Journal of College of Contemporary Education (ISSN:18833802)
巻号頁・発行日
no.7, pp.21-25, 2015-03

妊娠後期における感染に誘発された母体の免疫系の活性化は、胎内環境を悪化させ、発達中の胎児脳に脆弱性をもたらし、知的障害や発達障害を引き起こす。このことは、免疫系と脳が相互に影響し合うことを示唆するが、その組織・細胞レベルでの機構は明らかではない。本研究ではまず、免疫系細胞と脳の接点はどこかを調べるため、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子導入マウスの骨髄を通常のC 57 BL/6マウスに骨髄移植し、移植後2週間、1、4、8ヵ月後にマウスを固定し、頭蓋内における骨髄由来細胞の分布を調べた。その結果、骨髄由来細胞は移植後早期に髄膜、脈絡叢間質、血管周囲腔に、移植4-8ヵ月後には、脈絡叢が付着する脳実質領域に分布し、これらの領域が免疫系細胞と脳との接点であることを示した。免疫系と脳の相互作用という新しい観点から、発達障害の病態形成の理解を深め、将来的には予防法や治療薬の開発につなげたい。Maternal immune activation during pregnancy has detrimental effects on the brain development of their offspring, resulting in neurodevelopmental disorders. However, the mechanism of the brain-immune interaction remains to be elucidated. To determine the sites of brain-immune interaction, we made bone marrow chimeric mice in which the recipients'immune system was reconstituted by marrow cells derived from GFP-transgenic mice and examined the distribution of donor-derived marrow cells in the brain 2 weeks and 1, 4 and 8 months after bone marrow transplantation (BMT). Marrow-derived cells were distributed in the meninges, choroid plexus stroma, perivascular spaces and circumventricular organs early after BMT and in the discrete brain regions adjacent to the attachments of choroid plexus during 4-8 months after BMT, indicating that these sites are the brain-immune interface. The findings of the present study would enhance the understanding of the mechanisms underlying neurodevelopmental disorders from the viewpoint of the brain-immune interaction.
著者
岸川 正大 島田 厚良
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

心身障害児(者)は「早く年をとる」とも言われ、剖検例でも脳を含めて老化の徴候とも言うべき年齢不相応な形態学的肇化がしばしば見られる。そこで、愛知県コロニー脳及び組織保存機構に登録されている症例を含めて、10歳代18例、20歳代8例を含む15歳以上の36症例について、海馬、海馬傍回、青斑核でのAT8陽性の過剰リン酸化タウ蛋白(NFT、Neuropile threads)、抗ユビキチン抗体陽性像、ストレス蛋白(αBクリスタリン、Hsp27、Hsp70)の発現頻度などを検討した。その結果、AT8陽性像は10歳代でも16.7%、30歳代は50%に、40歳を過ぎるとほとんどの症例に過剰リン酸化タウの蓄積が見られた。福山型筋ジストロフィー症など、NFTが早期から出現することが知られている疾患を除外しても、10歳代で6.3%、20歳代で43%にAT8陽性像を認めた。また、抗ユビキチン抗体陽性像はAT8の所見に類似した像を呈する一方で、神経原線維変化とは別に雪の結晶類似の構造物(仮称:UPSS=Ubiquitin Positive Snow-like Structure)が広範に散見された。その本態はMicrogliaなのかSwollen oligodendrocyteなのかの鑑別が今後の検討課題として残った。一方、これら異常タウやUPSSなどが出現している症例でも老人斑は全く認められず、一般に見る高齢老人の脳とは少々異なっていた。また、αBクリスタリンは陽性像が見られるものの、Hsp27、Hsp70ではほとんど陰性で、症例の積み重ねと生化学的検索が必要である。
著者
孫田 信一 小野 教夫 武藤 宣博 島田 厚良
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

相互転座などの均衡型染色体構造異常を有し、そのホモ接合体やヘテロ接合体で各種疾患、発生異常、器官形成異常などを呈する系統を多数開発し、各種異常にそれぞれ関与する切断点遺伝子を探索するシステムの確立を目指した。まず、4.5シーベルトのX線照射雄との交配で得られる子獣では29.8%に染色体構造異常が見られ、そのホモ(またはヘテロ)接合体の中からこれまで種々の症状(発育障害、四肢形成異常、腎異形成、痙撃発作、行動異常、高発癌、早発老化、学習記憶障害など)を呈する12系統を分離した。構造異常を有する他の系統の約20.8%はホモ接合体で致死となり、2〜8細胞期を含む初期段階での発生停止、着床後早期の発生異常、器官形成異常などを示した。一方、マウス(およびチャイニーズハムスター)のDNAを用いて、定法によりゲノムライブラリーを作製し、マウスおよびハムスターゲノム由来の500以上のBAC及びコスミドクローンをFISH法で染色体上にマッピングした。さらに、相互転座ホモ接合体で発育障害と学習記憶障害を示す2系統、及び染色体13と16の相互転座ホモ接合体で特有の発生異常、器官形成異常を示す1系統のマウスを用いて、切断点遺伝子の解析を試みた。後者の切断点におけるBAC contigのFISH解析の結果、特定クローンが染色体16の切断点を挟むことが判明したので、遺伝子の分離と解析を図った。ホモ接合体で発育障害と学習記憶障害を示す2系統の遺伝子はかなり狭い範囲に特定したが、遺伝子決定には至っていない。マウス遺伝子から相同性を利用して同一機能のヒト遺伝子を特定することが容易になっている。染色体構造異常と各種症状や発生異常等を伴う動物系統について胚バンクとして系統的に保存していくならば、未知の遺伝子を含む多数の遺伝子の構造・機能の解析の有用な研究材料になるものと考える。