著者
川上 具美
出版者
西南学院大学学術研究所
雑誌
西南学院大学人間科学論集 (ISSN:18803830)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.121-134, 2019-02

日本におけるテスト政策もアメリカ同様に学校現場の教員に影響を持ち始めている。2018 年8 月2 日付けの日本経済新聞には次のような記事が掲載された。大阪市の吉村洋文市長は、2019 年度から学力テストの結果しだいで、校長や教員のボーナスに当たる「勤勉手当」を増減させたり、校長の裁量で使える予算を変動させたりなど、教員評価として活用すること検討すると明言したというのである。テストの結果を、教員評価や学校予算の裁定に利用することによって、米国の公立学校は民営化に追い込まれていることを考えると、今後日本の教育が向かう先が米国のようになるのではないかと危惧されるところである。学力テストは、「学力・学習状況調査」であったはずだが、テスト結果が公表されると現場はただの調査では済まされなくなっている。日本の教育におけるテスト重視の傾向は「脱ゆとり」から急速に高まり、学校教育では学習内容、授業時間数や日数も急激に増加の一途をたどっている。しかも、そうした傾向は日本が「脱ゆとり」路線を歩むようになった2003年のOECD のPISA(生徒の学習到達度調査)において、一位をとったフィンランドとは真逆の方向に向かっている。西南学院大学に客員教授として来日されたノルウェーのオークレー教授(Bjorn Magne Aakre)によると、北欧のフィンランドとも同様の歩調をとっているノルウェーでは、1997 年に徹底した学校改革が行われ、教育はテスト重視から学び重視の姿勢へと転換したという。伝統的な一斉授業のスタイルを取る教師も少なからずおり、そうした人々からの批判も寄せられたが、法律によって問題解決学習といったプロジェクト型の授業スタイルを取ることが義務とされ、徐々に浸透していったという。1990 年代末といえば、奇しくも日本でも総合的な学習の時間などが導入される時期でもあった。それから、数十年が経つが、フィンランドを初め北欧からベネルクス三国にいたる国々において、一斉授業のスタイルはほとんど取られていない。しかし、それとは反対にこの数十年で、日本において経験主義的な学び、問題解決学習などは学習内容の増加とともに鳴りを潜め、さらに追い討ちをかけるように、先の学力テスト実施によって小学校でもテスト対策の授業が行われるなど一斉授業のスタイルが低年齢化し、またその時間数も増加しつつある。次々と改訂が進む新しい学習指導要領では、学習内容が増加の一方で思考力の育成などの一見テスト政策とは反対のような指針が示され、新しい大学入学のための共通テストでは、それをテストで測ろうとしている。このような日本の教育の向かう先はどんな未来が待っているのだろうか。ここでは、暗澹たる惨状を晒しているアメリカの教育事情について、そのテスト政策と学校の民営化を浮き彫りにすることによって、日本の教育への警鐘としたい。
著者
北垣 徹 山根 明弘 中馬 充子 川上 具美 田中 友佳子 K.J Schaffner
出版者
西南学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2017年5月に西南学院大学にて研究会議を開催し、研究代表者である北垣徹が司会を務め、先ず自身が、「労働する生-優生学の政治的無意識」と題する報告を行い、その後、研究分担者、連携研究者、及び、研究協力者が各自の研究計画を発表した。7月には西南学院大学生命倫理研究会分科会「生命倫理の学際的研究」を西南学院大学にて開催し、『日本が優生社会になるまで』(勁草書房, 2015)の著者である横山尊を招聘し、「拙著『日本社会が優生社会になるまで』が生命倫理の学際的研究に為しうることー相模原障害者殺傷事件から1年を踏まえて」と題する講演を行って頂き、研究分担者である中馬充子が討論者として、書評を含みつつ、この講演に対する批評を行った。その後、横山氏と参加者達との白熱した討議が展開された。当分科会には自立生活センター久留米代表の古川克介氏も招待し、障害者の観点からこの講演に対する感想を述べて頂いた。2018年3月には、西南学院大学大学院にて公開シンポジウム「優生保護法下で何が行われたのか」を開催した。立命館大学生存学研究センターの利光惠子氏、福岡合同法律事務所弁護士の久保井摂氏をシンポジストとして招聘し、前者は「戦後日本における障害者への強制的な不妊手術をめぐって」と題する報告を、後者は「優生保護裁判と国家賠償への展望」を題する報告を行った。また、前述の横山尊氏と分科会員である、日本薬科大学元教授、波多江忠彦氏にコメンテーターを務めて頂いた。加えて、前述の中馬充子もシンポジストとして登壇し、「優生思想を支えた戦後の保健科教育」と題する報告を行った。当シンポジウムにはマス・メディアの記者も招待し、熊本日日新聞の4月8日付けの記事でこのシンポの内容が紹介された。