著者
近藤 公夫 王 敏 日色 真帆 三上 晴久 廣川 美子 川村 政美
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

日本の文化史に1000年前の金色堂に見られる黄金よりも、500年前の銀閣に銀をもって蔽った漆のたたずまいを好ましいかに思う今日の心象、その心象が形成された風景の源流を三内丸山以来の伝統に考えるのは是か非か。あえて日本の赤をめぐる景観の源流として三内丸山の風景をとりあげ、そこに出土した赤漆の色に「日本の赤と中国の赤」に関する調査研究の拡大と深化に係わる発展的な端緒を求めたいと考える。おそらく今日の科学をもってすれば什器に見られる彩文の赤漆について、あるいは同様に出土している黒漆などに関しても、その原色を解明して三内丸山の文化に迫る可能性は考えられよう。そこから四季の自然に恵まれ秋季の紅葉があざやかな東北日本にあって、今も日本民族の心象に伝わる縄文文化に投影された赤の風景を、その植生に見られる景観の変化から考え得るとも思われる。さらには重ねて司馬遼太郎氏がこの地を北のまほろばと記した秋色を思えば、日本の赤についての源流を縄文時代の赤漆と山野の紅葉から妄想した次第について、ひとつの心象的な風景へと思いを致さざる得ない。4000年前以上もの太古に三内丸山社会が見せた情景、遠近の人々を集めた祭祀のにわに赤が演じた風景とは何であったのか。それは後世の神前に舞う乙女達の白衣紅裳とは果たして連なるものか、あるいは東アジア文化に如何なる位置を占め、それは如何なる変遷を経て今日の伝統文化と結ばれ得るのか。それは自然科学から考古学そして歴史学から文化人類学、それぞれの検討を総合した上に新しい展開を今後に期待させる課題に連なるであろう。