著者
川戸 佳
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.076-079, 2011 (Released:2011-03-30)
参考文献数
8

Functions of the hippocampus is dependent on brain-derived-neurosteroids. Because estrogen is synthesized locally in the hippocampus, as well as supplied from the ovary, its functions are attracting much attention. Hippocampal sex-steroids modulate memory-related synaptic plasticity not only slowly but also rapidly. Slow actions of estradiol (E2) occur via nuclear receptors (ERα), while rapid E2 actions occur via synapse-localized ERα. Elevation or decrease of the E2 concentration changes rapidly the density and morphology of spines. Kinase networks are involved downstream of ERα. The long-term depression is modulated rapidly by changes of E2 level. The E2 level is much higher than that in blood circulation. Hippocampus-derived sex-steroids play a major role in modulation of synaptic plasticity.
著者
川戸 佳 木本 哲也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

(合成研究1)脳海馬における性ステロイドの合成経路の解明 成熟ラット海馬で「テストステロン□DHT(男性ホルモン)□3a,5a-androstanediol」の代謝系を発見した。質量分析法で高精度測定したところ、エストラジオール(E2;女性ホルモン)の海馬内濃度は約5nMで血中より有意に高かった。精巣を除去しても海馬内DHEA濃度は維持されており、海馬内でのこれらのステロイドの合成が確証された。(合成研究2)脳海馬におけるストレスステロイドの合成経路の解明「プロゲステロン□デオキシコルチコステロン(DOC)□コルチコステロン(CORT)」の代謝経路を確証した。mRNA解析の結果P450c21やP4502D4、P45011b1、P45011b2が確認された。海馬内CORT濃度は約500nMで血中の約半分だった。副腎を除去しても海馬内CORT濃度は血中より高いままで、海馬内CORT合成が確証された。(作用研究1)海馬のシナプス可塑性に対する女性・男性ホルモンの急性神経作用の解明 多電極同時電気生理解析でDHTがCA3でLTDを強化することを明らかにした←□u梠テ甥ぢ、a型古典的エストロゲン受容体(ERa)アゴニストPPTは30分でLTDを増強したが、b型受容体(ERb)アゴニストDPNでは増強は見られなかった。ERaがシナプス部位に局在することも免疫電顕観察で発見した。(作用研究2)海馬のスパイン構造に対する脳ステロイドの急性作用の解明 単一神経細胞に蛍光色素を注入しスパインを可視化して形態解析を行った。E2は2時間でCA1でthinスパインを増加させ、全スパイン密度も1.5倍に増大させた。CA3ではスパイン密度が70%程度に減少した。これらはERa又はERbの阻害で抑制され、MAPK経路により媒介されていた。DHTも2時間でCA1 thinスパイン、全スパイン密度を増大させた。(作用研究3及び4)CORT経路で合成される脳ステロイドの急性神経作用CORTはGRを介してLTPを急性的に抑制した。CORTで抑制されたLTPはE2の同時投与で回復した。PPT及びDPN投与実験等よりE2の作用はERa、ERb両方により媒介され、ERK/MARK経路を介することが明らかとなった。以上より、成獣ラットの海馬で女性・男性ホルモンやストレスステロイドが合成され、急性的に神経シナプス可塑性や神経シナプス構造を変動させることが示された。
著者
川戸 佳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

成獣ラットの脳の海馬において、女性ホルモンや男性ホルモンのみならず、コルチコステロン(ストレスステロイド)も独自に合成されることを発見した。質量分析で測定した女性・男性ホルモンは、海馬の方が血中の濃度よりかなり高かったので、海馬の女性ホルモンと男性ホルモンの方が、神経シナプスに及ぼす影響は大きいことが推測できた。海馬コルチコステロンは副腎の影響を排除するため副腎摘出ラットで測定した。海馬の神経シナプスをこれら性ステロイドやコルチコステロンがモジュレ-ションする様子を神経スパイン可視化解析と電気生理で解析した。1-10 nMの女性ホルモンや男性ホルモンは、双方ともに2時間で急性的にスパインを増加させることを見出した。この現象がシナプスに存在する受容体ERαやARを介して、MAPK, PKA, PKCなどの蛋白キナーゼ系を駆動して起こること、を発見した。コルチコステロンは1時間程度でシナプスの長期増強を抑制するが、1nMの女性ホルモンがこの抑制を無くして正常状態に戻す力を持つことを発見した。シナプスに存在する受容体GRやERαを介してMAPKなどが働いていることがわかった。以上の結果を総合すると、脳海馬において女性ホルモン・男性ホルモンやストレスステロイドが合成され、これらがERαやGRなどの受容体を介して蛋白キナーゼ系を駆動し急性的に神経シナプス可塑性を制御することがわかった。